何やってるのかしら?
女の子、起きた
寝ていて目を閉じていたからわからなかったけど、目が黒い。こりゃ日本人確定だな。さて、どうやって話すか‥‥専門家に任せよう。
セシリアの背中を押し、その後ろにソッと隠れるようにして身を縮める。
(ちょ、私に丸投げですか!?)
(しょうがねーだろ!?俺にこんな小さな女の子との対話スキルなんてあると思うか!?)
(思いませんよ!!)
(じゃ、よろしく)
(なっ!?)
ハルの周りには、学校の友人に同門の友人しかおらず、取材などがたまにあったとしても大人の女性で、年下の女の子と関わるのは、妹の陽菜の友人に少し挨拶と同門の門下生に学校の後輩ぐらい。そんなハルに、いきなりこんな小さい女の子と会話をしろなんて、無理な話である。セシリアも、どんな風に話せばいいのかわからずに悩んでいるところにハルからまさかの丸投げ。これで更にパニックになり何も話せない。
「え、えっと‥‥」
『ふぁ!?』
情けなさすぎる‥‥女の子から話しかけてきて、しかも二人して『ふぁ!?』とか言っちゃった‥‥
「えっとね、ここって、どこ?ナギはなんで、こんなところにいるの?」
見た目よりもしっかりしてる。泣くこともなく自分の今の状況を把握しようと‥‥
グゥ~‥‥‥
「あぅ‥‥‥」
顔を赤くする女の子、これを見てセシリアは『しっかりしているなぁこの子‥‥それに比べて自分は何なのだろう』という思いを忘れ、少し吹き出してしまった。それで、より恥ずかしくなったのか頭から毛布を被ってしまった。
「あぁっ!?ご、ごめんね?そうよね、お腹空くわよね。食べましょう?もう出来てると思うの。美味しいわよ?ね?」
毛布から少し顔を出して、コクリと頷く。それから少しずつ毛布を脱いでいき、ベットを出て自分の足で立ち、セシリアと手をつないで部屋を出て行った。
「俺、何も話してない‥‥」
ハルが言葉を発したのはセシリアと一緒に放った『ふぁ!?』だけ。コミュ障(小さい子限定)にも程がある。セシリアに丸投げしたとはいえ、流石に情けなさすぎる。
ーーーーーーーーーーー
二人が扉をくぐり、暫くした後急いで後を追う。そこではもう朝食の準備が出来ており、少女の右隣にセシリア、左隣にはいつの間にか居なくなっていたフィーがいて、三人で仲良く話している。
フィーの奴、いつの間に‥‥
さり気なく少女の前に座って話を聞こうかなー。なんて考えながら、ゆっくりと歩く。そして何食わぬ顔で少女の前に座ろうとしたとき、セシリアが此方を見てふざけた事をぬかしやがった。
「ハルさんは向こうで年長組と協力して小さい子たちの相手をしててください。話は私とフィーが聞いときますから」
ふ、ふざけやがって。普通なら同郷の俺が‥‥‥
「同郷だとわかっていてさっき何も話してなかったチキン野郎がどうやって話を聞くんですか?わかったら早くあの子達を手伝って来て下さいよ」
‥‥ハーイ。
ちょっとイラッとくる所もあったが、正論なので何も言い返せずにそのまま年長組の方へと歩いていく。すると、待ちかまえていた年長組が水を汲んできて欲しいと言い、パシリ同然で先ほどの小川まで歩く。その道中で考える。あの女の子から感じた違和感を。
なんであんなに落ち着いてんだ?普通なら、もっと慌てると思うんだけどなぁ?セシリアはしっかり者って考えてるみたいだけど、それだけであんなに落ち着くものか?それともまだ実感がないだけなのか?
