帰還と確認
懐かしい天井に、懐かしい匂い。
外からはバイクの排気音が聞こえてくる。
「‥‥‥帰ってきたのか」
声に出したとたん突然涙が出てきた。もう、アイツらには会えない‥‥ユリウスとバカな理由で喧嘩したり、レラと複合魔法の研究したり、オロバスとラフムの3人で嫌がるユリウスを連れて女風呂を覗きに行って、死に物狂いで逃げ回ることも出来ないのか‥‥‥(いや、これはできない方がいいのか?)
「いや、こんなこと考えてちゃダメだ。俺は自分の意志で帰ってきたんだ。それよりも、これからの事を考えるか。えっと、明日‥‥ってか、今日ってなんかあったっけ?ま、いいか」
俺は意識的にか無意識かはわからないが、もう一人いる仲間であり、そして最愛の彼女の事について、口にする事はなかった。(いや、正確にはもう一人いるのだか、俺はもう仲間だとは思っていない。)
‥‥‥嫌なこと思い出した
「ま、まぁ取りあえず起きるか!布団は名残惜しいが‥‥‥これからは毎日寝るんだからな!」
ハルは気分を紛らわせるために、わざとらしく起き上がった。その時、身体の感覚がおかしいことにようやく気がついた。いつもより明らかに目線が低く、声も高く感じる。そしてなによりおかしいのは、右腕にあった切り傷と、魔王との戦いの時に失い、義手になったはずの左腕が元に戻っていたことだ。
これは流石に驚いた。
傷や腕は苦手ながらも少しは使える幻影魔法を使えば、あちらの世界ならともかく此方では隠せると思っていた。が、いくらなんでも腕が生えて傷が無くなるのは有り得ない。そんな聖魔法が使えるのはあの駄女神か聖女くらいのものだ。けど、駄女神は帰ってくるとき会っていないし、聖女は‥‥もういない。
いや、新たな聖女は選ばれたが、まだ修行中でそこまでの聖魔法は使えない。
と、いうことは
「か、身体が二年前に戻ってる‥‥?いや、そんなことより、なんで今まで気づかないんだよ」
自分の鈍感さが嫌になるな‥‥って、それはどうでもいい。今は体の変化についてだ。
こんなことができるのは女神とそれに仕える天使ぐらいだろう。が、あの女神はしない、絶対に。なら、他にできる奴を俺は一人しか知らない。アイツの隣にいた、女神より女神らしい天使だ。
まさか、身体以外にも二年前に戻ってる事があったりして‥‥‥
「うーん‥‥‥出来ればもう使いたくないが‥‥この際しょうがない」
向こうには戻りたくないが、得た力は俺の財産だからな。使えるものは使う。それが俺の得た教訓の一つだ。
「光球」
いつも通り自分の手のひらに光の球を思い浮かべる
※光球‥‥基礎魔法の一つ。
この魔法はイメージをするだけで使うことができる。魔力も通常の人間が扱う30分の1で勇者である俺は使うことができる。(しかし、スキルのおかげで上限のなかった俺は、魔力が減った事に気づけない)
この魔法は、他の火・水・風・土の5属性があり、小さい子供はこれで自分の適正属性を知ることができる。人は多かれ少なかれ魔法を使うことができ、球が大きいほど、魔力量が多いことを示している。
魔法は使えるな‥‥‥‥正直、使えなかったらどうしようかと思ったがまぁ、なんとかなった。だが、問題もあった。それはスキル『魔力無限解放』のおかげで魔力が減ったことに気づけない筈なのだが、スキル発現前の魔力の抜ける虚脱感が俺を襲った。
久しぶりだな。これはまさか
「まさかなぁ‥‥‥」
俺は半ば確信しながら、だけどもう半分に期待感を込めて、ステータスを開く。
「ステータス・オープン」
蓮川 春人
称号 異世界人
フィルニールの英雄
スキル 異世界言語
勇者の残りカス
魔法 火魔法上級
水魔法中級
風魔法上級
土魔法初級
聖魔法初級
精霊術(使用不可)
「やっぱり」
勇者関連のスキル・称号が消え、そこらへんのS級冒険者となんら変わらないステータスにまでおちている。装備からは聖剣を呼び出す為の指輪が無くなっており、スキルに関しては‥‥‥これもうスキルじゃねーよ。なんだこれ。呆れながら見てみると、
勇者の残りカス ※勇者の力の残りカス
‥‥まんまだな。まぁ、勇者の力なんて一番いらないからいいけど。それよりも、『魔力無限解放』が消えたのは痛い‥てか、あれ勇者関連だったのか。確かにある程度勇者として慣れ始めた頃に出現したけど‥‥‥わっかんねーよ。まぁ、いいか。別にもしもの時しか使わないからな、この力は。精霊術はなんで使用不可なんだ?詳しい説明を見ようとすると
「おにいちゃーん。朝ご飯できたから起きろだってー学校遅刻するよー?」
妹の陽菜の声だ。そうだった、今日から二年前の生活なんだ。くそっ、やっぱりステータスなんて見るんじゃなかった。勇者の時のステータスが少しでも変わったら確認して、他の所もついでにみる癖がぬけてない‥‥‥まぁ、これは時間の問題だな。これからステータスが変わることなんてないし。
「今いく!!」
もう考え無いようにしよう。
俺は久しぶりの家族に会いに、下に降りていった。