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ダンジョン&ドラゴンズ  作者: 速水
17/20

決意と仲間と

小説家になろう勝手にランキングに参加してみました。少しでも、人の目に触れる機会が増えればなと思います。

「国とはまた、大きく出たね。カイト」


宣言した内容が上手く呑み込めないのか皆妙な顔をしたまま固まっている中、リコリスがいち早く再起動してそう言ってきた。表情には未だ戸惑いの色が濃いけれども。


「最終目標ってだけで今すぐにってわけじゃないんだけどね。きっかけはリコリス、キミなんだよ」


「アタシが?」


「うん、ここ数日リコリスはロッソについて一層の見回りを手伝ってくれたろう?」


「鈍っちまってた体に活を入れたかったからねぇ…結果は散々だったけれどさ」


苦笑しながらリコリスがそう返してくる。見回り後に行われたヘイムダルとの訓練の様子なんかもちょっと見させてもらったけど確かに『散々』と表現するしかないものだったのは確かだった。本当にドラゴンってやつは規格外だと思い知らされてしまった。まぁ、それは今は余談だ。


「見回りにはゴブリン部隊なんかも同行させたけど特に問題無かったと報告は受けてるだけど」


「問題ないどころか驚くほど従順だったし真面目に働いていたよ。臭くもないしさ」


「そこなんだ」


「そこ?」


「あぁ、ダンジョンのモンスターは確かにダンジョンマスターの命令には絶対服従だし危害を加えることもできない。だけど配下同士はその限りじゃない。このあたりはマイコニドの胞子で麻痺しちゃってるゴブリンがいたから気づいたことなんだけどね。それなのに、女性であるリコリスが近くにいてもゴブリン達はいつも通りだった」


リコリスがちょっと嫌そうな顔をする。どうも彼女は女性扱いすると顔を顰めることが多い気がするんだが今回はそれだけってこともないだろう。モンスター図鑑にもあったとおり、ゴブリンの一般的な認識は低能で理性のない魔物っていうのが一般的だと思って良い。


「ゴブリンに限らず、ここのモンスターは驚くほど普段穏やかなのが多い。まぁ一部例外はいるけど・・・」


もちろん例外筆頭は農業地区入口の番人になっているグリムリーパーの奴だ。重要区画の門番としてはこれ以上ないほどの適任だと思うけど四六時中殺気をばら撒いているのでフローレスなんかはかなり怖がっている。


「確かにここのモンスター達は穏やかというか気の良いというかそういうのが多いですな。正直、前の盗賊仲間よりも付き合い易いくらいで。ゴブリン達のやつらが何を伝えたいのかとか最近ちょっとわかるようになってきやしたし」


ロッソは頭を掻き掻きそう言ってくる。一カ月ほど一緒に働いた仲だからか、リコリスよりもより身近にモンスター達のことを感じられているようだ。


「俺の故郷にはさ、『衣食足りて礼節を知る』って言葉があるんだ。簡単にいうと腹いっぱい食えて、住む場所着る物の心配がいらない。そういう状態になって初めて相手を思いやることができるって話なんだけど」


「随分と即物的な気もするけど、言いたいことはわからないでもないね。無い無い尽くしの状態で清く生きられる人間なんてそう多くはないだろうさ」


なにか嫌な思い出でもあるのかリコリスは若干嫌そうな顔をしながらそう言った。ロッソはしきりに頷き感心している。フィアレスは・・・寝てるな。


「全部が全部とはいわないけど、モンスターもそうなんじゃないかと思うんだ。衣食住が足りてなお、積極的に人族を襲うような種族ってのはそう多くはないんじゃないかな。だから、そういった友好関係を結べそうなモンスターを保護して人とモンスターの架け橋となるような国を俺は造りたいんだ」


そう、モンスターと人を繋げる場となる。それこそがダンジョンマスター、そしてダンジョンの存在意義なのだ!

