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Magic World  作者: 速人いとし
シオン編
2/45

2.出会い

今の状況が理解できず、思考が停止してしまう。

記憶もこんがらがって抜け落ちている部分がある。

体を起こそうとすると、いたるところが悲鳴をあげた。


「ダメですよ!まだ、起きちゃ…!ひどい傷なんですから。」


目の前の可愛いらしい女の子はそう言って僕をまたベッドに寝せた。確かに体中、切り傷や打撲だらけ…。


「すいません。私たち治療ができないから…。痛いですよね。」

「いや、大丈夫。」

ものすごく痛いが我慢できないほどじゃない。それにしても治療が出来ないってバンソウコウもないのか。たしかに家はボロくて貧乏そうだけど。


「僕はどうしてここに?」

「モンスターに襲われて怪我してたからお父さんが運んできたの。」

小学生っぽい女の子は申し訳なさそうに答える。治療出来なかったことを気にしているのだろうか。


「じゃー、ここは君の家?」

「はい。そうです。」

そっか。と、返事をしたあと彼女の発言に疑問を覚えた。


「ねー、その…。聞き間違いかもしれないけど…さっきモンスターって言わなかった?」

そう言うと女の子が驚いたような顔をしたので少し安心した。

「そうだよね。聞き間違いだ…」

「はい。言いましたよ。」


あれ?言ったの。モンスターって。

僕がぽかんとした顔でもしていたのだろう。女の子は心配そうに僕の顔を除きこむ。

「もしかして覚えていませんか?」

何を?と思わず問い返してしまった。


「何があって今ここにいるのか。」

確か今日は哲学の授業で…。頭の中にあるこんがらがった記憶を絡まった紐をほどくように整理する。

あっ、そうだ。

「歩道橋…。」

歩道橋から突き落とされたんだ。

そして怪物に…。


突如、人が手から火を出しているシーンが思い浮かんだ。

「もしかして君も人間じゃないの!」

「えっ?!わっ、私は人間です。」

女の子が両手の平を振って否定する。


そんなことを言われても到底信用することは出来なかった。

僕が怯えた視線を女の子に当てる。

「とにかく落ち着いてください。私はあなたの見方です。」

「何を根拠に?」

「根拠はありませんが…。でも、怪我しているあなたをここまで運んで来たのに恩知らずな人ですね。」

女の子は唇を尖らせる。

「ここまで運んだのはお父さんでは…。」


女の子はそう言えば見たいな顔をしている。それもつかの間、また不機嫌な顔になった。

「細かいところは気にしないでください。」

「それじゃあ、この世界のことを教えて。僕には分からないことだらけなんだ、ここは。」

女の子は不思議そうに首を傾げる。


「分からないことだらけって、具体的にどのようなところが?」

「まず、モンスターって何だ。僕がこれまで生活してきた中でそんな生き物見たことないぞ。」

僕はいつの間にか身を乗り出していた。痛みもどこかに吹き飛んでしまったようだ。


「モンスターを見たことがない。あなた他の街から来たのですか?」

「街?」

「はい。この街ではモンスターを見ないなんて滅多にないから。別の街の人なのかと…。」

「ちなみにここは何て街?」

「ここはブロッサムです。」

〝ブロッサム″聞いたことない街だ。外国という可能性を考えたが、どんなに歴史や地理が苦手でもブロッサムという地名がないことくらいわかる。


「他にも街があるんだろう。」

僕は女の子にそう尋ねた。女の子の不思議そうな顔はまだ崩れない。彼女からすると突飛もないことを聞いているのだろう。

「はい…。街は3つ…ここブロッサムとミュージ、プラネットからなります。」

ダメだ。全然、ついていけない。そんな顔でもしていたのだろう。女の子はあたふたし、

「やっぱり記憶がないんですね。大変。」と叫び始めた。


「記憶はあるよ。ただ目の前で信じられない。事ばかり起きているから混乱しているだけだ。人っぽいやつが火を出してたりさ。」

そう言うと女の子は馬鹿でも見ているかのように僕を睨んだ。そして信じられないことを口にした。

「そんなの誰だってできるじゃないですか。」

そう言って右手の人差し指で小さな炎を作って見せた。


「やっぱり君も化物じゃないか!」

「ちょっと落ち着いてください。後、声が大きいです。」

僕は必死にその子から距離を取ったが、今の状況下で僕が逃避できる場所はベッドの上だけ距離を取るにも限界があった。


「そんな小さな火を出した程度で驚かないでくださいよ。」

「だってあり得ないだろ。人が火を出すなんて。どこの世界にそんなファンタジーな世界が…」


そう言ってとあることを思い出した。昔、桐島きりしま 拓馬たくまという友人に借りた漫画に似たような話があったような…そう、確か主人公が異世界に行ってそこで生活するという話だ。

この世界ってとてもその物語に似ているきがする。

魔法出てくるし、モンスター出てくるし、もしかして僕は異世界に紛れ込んでしまったのでは?


