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もう一度、あの世界へ

『気が変わった。勇者はやらんが話すだけ話せ』

‥‥‥なんて、言わなきゃ良かった。なんかもう向こうに行く準備始めてる。


「おい、行くとは言ってないぞ。話を聞くだけだ」


そんな絶望したような顔しなくても。ちゃんと話を聞いてないお前が悪い。


「は、話だけ。それも勇者はやらないって‥‥」


「あぁ。もう勇者はコリゴリだ。他の奴にしろ」


「じゃ、雫さんで」


「却下」


「「‥‥‥」」


二人で睨み合う。少しの間、そのまま固まり‥‥先に痺れを切らしたのは女神の方だった。


「なんでですか!?彼女以外に勇者の素質持ちはいないんですよ!?」


「その素質は元々俺のだ!それに、別に勇者いなくても問題ないだろ!?しょせん称号なんてステータスだ!!」


「な、春人さんはそうかも知れませんが向こうにとって勇者は特別な存在なんですよ!それをステータスだなんて‥‥‥なに考えてるんですか!?」


「んだと!?」


「なんですか!?」

  

子供の言い合いのようにお互いの言葉をぶつけ合うだけの低レベルな言い争いをする。どちらも引く気はない。


「そのことは後にして、まずは何があったのか話してくれよ」 


「‥‥わかりました」


不満そうだな、オイ。このまま言い合っても良いんだぞ?アァ?

ちょっとイラッとしたが、女神は構わずに話を始めた。


「えっとですね、春人さんは魔王城一帯を消滅させたじゃないですか?」


「あぁ。させたな。覚えてないけど」


「その魔王城があった場所に、また城が建ったんですよね。それも一夜の内に」


「は?それはないだろ?アソコはなにも無いはずだぞ?幻影とかじゃ無いのか?それでも魔力量がおかしいが」


「ちゃんと建ってますよ。私も確認しましたから」


「ん?じゃ、どうやったんだ?魔法でそんな事ができるものはないし、唯一そんな事ができる可能性のある『再生』の魔術は禁術だろ?それ以前に、今、『再生』の魔術の使い手は俺以外に居ないはずだが?」


「いえいえ、『再生』の魔術じゃ無いですよ。これは女神の仕業だと考えています」


‥‥‥ん?何を言い出すんだコイツは?自分でやった事をわざわざ俺に壊せに行けと?


「お前、自分のしたことも分かってないのか?大丈夫か?」


ハッとしたように手をブンブンと振って否定してくる。女神の言い方だと、自分で建てたように聞こえるのに気づいたのだろう。


「ち、違いますよ!?私じゃなくて、他の女神です!ここら辺の管轄は私ですけど、他にも管理者と呼ばれる女神や神がいるんですよ!!」


「あぁ、なるほど‥‥あれ?なんで他の管理者が向こうにいるんだ?管轄があるんだろ?」


「そこなんですよねー。新しい管理者候補を寄越すとは聞いてないんですが」


「管理者候補?」


「管理者候補というのは、その名前の通り私達の候補。先程の天使も、私が万が一消えて次が来るまでの補欠です。まぁ、通常は私のサポートですね。そのまま天使が管理者になる場合もあります。というか、その方が多いですね」


「ふーん。けど、お前は消えてないのに新しい管理者が来てる‥‥‥おかしいよな?天使もいるんだから来るはずないよな?」


「えぇ、管理者が来るのはあり得ないですので、この可能性はないでね。ですからこれは最悪の事態ですね。向こうにきた管理者に似た存在。堕天使ですね」


ん?また新しい奴きたな?どんだけ厄介事抱え込んでるんだ?コイツらは。


「堕天使とは、管理していた世界を通常の流れから外してしまった者のことですね。そういう者は我々管理者に力を与える全能神様に堕天させられ天使にまで格下げされるのですよ」


ふむ‥‥ようするに、だ


「その堕天使が向こうの世界で残った力を使って変なことを始めている可能性があると?」


「そういうことですね!」


自分はやり遂げたっ!!みたいにふんぞり返り、大きいメロン二つを揺らしている。が、ふんぞり返り過ぎて後ろに倒れていた。アホだ。


「話はわかったよ。それをどうにかしろ、もしくは原因を見つけて対処しろと‥‥‥てめぇでどうにかしろ。俺達には関係ない」


無駄な時間使ったな。此処に居るのって、元の世界だとどんだけ時間が経ってるんだ?まぁ、陽菜が怒ってるのは確実‥‥どうしよ。なんか奢らされたり‥‥‥そう言えば金どこにあるか分からなくて持ってきてねーわ。


「ちょ、ちょっと待ってください!? これをどうにかしないと皆さん死んでしまうんですよ!?」


ふんぞり返ってぶつけた頭をさすりながら、ガバッと起き上がってくる。


「‥‥‥俺はもう関係ない。それに、これはお前ら神の問題だ」


「そんな‥‥‥では、これを聞いても、そんなことがいえますか?」


今度はなにした?ホントにやられたい放題だな?そんなんだから俺に頼る羽目になるんだよ。








「ルーク・カーライルは死んでおらず、生きているとしたら?そして今回の事にも関わっているとしたら?ハルさん、どうしますか?」







‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥なに?






「どういうことだ?アイツは俺が殺した。聖剣で、殺したんだ。それが生きていた?しかも今回のことに関わっている?‥‥‥ふざけるなよ。冗談もほどほどにしておけよ」


「ふざけていませんよ。事実、五年前に春人さんが殺した魂の中にルークは居ませんでしたからね」


‥‥‥アイツが、生きている?‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥くそっ。最初にコレを言えよ。そうしたら‥‥‥もう一度だけ、剣を握るのに。


「いいぜ、もう一度行ってやるよ。あの世界に。そして、ルークを殺して帰ってくる。これでいいな?」


「できれば堕天使の方も‥‥‥」


「ついでだ、やってきてやる。だか、勇者はやらない。あの力は持ってるだけでも胸くそ悪い」


あんな、誰も護れないような『力』は、俺には必要無い。


女神の顔が晴れやかになり、その次の瞬間には絶望したような表情になっていた。忙しいなコイツ。


「そ、そんな!?勇者の力無しでどうやって‥‥‥」


「俺には二年間の積み重ねがあるし、向こうに戻れば精霊魔術もある。基本魔法はそんなに使わなかったからな」


「うー‥‥‥で、では他の皆さんになにかしらの特技みたいなものを‥‥‥」


「アイツらは置いてくぞ。コレは俺の問題だからな」


「えっ‥‥‥そ、それは出来ませんよ?だって、同じ召喚魔法陣で喚ばれましたから‥‥‥あ、もう時間ですね。じゃ、行ってらっしゃい。今度もある程度の念話は出来るようにしときますね。では」


‥‥このクソ女神ぃぃぃぃっ!!時間きたら結局いくんじゃねぇーか!!!


俺はそれを言葉にできないまま、ニヤニヤ笑っている女神の顔を見て意識を失った。


勇者の力でどうこう言わなかったのは時間がヤバかったからか。考えやがったな。クソ女神。

つか、そこまで大事じゃねーのかよ。勇者の『力』って‥‥‥


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