人間だって一々様々な種族を根絶やしにしようとするより妥協点を探して付き合っていったほうがもっと他へリソースを使えるのだから結果として繁栄することになるだろう。これは人間側にも利のあるいわば慈善事業なのだ。決して、決して私利私欲のためではない。もちろん!そういう場として認知されるようになれば世界中からモンスターがやってきてくれるようになるだろう。そういったモンスター達を受け入れることも吝かではない。そう、慈善事業なのだから。召喚ガチャだけでは効率も悪いし運任せにすぎるからもっと大規模にモンスターを集めたいとかそういうことではないのだ、真に人間とモンスターの未来を憂いているからこそ・・・


「カイト?カイト!!しっかりしろっ急にブツブツ言いだしおって!!」


ハッ!?

気づいたらヘイムダルの声が頭上から降ってきていた。イカンイカン、少々取り乱してしまったようだ。


「ん、コホン!い、以上のことからこのダンジョンは積極的に外部のモンスターの受け入れを行うこと、また必要以上に人間種に対して敵対的な行動を取らないことを大原則としつつ建国のための準備を進めることとする!」


「よくわからんが、カイトの好きにするがいい。ただしDPを忘れるでないぞ」


「あっしは旦那に着いていくだけでさぁ」


「とんでもない所に来ちまったねぇ。ま、いいけどさ」


「ガンバりましょう、マスター!!


「Zzzzz・・・」





ぼんやりとした明かりの灯る間で、時折カリカリと密やかに音が流れる。

卓上に広がっているのは何の変哲もない罫線入りの大学ノート、ペンと合わせて200DP也。交換レートとしては余りに高いと言わざるを得ない。ダンジョンの収入を今後どうしていくのか、大きな問題の一つだ。


「はぁ…」


つい、溜息がでる。やりたい事、やるべき事。どれも山積みでどこから手を付ければいいのかわからなくなる時がある。選択のミスはそのまま、自分の安全に直結する。人の悪意なんて人間社会にいればどこであっても避けようがないが、それでも殺意というほどのものを受けたのはほんの数日前が初めてだ。


「決意はしたものの。出来るのかね、俺に。」


喉元過ぎれば熱さを忘れる。なんて言葉もあるが、さすがにまだ風化するには早すぎる。

彼らが特別、ということではないだろう。此処では、善悪の差はあれども日常的に行われている事。生きるために、より良い生活を送るために、幸せになるために。理由は千差万別であってもそのための手段として他の存在の排除を、いや、言葉を飾るまい。他者の殺害を是とした世界が今カイトが居る世界だ。


人は生きるために魔物を殺し

魔物もまた生存のために人々を襲う。


今まで生きてきた世界よりも生きるための闘争が、殺し合いがより身近にある世界。

病的なまでに殺生から引きはがされていた社会から来た身としては、心休まる日もないというのが正直なところだ。


「それでもやるしかない、か。座して待てばその先にあるのは破滅だけだ」


着の身着のまま放り出されなかっただけマシと考えるべきかは微妙なところだ。ダンジョンという防衛施設があるから安全だと考えることもできるし、ダンジョンマスターだからこそ四六時中狙われてしまっているという面もある。どちらがいいかなんてことは一概には言えないだろう。


「無双チート系だったらこんなに悩まなくて済んだのかねぇ・・・」


自身の置かれた立場を俯瞰してみるとなんとも心もとなく、ついそんなぼやきが漏れてしまう。

それこそ、あの能天気なドラゴンのように個として絶対の力があれば生きることに怯えなくて済むだろうかなんて考えが浮かび、すぐかき消した。考えても栓無き事であるし、どれほどの力を持っていたとしても自分が人である以上不安は無くならないだろうという結論にしかならないからだ。


「目標はでっかくと思ってとりあえず国!っていってみたけど、段階的にやっていくしかないな。ネックとなるのはやっぱり『主権』なんだろうなぁ…」


コツコツと、先ほどまで向かっていたノートに書かれた『国民・領土・主権』のあたりをコツコツとつつく。

国家の三要素として教わった気がする知識を引っ張り出してきて考察していたのだ。その内の二つは極論してしまえばDPでなんとかなってしまうので残った要素は『主権』しかないのだ。