そんな思考を巡らしてぼーとしていると女の子が

「落ち着きました。」

心配そうに言うので「落ち着いた。」と返しておいた。


この状況を一番、説明できるのはやはりそれだ。漫画の中の世界が具現化しました。本当に異世界に来ちゃいました。これが一番しっくりくる。これしかない。


「一つ質問なんだけど、それって魔法?」

「はい。魔法です。そういえばずっと気になっていたんですけど。」

そう言って女の子は僕の胸を指さした。

「魔力水準バッチ付けてないですね。どっかに落としちゃったんでしょうか。」

そう問われて戸惑ってしまい。曖昧に答えてしまう。

たしかに女の子の胸には星がひとつ付いたバッチをつけていた。


「そうですか。だったらお体が元気になったら魔法所まほうじょに行って再発行してもらいましょう。」

女の子の提案を聞いた僕は勢いよく立ち上がった。凄い痛かったけど女の子に悟られないように我慢した。

「もう動いて大丈夫なんですか?」

大丈夫ではなかったが、大丈夫とやせ我慢をした。

「さっき言ってた〝再発行″?今日行かない。」


「今からですか。」

確か拓馬の漫画だと主人公も魔法が使えるはず、そうやってこっちの世界でそれなりに過ごせるようになってから帰る方法を考えよう。


「分かりました。行きましょう。あっ…。」

そこで思い出したように女の子が言った。

「まだ自己紹介がまだでしたね。」

そう言えばそうだった。

「僕の名前は紫音。」


「シオンくん。私の名前はアネモネと言います。今年で25歳です。よろしくお願いします。」

よろしくと言いかけたところで相手の年齢に驚いた。僕はまだ19歳、実は年上という事実…さっきからだいぶ溜口が多いけど大丈夫かな?当分、僕が年下なことは隠しておこう。


「まず、親に会いに行っていいですか?」

「どうぞ。どうぞ。僕もお礼したいですし…。」

ついつい言葉が硬くなってしまう。このままでは早くもばれてしまうぞ。しかし、アネモネさんは特に気にした様子もなく部屋の外へ手招きした。


家の外に出ると見渡す限り畑だった。みんな鍬やらショベルやらを使って土をいじっている。一輪車で土を運んでる人もいた。

この人たち全員、魔法使いなんだよな。

やっていることが地味というか魔法で簡単に作業が出来ないものかと考えていた。


「あっ、お父さん!」

どうやらアネモネさんはお父さんを見つけたらしい。

後をついていくと、そこには大柄な男性が立っていた。

筋肉ムキムキで僕なんかが戦ったら腕なんて軽く折ってしまいそうな…そんな体型だった。


「あ、あの…怪我しているところを助けていただき、ありがとうございます…。」

声がだんだん小さくなる。

「おっ、元気になったかい?」

「はい…おかげさまで…」

ものすごく怖い。


「お父さん、魔法所に行ってくる。」

「どうしてまた、そんなところに…。」

アネモネさんが僕を指し、お父さんが見る。そしてアネモネさんは次に自分の胸を指した。

「あー、」とお父さんが頷く。


「でも、アネモネ…大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、お父さん!私ももう子供じゃないし。」

なんの会話だかよく分からなかった。


「それにしても少年、お前見ない顔だな。」

お父さんからの質問にドキッとしたがアネモネさんがすぐに補足してくれた。

「となり街から来たそうです。」

アネモネさんの中ではそう解釈されているらしい。

お父さんは「となり街のことはよく知らないからな。」と納得した表情で言った。


この街の住人はとなりの街のことを知らなすぎでは…と思ったときお父さんが「ちょっと待ってろ」と言って家の奥に行ってしまった。

アネモネさんと顔を見合わせているとお父さんが戻ってきて手に持っているものを「はい。」と差し出した。


「これ僕のかばん。」

そこには紺色のリュックサックに、エビフライのサンプルストラップがついた。正真正銘の僕のかばんがあった。


「あっ、やっぱ少年のかい。仲間が持ってきてさ。謎なものがたくさん入っているから。謎の少年のものだろうって」

「ありがとうございます。」

すぐにかばんの中を確認し、携帯を取り出すが予想通り圏外だった。


「それではお父さん。行ってきます。」

「おうっ、いってらっしゃい。」

そういいお父さんは陽気に手を振った。


「けっこう自由なお父さんだね。」

娘を見知らぬ人に預けて出掛けさせるなんて…。

「あれでも凄く心配してると思います。なんというか、ここらへんの人で私を心配しない人はいません。でも、そういうのを私が嫌がることをみんな知ってますから。当然、お父さんも…。」


アネモネさんの言っていることは、この時の僕にはまだ分かっていなかった。

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