お祈り
「痛いです!痛いですよぉ!!」
「うるっせぇ!テメー自分がデカくなったからって調子に乗ってんじゃねーぞ!!」
「スイマセンでしたぁっ!私が悪かったですから、もうやめてよぉ!?」
ったく‥‥五年経っても変わんねえな。コイツは
頭を抑えながら涙目で此方を睨んでくるセシリア。‥‥もう一回やってやろうかなぁ。と動き出そうとしたのに気がついたのか後ずさり木の後ろに隠れてしまう。そのままでは何も進まないので両手を挙げて、何もしないという意志表示をする。
「わかったよ。俺が悪かった、やりすぎた。だから出てこいよ‥‥」
「ホントにそう思ってるんですか?嘘だったら酷いですよ?」
疑り深いなぁ‥‥‥
木の後ろに隠れたままジッと此方を見てくる。そんなに信用無いのかね?
「セシリア姉ぇ‥‥五月蠅いよ。その人誰?」
扉が開いて十歳ぐらいの男の子が目を擦りながら出てくる。後ろには一緒に起きたのか他の子供の姿も僅かに見えた。
「起こしちゃったの?ゴメンね‥‥ほら、ハルさんのせいですよ!」
「はぁ?俺のせいかよ‥‥‥」
「全く、これだからハルさんは‥‥皆、大丈夫。この人は私の知り合いなの。少し早いけど、顔を洗って朝の支度を始めてね。後で紹介するわ」
子ども達はゾロゾロと孤児院の後ろにある小川へと向かっていく。その時、一人の少女が近づいてきて、手招きをする。ハルは少女の顔に自分の顔を近づけ、話しが出来る位置までしゃがむ。
「なんだい?」
「あのね、おにーさんは、お姉ちゃんが言ってた勇者様なの?」
アイツ、俺のこと話してたのかよ。
なんて話していたのか気になり、少女に聞いてみる。それが、爆弾になるとも知らずに‥‥
「そうだよ。俺のこと、セシリアからなんて聞いてるんだい?」
「勇者様がここに遊びに来てたのよって聴いてるよ。後ね、これは皆の内緒なんだけどね、お姉ちゃんね、毎日夜遅くにお祈りしてるの」
アイツ、シルが居なかったら聖女に選ばれてるぐらいの実力者だからな。お祈りぐらいするか‥‥
それが何故、皆の秘密なのかわからず、少女の話の続きを待つ。
「お姉ちゃんね、夜にね、こうやってお祈りしてるんだ。
『大地神様、海神様、天空神様、そして全てを司る全能神様‥‥ハルさんを、お守り下さい。もう、これ以上彼が傷付く事の無いようお守りください。‥‥私は、彼を守れないから‥‥‥』って言ってるんだ。酷い時は泣いてるの。これっておにーさんの事だよね?なんでお姉ちゃんは守れないの?」
身体に電流が走ったようになり動けなかった‥‥‥少女の問いに、答えることができない。声が出ない。少女の不安そうな顔をキチンとみることができたのは、数十秒経った後だった。不安にさせまいと声を絞り出す。
「ぁだい丈夫‥‥ゴメンね、心配掛けたね。大丈夫‥‥セシリアは、俺のことをちゃんと守ってくれてるよ。皆に伝えておいで。もちろん、セシリアには秘密にしてな」
不安そうな顔からもの凄く嬉しそうな顔になり、大きく頷く。そして皆のいる小川の方へと小走りで向かっていく。不思議そうな顔をしたセシリアが近づいてきた。
「あの子となに話してたんですか?変なこと教えて無いですよね?」
「失礼な奴だな。教えてねぇよ‥‥‥悪いな、心配掛けた」
「ふぇ?何ですか?急に?」
いきなり俺が謝って来たのでますます分からないという顔をして俺の後ろをトテトテとついて来る。
‥‥五年前となんも変わってねぇな。こういう所はあの頃のままだな。そう言えばフィーの奴どこいった?城下行ったのかな‥‥まぁ、いいか、ほっとこう。どうせ暫くしたら出てくるだろ。
「セ、セシリア姉ぇ!どうしよう!!なんか女の子が倒れてる!!!」