「いきなり国造りました!なんて宣誓しても認められるはずがないし、やっぱ外とのツテが欲しいなぁ・・・」


なにをどうすれば『主権』を主張できるのか、細かい定義までカイトは覚えていない。只、主張すればいいというわけではないことだけは朧げながら理解している。偶々、近場に微妙な立場の地域があったからというだけだが。その地域に対する日本の態度は確か、「発言する立場にない」だっただろうか。知った時になんとも釈然としない思いを抱いたのを覚えている。外交というものが一筋縄ではいかないということなのだろうけれども。


「ツテをつくるにしてもな。ロッソじゃダメだろうし」


出会いは最悪といって良かったが、なんだかんだでロッソはダンジョンに馴染んでくれている。元盗賊ということが疑わしいくらい真面目に指示に従ってくれていて非常に有り難いと思う反面、さすがに顎で使いすぎかなと思わないでもない。奴隷なんていう身分の人間を無感動に使い続けられるようなメンタルなんてものは持ち合わせていないのだ。


とはいえ、奴隷が一人で街で活動することなんてのはやはり難しい。奴隷から解放というのも現時点では出来ない。信用できないかと言われれば否だが、それでも自身の安全と天秤にかけるとやはり安全に傾く。


となれば選択肢は一つしかない―


「リコリスかぁ・・・」


煮詰まっているのを感じ、大きく伸びをしながら呟く。閉じた目を開くと、赤色が目に入った。炎のような瞳と、視線が交差した。


「アタシがどうかしたのかい?」


「え?・・・う、うわぁ!!」


ガタン、バタン!などという音と共に椅子から転げ落ちる。

呆れたような視線が降ってくるが、俺は悪くない不可抗力だと言い聞かせながら起き上がった。


「や、やぁ。起きてたんだねリコリスさん」


「なんだい気持ち悪い、リコリスで良いって言ってるだろう。『さん』なんてつけられるとむず痒くて仕方がない」


そう言いながらリコリスは向かいの椅子を引くとドカリと腰かける。びっくりして妙な感じになってしまったが確かにいまさらさん付けなんて気味悪いか。こちらも起き上がって椅子にかけなおすものの、悲しいかなタッパの関係でめっちゃ見下ろされてる。足も長いのでこちら側に無造作に投げ出されてるけどそれももう慣れた。


「それ、なにやってるの」


リコリスがノートを指しながら聞いてくる。不思議そうな顔をしているのはノートの記載が日本語でされているからだろう。翻訳効果というべきか、話すだけでなく読み書きのほうも異世界仕様に対応出来ていることは確認済みなのだけれど、これは私的なメモという性質のほうが大きいのでなんとなく日本語で書いていたのだ。


「ちょっと色々複雑になってきたんで考えを纏めようかと思って。単なるメモ程度だけどね」


「ふーん・・・これ、何語?」


「ん、一応俺の故郷の言語。といってもリコリスに通じるかどうかわからないけど」


「確かにここらで見たことない文字だね。ま、カイトが妙なのは今に始まったことじゃないか」


「妙とは酷いな、否定しきれないけど。で、なにか用でもあったかい?」


ここ数日は日が暮れてしばらくすればリコリスは客室に戻って寝てしまっていたのでこんな時間に顔を合わせるのは初めてだった。ダンジョン内で日が暮れてというのもおかしな話だが、時間間隔や日付の感覚を失わないために外の様子と灯りを連動するよう設定してある。一階層などは擬似的な空まで再現されているくらだ。マスタールームはそこまで洒落たものではなく天井から降る謎の白光のオンオフがされるのみである。


「あぁ、体の慣らしも澄んだから明日あたり此処を出ようかと思ってね」


「そう、か。寂しくなるな」


スルリと、そんな言葉が滑り出た。目の前のリコリスがきょとんとした顔をしているが、こっちもどうしていいかわからない。全くもって意図していない台詞だった。気が付くと漏れていたそれは、奇妙な質感を持って響いた。


