精霊王
「なぁ、フィー。お前、最初部屋に突っ込んで来てから、どこに行ってたんだ?」
「なんか難しい話初めて暇だったから中庭で遊んでた!」
「ふぃー‥‥ハル、着いたよ!!」
「あぁ、お疲れ様。フィー」
俺とフィーは王宮の部屋に精霊しか扱えない『抜け穴』を使い、精霊王のいる時空まで来ていた。
「さて、フィー、どうする?俺は精霊王の所行くけど、一緒にくるか?それとも他の精霊達の所に行ってるか?」
「うーん‥‥ママにはこの前会ったし、皆の所に行ってくるね!」
「りょーかい。んじゃ帰る時になったら呼びに行くな」
そう言ってフィーと別れ、1人精霊王の住処へと飛んでいく。
「やっぱ飛べると楽だなぁ‥‥地面が無いのは怖いけど」
しばらく飛んでいると一際光を放っている場所が見えてきた。
「眩しいなぁ‥‥」
俺は光の中へと吸い込まれるように入っていった。
光の中は外の少し暗い森林ではなく、上は光に包まれ、葉と葉の間から零れる光が暖かく気持ちがいい。
外が少し暗く思えるのは、この中が明るすぎるせいだろう。
「久し振りね。坊や」
突然話しかけてきたのはエルフに似ているがエルフ顔負けの美貌と、エルフにはいない出てるところは出ている、不自然な程に美しい女性。
「久し振り。変わってないな、精霊王」
「ふふっ、坊やは少し小さくなったかしら?それにボロボロじゃない。どうしたの?」
「わかってんだろ?とぼけんなよ」
「まったく、切羽詰まってる時はホント可愛くないわね?‥‥えぇ、女神様から聞いているわ。世界を救ってくれるんでしょう?」
「別に、俺はルークと堕天使の件を片付けに来ただけだよ。世界を救うとか、そんなデカい事はもうやったからな」
「そうね、五年前‥‥いいえ、坊やにとってはほんの1ヶ月位前の事。坊やには感謝してもしきれない‥‥だからこそ言うわ。坊やは元の世界で幸せになって欲しい。もう、傷ついて欲しくないわ」
「断る。ルークとの因縁は俺が決着をつける」
「ダメよ。坊やはもう十分傷ついたわ。後のことは私達に任せて、お願い‥‥」
「子供扱いすんなよ。もう十分傷ついてんだ、これ以上傷つくことなんてねぇよ」
「それがダメなのよ。聞けばアナタ向こうで1日経ってなかったんでしょう?私達には五年あったから傷は癒えてきている。けど坊やは癒える癒えないの段階じゃないでしょう?これ以上は心が壊れるわ」
「それでもいい。アイツを殺して、この世界が救われるならいくらでも壊れてやるよ」
「それじゃダメだから帰れって言っているの。聞き分けの無いことを言わないで」
「俺が帰ったらこの世界は終わるぞ」
「元々この世界の事は私達が決着をつけるべきなのよ。前回も、そして今回も。これ以上坊やに頼るのは良くないわ」
「そういうのは前回ここに来たときに言って欲しかったな。今更おせぇよ」
「確かに、遅かったかもしれない。けど、あの頃の坊やは止まらなかったでしょう?今回はここで踏みとどまって。お願い」
「それこそ無理だろ。俺がここに来たのは力を得るためだ。これを聞いても踏みとどまると思うか?」
「力?‥‥坊や、アナタもしかして勇者じゃないの?」
「なんだ、コレは聞いてなかったのか?そうだよ。『勇者』じゃシルは守れなかった。だったらそんな力いらねーよって言ってきたんだよ。けど、それじゃ当然だけど誰も守れなかった。追い返すのが精一杯だったよ」
「もうルークと会っていたのね(腕はその時に無くしたのね)‥‥」
「あぁ。その時は精霊の力を借りてなんとかなったけど、これから先はそうはいかない。だから力を貰いにきた」
「精霊の力を借りた!?ちょっと坊や、それは死ぬ可能性が有るって‥‥」
「けどあの時はそれしか方法がなかった」
「そうかもしれないけど‥‥やっぱり、女神様には悪いけど帰って貰うわ。力も渡さない」
「そんなの、素直に聞くとでも思ってんのかよ?」
「聞かないでしょうね。だから‥‥無理やり聞かせるわ」
「やってみろよ、若作り」
精霊王は無言で手の平に小さな火の玉を作り‥‥
「‥‥お仕置きよ、坊や。
咲け、『炎華』
乱れろ、『風華』」
※炎華‥‥スピードと貫通力に特化させた精霊術
※風華‥‥光、闇以外の『華』の精霊術のスピードと貫通力を底上げするサポート術。一応攻撃としても使えるが、サポートに特化しているため、あまり攻撃としては使われない。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
代々精霊王は、植物をモデルにして術を構築している。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
精霊王の手の平から無数の『炎華』が『風華』によって強化され飛んでくる。ハルはアイテムボックスから剣を取り出し右手で対応しようとするが‥‥
「うおぉぉ!?今剣無いの忘れてたぁ!?」
着弾。これには精霊王も驚き、固まるがすぐに持ち直し急いでハルの元へと行こうとする。が、その瞬間土埃の中から先程精霊王の撃った術と同等。いや、それ以上のものが向かってきた。
精霊王はこれを咄嗟にクロスさせた腕で防御。しかし威力が高いため腕を貫通し、そこで術が消失。
「ぐうぅっ!?」
精霊王は腕を治癒しながら後ろに飛び退く。
土埃が徐々に晴れ、二つの影が見える。
「まったく。これはどういうこと?反抗期?ママ悲しいわ‥‥」
「なんで、こんな事するの‥‥ううん、やっぱり聞きたくない。どんな事情があっても、ハルを傷つける人は許さない!!ハルは私が守るの!あの時、誓ったから!!」
「そんなこと言って、私に勝てると思ってるのかしら?フィー!!」
次の瞬間、二つの影が同時に動き出した。




