力の差
「ハル~?大丈夫ぅ~?まさかこんなのにも反応出来ないなんて思わなかったんだ。許してくれよね?」
「ん、ぅあ‥‥ルー‥‥っつ‥‥‥ク‥‥‥‥!?」
剣を持っていた左腕は消し飛び、有り得ない量の血が流れ、瞬時に出した魔力は、腕とともにかき消されていた。
勿論、ルークの方は傷一つ付いていない。それどころか、アイテムボックスから剣を取り出した様子もなかった。ルークは、素手でハルの全力を防いだのだ。
どうなってる!?腕を動かした所までは見えた。けど、その後コイツは何をやった!?
「うーん。やっぱり弱いなぁ‥‥悲しいよ、ハル。どうしたんだい?前はもっと‥‥もしかして、『勇者』の力が無くなったのかい?そうか、そう言えば昼、今代の勇者選定って言ってたね。その子に勇者の力を渡してしまったのか。そうか‥‥‥だったらますます悲しいよ、ハル。君は、勇者の力がないとこんなもんなんだね。ホント、君は弱いなぁ。ハル」
首を左右に振り、ヤレヤレ‥‥と言いたげな表情で近付いてくる。ハルは魔力が枯渇した状態でマトモに動けなくなっている。
「ルークゥ‥‥てめぇ、ひとりで納得してんじゃねーよ‥‥‥お前ぐらい、一人で」
「まだ起き上がるのかい?片腕を無くし、魔力も打ち消されてからっぽ。それでどうやって僕を殺すのかなぁ?」
「うるせぇよ。んなもん、腕一本でも多いぐらいだぜ‥‥」
「‥‥そうだったね。君はそう言うやつだ。なんだかんだ言って勇者として、いや、それ以上にこの世界を救った英雄だ。うん、流石だよ。‥‥‥けど、僕は」
「っ!?あぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「僕は、君の事が、この世界が!嫌いだよ!!ハルゥゥゥッッ!!!」
ルークは次々と俺の身体をいつの間にか出てきた剣を使い刺していく。どこにでもある普通の剣。そんな剣で魔力が枯渇しながら、何とかかき集めた魔力で張った魔力障壁をスルスルと壊し、身体に差して、抜いてを繰り返す。
「さっきは左腕だったから、残った右腕から‥‥‥次は左目、右足、左足、右の手の平、脇腹、太ももを右左両方」
「ぁああぁぁぁがぁぁぁぁッぁぉぁぁぁぁががぁぁぁぁぁぁぁっぁがアぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁがっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッっッっ!?」
俺の体は自分の血で覆われていく。右目を残したのは、シッカリと力の差を目に焼き付けろ。という嫌がらせだろう。
「うーん、やりすぎたね。このままじゃ死んじゃうから、止血してあげるよ!ハルッ!!」
ルークはそう言って刺した部分に的確に火球を押し付けていった。鼻の奥が、血の匂いから血が焦げる匂いに上書きされていく。
「あぁ゛ぁぁあ゛あぁぁがあああぁぁぁがぁぁぁぁぁ゛ぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁがああぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛ああぁぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
「うわっ焦げ臭いねー。どうにかしてよ、ハルゥ?」
ニヤニヤと笑いながら火球を消してハルの苦しそうな顔を覗き込んでくる。そんな姿をみて、ボロボロの身体に鞭を打って立ち上がろうとする。が、
「だめだよ立っちゃ、ホントに死んじゃうよぉ?」
「!?あがぁっ!!」
ルークは立ち上がらせまいと、腹の上に左足を乗っけてきた。焼かれた傷口から血が少し飛び出る。
「て‥‥めぇ‥‥‥っは」
「ん?なんだい?ハル?」
「てめぇ‥‥‥は‥‥‥俺を‥‥殺したい、のか‥‥殺したくないのか‥‥どっちなん‥‥‥だ?」
「んー?そうだねぇ‥‥‥」
「がぁぁっ!?」
腹に乗せる足に力を入れながらルークは言う。顔に歪な笑みを張り付かせながら、乗せている足に力を込めて、腹を潰そうとしてくる。血が小さな噴水のように飛び出し、雑草を緑から赤に染め上げる。
「僕はねぇ?君を苦しませながら殺したいんだよ!ハルゥ!!」
「あがぁぁぁァァぁぁぁぁぁァぁぁァァぁぁぁがぁァ!?」
「アハハはははハはははハはは!!」
「その足をどけろ。屑やろうっっ!!」
「!?」
ハルの苦痛に歪む顔をみて高笑いをしているルークは、叫び声と共に飛んできた殺気に気づきハルの腹から足をどけて後ろに下がる。叫び声の主は、ハルを守るように前に立ち、暗闇に少し隠れたルークを睨み付ける。
「ユリ‥‥ウ‥‥ス‥‥‥?」
「大丈夫か、ハル!?」
叫び声の主は、ほんの少し前に怒鳴ってしまった親友だった。