「な、なんだい藪から棒に。調子が狂うったらないよ!」


「ご、ごめん!他意はないんだ、つい口をついたというか・・・」


全く、なんて言いながらリコリスが投げ出された長い脚で蹴ってくる。多分向こうとしてはちょっと小突いてる程度のつもりなんだろうけどめっちゃ痛い。


「んで?アタシの名前なんて呟いてなんだったんだよ」


「え?あー・・・ええと」


どう答えるべきか、言葉が見つからず目を逸らす。

本音を言えば、リコリスには手伝ってもらいたい事がたくさんあるのだ。この世界のことはわからないことだらけだし、ダンジョンの外に出て自由に動ける知り合いなんてのはリコリスだけだ。落ち着いてからヘイムダルに聞いて何故連れてきたのかも納得はいったし、たった一人でドラゴンに立ち向かっていった勇気には感動した。こんな人が仲間になってくれれば本当に心強いとも思ってる。



けれど、彼女は巻き込まれただけ。


俺の都合に付き合わせていいかどうかと考えるとどうしても逡巡してしまうのだ。


「はぁー・・・カイトは本当に妙なやつだよな。国を造る!なんて大それたことを、それもモンスターと共存するなんてでっかいことそ言うくせにアタシなんかを前におどおどしやがって」


「い、いや。リコリスが怖いとか思ってないよ!?俺よりタッパあるから迫力あるのは確かだけど別に嫌な感じではないし。あぁでも美人だからちょっと近寄りがたいとかはあるかもしれないけど・・・」


「び・・・!?カイトはまたそうやって!!あぁもうそういうのは今は置いとけ!いいか、一度しか言わねーぞ!」


わたわたと妙な弁明をした俺に対してリコリスはそう言って人差し指を突き付けた。妙に首筋が赤い気がするのは気のせいだろう。というか俺も何を口走ってるのかよくわからない。リコリスは今まで出会ってきた女性とはかなり毛色が違って対応に困るのだ。・・・元々女性関係なんて得意でもないのだけれど。


「アタシは冒険者だ、正当な報酬さえ貰えればなんだってやるなんでも屋さ。もちろん気に食わない依頼は受けないしいけすかない依頼主なんてこちらからお断りだけどね」


そういってリコリスはこちらをジッと見つめてくる。灯りに照らされた瞳は炎の様に煌いて、その奥にある強い意思を感じさせてくれる。ゴクリと、無意識に喉が鳴った。


「そうやって冒険者は生きてんだ。自分で選んだ依頼を、自分の最善を尽くして完了する。そうやって昨日より今日、今日より明日って生きてんだよ。だから、依頼の最中に起きたこと全ての責任は冒険者本人にある。この意味、わかるか?」


もちろん、わかる。

リコリスが何を言いたいのかも、何を伝えたいのかも。


本当に、なんて人だろうか。


「それは、でも・・・」


「それでも!・・・それでもまだカイトの気が済まねえならそれはそれで良い。こんなのは結局本人の問題だからな。だがよ、もう一度言うぜ。アタシは、冒険者だ」


冒険者。


自由に生きる者。まだ見ぬ未知を求め、心のままに生きる者。

頼れるのは己のみ。矜持を胸に、世の中の荒波を泳いでいく。


「リコリス・・・君は、俺の依頼を受けてくれるかい・・・?」


自分でも自覚してなかったけれど、俺は思っていた以上にリコリスに魅入られていたようだ。

ダンジョンの見回りをしてもらったのも、会議に参加してもらったのも。自分を知って欲しかったから。知って、その上で一緒に同じ目的に向かえたらなんて、そんな風に考えて居たんだ。


『竜の枷』なんてものの罪悪感から、ついつい目を逸らしてしまっていたけれど。それが、俺の本心だ。


「あぁ、いいぜ。カイトと組むのは楽しそうだ」


リコリスが差し出してきた右手を、力強く握り返す。湧き上がってくる歓喜に、自然と笑みが浮かぶ。正面を見れば、リコリスもまた不敵なというべき笑みをしていた。


「宜しく、リコリス。退屈させないように頑張るよ」



その日。異世界に来てようやく俺は自分の生き方を決意し、同時にとても心強い仲間を得たのだった。

話の展開ペースに少し悩み中です。本当は題名の通りもっとドラゴンも一杯出てきてほしいんですけど現状のバランスとあと絡ませ方がイマイチ確定しきっておらず…そちら方面で楽しみにしている方がおられたらどうか今しばらく長い目でみてやって下さい。

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