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化物フレンド  作者: 日向 葵
出会いと始まり
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第5話:お仕事の報告

 私たちが向かった小さな町にひとつだけ大きな建物が存在する。

そこは冒険者ギルド。

町の人がなにか困った事や不安な魔獣の情報などを依頼として張り出し、また、名指しでして冒険者に仕事を振るう。

言わば冒険者の事務委員みたいなもんだ。

さて、私も今回の魔獣の調査について報告をしに来たはずだったんだけど困ったことが起きた。


「お前は一体何をしているんだ。馬鹿なのあんた。自分の仕事がなんだかわかったいるの」


報告した途端に、受付のおば…お姉さんは鬼のような形相で怒鳴りだした。

 そう言いながら、机をドンと叩きつける。

その怒鳴り声はギルド内に大きく響き、周りのほかの冒険者たちがざわめき出す。

ちらっとこちらを見た冒険者が結構いたようだったが、鬼の形相をした受付のお姉さんを見た途端にさっと目をそらす。


確かに顔は怖い。私もさっきから泣きそうになっている。でも私はきっちり仕事をこなした。怒られる筋合いはない。はやくお金もらってヴェルディとご飯を食べに行かなくてはならないのに。せっかく少し心を開いてくれたんだ。あの子が辛い目にあっていた分もっと幸せになってもらわないとね。

そういう訳でこの怖い受付のお姉さんに講義してみる。


「ちゃんとわかっているよ。私はちゃんと仕事をこなしたじゃない。魔獣の遺体もちゃんと持ってきたでしょう」


「あんたの仕事は森にあわられた化け物の調査でしょう。もし、あれが調査対象の化け物だったとして、あなたは特徴や生息域などの調査をすることが仕事だろうが。討伐が仕事じゃねぇ」


 私のお気に入りいマントの襟を掴み上げて、顔を近づけて怒鳴りつけられた。


「お前、もしかしたら死んでたかもしれないんだぞ。そんな馬鹿なことしやがって。これだから新米冒険者は」


「ははは…」


そんなことを言われると、私は笑うしかない。怒られるのは仕方がないことかもしれないけど、冒険者ギルドの入口付近で待たせているヴェルディが気になる。あの子は今まであの森で過ごしてきたのだろう。こんな大量の人がいる場所に一人では不安でいろんな人に威嚇しかねない。私は早くヴェルディの元に行かなければ。

でも、この鬼バ…じゃなかった。受付のお姉さんを説得して抜け出せることができるのだろうか。いや、できるはず。


「えっと、あの…」

「あぁん。てめぇ、まさか逃げようとか思ってるんじゃねえだろうな。お前にはこのあと冒険者としての心構えをきっちりと教えてやらないといけないんだ。逃がさねえぞ」


どうしよう逃げられない。ごめんね、ヴェルディ。私はまだ抜け出せないよ。

ポロリと心の涙が流れるような気がした。きっと私はギルドの奥に連行されて、長い長い話を聞かされるんだろうな。

そんなことを思っていたら、マントをクイッと引っ張られる。その方向を見るとヴェルディがいた。

ヴェルディはグルルと威嚇しながら、受付のお姉さんを見て、言い放つ。


「リムをいじめるな。ガルルルルル」


威嚇はするけど殺意は出さない。人と一緒にこれから過ごしていくんだから、殺気は出さないようにねと私と約束してくれたことを守っている。なんて賢い子なんだ。


「リム、報告?が終わったらご飯食べに行くんでしょ。この鬼婆はほっとこうよ」


ヴェルディの一言で冒険者ギルド内にいた全員が凍りつく。

ヴェルディよ。言ってはならないことを。


私はビビリながら受付のお姉さんの方を見る。ああ、なんということでしょう。


さっきまでは鬼のような感じだったのに今では天使のような微笑みを。

 雰囲気が一転して変わった受付のお姉さんがヴェルディを見る。


「お嬢ちゃん。私は鬼でもババアでもないよ。だって私まだ十九歳よ」

「えっ、そんなんには見えないけど」


ブチッと何かが切れるような音がした気がする。これ以上ヴェルディになにか言わせるともっとややこしいことになる気がした。


「ごめんなさい。この子は私の友達なの」

「あら、いつも一人でいたあなたの友達なの。本当にそうなのかしら」


天使のような微笑みの受付のお姉さん。その笑みが怖いです。でも私の友達ってところを信じてもらえないあたりちょっと寂しい気持ちになった。そんな信用のない私のことをヴェルディがフォローしてくれた。


「リムはヴェルディの友達なの。町につく前の森で友達になったの。私をあの森から連れ出してくれたの。リムいじめるな。ガルルルルル」


そんなことを言ってくれると嬉しいじゃない。確かに私には友達と呼べる人は今まで一人も…変人は知り合いがいるけどあれは友達じゃないので、私には今まで一人も友達がいなかったことは事実だ。ずっと私を育ててくれた冒険者の後についていて、冒険者になるために離れたら昔のトラウマがちょっと蘇って上手く知り合いができなかっただけだ。でも受付のお姉さんは、ちょっと驚いた顔をしていた。

え、なんで。


「リム、貴方にもとうとう友達ができたのね。しかも森から連れ出したっていうことはあの魔獣はこの子を守るために。すごく偉いじゃない。ごめんなさいね。私、ちょっと勘違いしていたわ。確かに仕事内容は調査だったけどその子を守るためなら仕方ないはよね。はい、これが今回の報酬ね」


なるほど。トラウマのせいで人と関わることを苦手にしている私がこの子を助けるために命を張ったと思ったから驚いたのね。

私は、ありがとうと言って報酬を受け取る。


「ところで、その子はこれからどうするの。親御さんとかさがすの」


ニヤケ顔で聞いてくる受付のお姉さん。きっとこの子の親を探したりすると思っているのだろう。


「この子は母親がいないみたいなの」

「え、それじゃあ孤児院とかに預けるの。なら私から連絡して手配するけど。どうする」

そう、この子の親はいない。一人ぼっちだ。

でも、私はこの子を助けたいと思った。幸せにしたいと思った。だから、答えは決まっている。


「この子は孤児院にあずけません。私がこの子を引き取ります。私のことを引き取ってくれた冒険者のように、今度は私がこの子を育てます」


少し広めな冒険者ギルドに響き渡るような声で私はこのこと一緒に暮らしていくことを宣言した。

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