第4話:化け物少女、名前はヴェルディ
「さっきは勢いで連れ出してしまったけど、これ忘れてったわ」
寂しそうな少女を助けるのも大切だが仕事も大切だ。仕事してお金稼ぎもしないと生きてはいけないのだ。
「ごめんね。さっきは勢いっで連れ出しちゃったけどこれも仕事だから」
「そんなことないよ。連れ出してくれようとして嬉しかったよ」
「そういえば、自己紹介もしてなかったわね。私はリム。見ての通り冒険者よ。あなたの名前は」
そう言うと、なぜか目をそらす。
あれ、どうしたの。
少女はうつむきながら小さい声で呟く。
「わ・・・な・・・・て・・」
「うん?ごめんよく聞こえない」
上手く聞き取れなかったので、聞き返すと少女は大きく息を吸って
「私に名前なんてない」
涙目で言い張った。少し震えながら言い張った。ちょっと可愛い。
でも、名前がないってどういうこと。
ってそういえばこの子は化物の子で化物は名前なんて付ける必要がなかったのかな。
そんなことを考えていると少女は私のマントをつまんで上目遣いで見つめてくる。しかもちょっと涙目で。
しかし、この子はちょっとどころか凄くなついてきているような気がする。さっきまで私に殺気を向けていたのに。ちょっと警戒心
ときすぎじゃないかな。
嬉しんだけど、変な人に騙されないかちょっと心配になってきた。ここはちゃんと言っとかないと。
「ねえ、いきなりどうしたの。さっきまで私にあんなに警戒していたのに。今のあなた見てるとちょっと心配よ」
そう言うと少女は首をかしげて。
「リム?」
「うん。どうしたの」
「私のこと捨てるの?さっきは私を連れ出してくれるってって言ったのに。ぐすん」
「そ、そんなんじゃないよ。ただ、いきなり警戒心無くしちゃったから心配になっちゃったのよ。変な人に騙されたらどうしようって」
「大丈夫。私を連れ出してくれたリムだから信じるの。ほか人は、まだ怖い」
私だからって嬉しいこと言ってくれるじゃない。
私は少女の頭を優しくなでる。そうすると少女は気持ちよさそうに微笑む。
そうすると、私は少女はなにか閃いたように元気よく私を見つめる。
「つけて」
「つけてって何を?」
「名前。私の名前。私はお父さんもすぐにいなくなっちゃって、それから一人ぼっちだったの。だから名前ないの。私を連れ出してくれるって言ってくれたリムに私の名前付けてもらいたい」
この言葉を聞いてなんだか懐かしい気持ちになった。私も子供の頃助けてくれた冒険者に同じようなことをいったことがある。
私が名付け親になるって思うとちょっと緊張するな。
でも、この子を見たときにちょっと思いついた名前がある。なんとなく閃いた的な感じだったけど、私は思いついた名前を少女に告げる。
「じゃあ、ヴェルディなんてどうかしら」
「ヴェルディ、ヴェルディ。私はヴェルディ」
きゃははと笑いながら自分の名前を叫ぶ少女、ヴェルディ。
「この名前はね、海を渡った先にある別の国では幸福って意味を持っている言葉なの。今までは大変だったかもしれないけど、これからは大変だった時よりも幸せになってほしいなって思ったのやだかな」
「そんなことない。私、すごく嬉しいよ」
笑顔で喜ぶヴェルディの姿を微笑ましく思う。
また、一歩近づけた。私が助けくれた冒険者のように今度は私が救ってあげる。そう胸に誓って、ヴェルディを呼ぶ。
「ヴェルディ。そろそろ準備も出来たし、街に行ってご飯にしましょう。」
「ご飯。ご飯。どんなご飯。生肉、怪しいきのこ、イモムシ、タガメ、たんぽぽ…」
「ちょっと、なんなのその歌は」
「これはね、美味しいご馳走のうた。ここらへんだと生肉とかイモムシとか美味しいよ」
この子は化物の子供だとも改めて実感した。
私が子供の時、同じことしたらお腹壊して死にそうになったしな。
ちなみに、イモムシ食べた次の日に腕に大量の卵を産み付けられていたらしく、朝目が覚めたら、腕からイモムシが大量に生まれていたために虫嫌いになったのだ。まあ、そんな話は今は関係ないが…
「そんなのよりも、もっと美味しいものがあるわよ。ほら、行きましょう」
そう言って私はヴェルディの手をつないだ。そして、町に向けて二人で仲良く歩き出した。