「うーん。わっかんねぇなぁ?」
頭をポリポリとかきながら一人呟く。
「なにがわかんないんだ?ハル?」
「そりゃ、あの女の子がなんで‥‥おはよう、ユリウス‥‥怒ってる?」
「当たり前だろう?」
今まで見たことのない程の笑顔なのに、全く笑っている顔には見えない。
「アハハハ‥‥デスヨネー」
「‥‥お前たちが戻っていることはレラには筒抜けだぞ。さっき僕の部屋に来て戻ってきた事と城を抜け出した事を報告しにきた。誰が防御結界を張っているか、ちゃんと覚えておけ」
「防御結界の事なんて聞いてないぞ?」
「‥‥そう言えばお前が帰った後だったか」
そんぐらい覚えておけよ。つか、アイツいつの間に結界張れるように‥‥無属性魔法持ってるから使えるようになってて同然、か‥‥‥
「取りあえず、城に戻るぞ。精霊武装の報告も聞きたいからな」
「あぁー、ちょい待って。その前に問題発生」
「またお前はトラブルを拾ってきたのか!?」
プルプルと震え、先ほどの満面の笑顔から一転、物凄い迫力で睨んでくる。
「そんな何時も拾ってくるみたいに言うなよなー?」
「ほう?では、エルフの里での出来事も、鉱山都市ザラムでの事件も!その他のアレやコレも全て!お前のせいではないと!?そう言い切れるのか!?」
「いえ‥‥あの、スイマセンでした。僕が、悪かったです。全部、僕のせいです‥‥けどなぁ!?聖都ネスティアでの騒ぎはお前と、お前の姉貴のせいだからな!?あれのせいで何日無駄にしたと思ってやがる!!!」
「なっ!あ、あれは姉さんのせいだろう!?僕は巻き込まれただけだ!!」
「いーや違うね!だってお前の周りにもいっぱい集まってたろ!!主に女子が!!!俺やラフムの周りには腕試しをしたいってむさ苦しい騎士団の男共しか集まってこなかったんだからな!?」
「お前、それは逆恨みだ!それに、僕はあの時お前たちに助けを求めたのに助けてくれなかっただろう!?無視しただろう!?その癖、僕が囲まれたのが女子だと知ると怒るのか!?いい加減にしろよバカハルっ!!切り捨ててやる!!!」
ユリウスが腰に吊している愛剣。『宝剣ヴェルハイツ』を引き抜き、ハルに向ける。
「テメェ!?剣を抜くってことはそれ相応の覚悟あっての事だよなぁ!?」
「当たり前だ!今までの僕のストレス、全てぶつけてやる!!」
ユリウスが飛び出す。宝剣に魔力を流し、ハルに切りかかる。
「やってみろコラァッ!!」
ハルはルークとの戦闘で剣を失っているので、拳に魔力を込め拳骨でユリウスに向かって走り出す。
「何やってるのかしら?ハル?兄様?」
悪魔がいる。
今、ハルとユリウスの目にはティアの形をした悪魔が見えた。
「もう一度言うわ。何やってるのかしら?ハル?兄様?」
『スイマセンっ!!』
土下座。
五年前、世界を救った勇者と、時期皇帝である第一皇子が、勇者の最愛の人の妹で、時期皇帝の妹に向かって、土下座をしていた。それはもう綺麗な土下座だった。見る人が見れば、勇者はともかく皇子の方には止めに入るだろう。そして、かつての仲間や、旅先で会った人々が見れば、大爆笑は必至だろうというような、綺麗な土下座なのだ。それだけ、その妹が怖いわけだが。その怖い妹は、先ほどの兄と同じように笑顔なのに、全く笑顔に見えない顔で笑っていた。
「なんで謝るのかしら?私は、何やってるのかしら?って聞いただけよ?」
ニッコリと微笑みながら再度問いかける妹。怖すぎる。何も言えずにただブルブルと震えてばかりの勇者と兄。情けなさすぎる。
「‥‥ハァ。取りあえず、なにかあったんでしょう?セシリアの所に戻りましょ‥‥‥ほら!早くして!!」
ここで機嫌を損ねたら終わりだと思い、全力で駆ける勇者と兄。
「‥‥あ、水頼まれてたんだ」
「さっさと行ってきて!!」




