逃走
警察のサイレンの音と、学校の側を通った野次馬の声。それに、どこから聞きつけたのかテレビ局も来ている。
私は、泣き止んで少し落ち着いた所だった。
「陽菜、落ち着いた?歩ける?」
お母さんだって辛くて、泣きたい筈なのに、私のことを気遣ってくれる。
私は頷きながら
「ありがとう、お母さん。もう、大丈夫‥‥そうだ、アーニャ迎えに行かないと、もう約束の時間とっくに過ぎてる‥‥‥」
「大丈夫よ。お父さんが迎えに行ったわ。アーニャちゃんの写真も持たせてあるし、ちゃんと会えるはず。‥‥一応、アナタの写真も持ってるしね。多分、アナタの写真見せずに近づくとお父さん、不審者と間違えられちゃうから」
「そうだね‥‥」
お兄ちゃんなら、なんて言うかな‥‥私が、「お父さんなら、私の写真見せながら近づいても不審者に間違えられる」って言ったらお兄ちゃんが、「じゃぁ、賭けようか。父さんが不審者に間違えられるか。それとも、誘拐犯か」ニヤリと笑いながら、そう言ってくるんだ。私は、「どっちもありそうで決められない」
って笑うんだ‥‥‥
「くっ、うっ‥‥うぁ‥‥‥うぁぁぁぁぁぁぁ」
私はまた崩れ落ち、鞄にもっと力を込めて泣き出した。お母さんは、何も言わずに胸に引き寄せギュッと抱き締めてくれた。
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私が泣き止んで少しした頃、教頭先生が警察の人を連れて走ってきた。先生が言うにはこの教室を閉鎖して、警察に任せるそうだ。私達は一応の取り調べがあるけど、今日の所は帰って、身体を休めてくれと言われた。けど、学校の外にはテレビ局や記者の人が群がっていて出られそうにない。
「私が家までお送りします。外に出るときカメラ等がうるさいと思いますが、少しの間我慢していて下さい」
「お願いします」
母が私を支えてくれる。動き出すようだ。今の私に、自力で立つ力は無かった。
「我々がお守りします。教頭先生は直ぐに車を出せるようにしてください」
「わかりました‥‥では、行きましょう。警察の皆さん、お願いします」
教頭先生の車が止めてある裏門の方から出るようだ。が、そこにもカメラや記者等が大勢いた。
私達は直ぐに囲まれた。フラッシュが眩しく、皆が口々に聞いてくる。
「クラス全員失踪というのは本当何ですか!?」
「蓮川選手も巻き込まれたという情報も入ってますが、それについてコメントお願いします!!」
やっぱり、お兄ちゃんの事もバレてる。
まったく、変に目立つからこんな事になるんだよ。お兄ちゃんのバーカ。
「あれっ?もしかして、蓮川選手の妹さんですか?それにお母さん?」
ヤバい、こっちもバレた。ホントお兄ちゃんのバーカ!!絶対に何か奢らせてやる!!!
「やっぱり!妹さんですよね!?何か、一言お願いします!!」
「娘は今疲れてるんです!通してください!!」
「お母様も!何か一言!!お願いします!!!」
「何も言うことはありません!!通して!!!」
あぁ、こっちの騒動を聞きつけた正門にいた人達が集まってくる。私達は動けなくなる。
「おい!警察だ!!離れなさい!!!‥‥‥先生!車の手配を!!」
「は、はい!!」
先生が車に向かって走る。
車を此処まで持ってくるようだ。教頭先生がカメラや人を頑張って避けて車に辿り着く。
‥‥先生、カツラが取れてます。
クラクションを鳴らしカメラを退ける。先生の車が目の前で止まった。
「さぁ!二人とも、乗ってください!!」
私達が逃げるとわかって最後の足掻きとばかりに押し寄せてくる。私達は車に乗り込み、私達を守ってくれていた警察の人達が道を作ってくれた。その一瞬を逃すまいと先生はアクセルを思い切り踏み、学校の外へと車を走らせた。