「第一回ダンジョン会議」
失踪から復帰しました。待っていてくれた方がおりましたらご迷惑をお掛けして申し訳御座いません。
リアルもそうなんですがそれ以上にメンタル面で厳しいことが多くてなかなか執筆作業に入れませんでした。執筆自体なれない事のため安定した更新は確約しづらいのですが、なるべく間が空かないようにしていくつもりです。宜しくお願いします。
暗闇に朧な光が、一つ、二つ・・・全部で六つ。
浮かび上がる影は様々。どこか、歪な姿は見るものを不安にさせる。
そんな中、影の一つが声を上げた。
「それでは、第一回ダンジョン運営会議を始める」
俺は顔の前で手を組み、そう宣言する。こういうのは雰囲気が大事なのだ。
第二層最奥フロアに設置した円卓に座るのは異形の者達。岩肌に直に設置された松明の灯りが怪しくフロアを照らし、不気味な影絵をいくつも投影している。
正に、魔の棲み処。これぞ、ダンジョン――!!
「一体何を遊んでおるんだ、カイト」
パチッと軽い音が鳴ったかと思うと急速に暗闇が払われていく。現れたのはだだっ広い洞窟、かなり高い天井から煌々とした光が差し込んでいる。異世界ファンタジーなマジカル照明だ。
「雰囲気は大事だぞ、ヘイムダル!!」
「知らん、暗いのは我は好かんのだ」
フンッっと鼻息を吐きながらヘイムダルはそう言って取り付く島もない。浪漫を解さないとはドラゴンの風上にも置けない奴め。
とはいうもののここで拘っていても仕方がない、会議の進行を優先しよう。
「気を取り直して第一回ダンジョン運営会議を始める。皆、忌憚のない意見を出し建設的な話の場となることを期待する」
精一杯威厳のある声を意識してそう宣言する。実際のところ会議なんてものに真面目に参加した覚えなど数えるほどがないのでこれで合っているのかは謎ではあったが。いいんだ、さっきも言った通り雰囲気が大事なんだよ多分。
「カイギとはなんですか、マスター」
そう言って質問してくれたのはアルラウネのフローレスだ。
召喚当時のフローレスは片言でしか話せなかったのだが、この数日ほど第一層に作った農業フロアで一緒に作業をしながらコミュニケーションを取っていたところ瞬く間に言語を習得しだした。今はまだぎこちない部分もあるがそれも近いうちに無くなるのではないかと思っている。疑問に思ったことはすぐに質問し、理解しようとするフローレスの株は俺の中で急上昇中だ。何処かのムッツリドラゴンとは出来が違う。
「会議は・・・皆で話し合っていい案を出すモノかなぁ。最初の一カ月を乗り越えたからここらで目標の確認とか色々やっておこうと思ってね」
話せるようになったとはいえまだまだ勉強途中のフローレスに配慮して俺はなるべく平易な言葉を選んで説明した。フローレス以外に集まって面々もそうだったのかと言わんばかりに頷いている。
しかし、ドラゴンのヘイムダルや鹿のフィアレスはともかくロッソやリコリスは人間だろうになぜ同じように頷いているのだろうか・・・ダンジョンの行く末にそこはかとない不安を抱きたくなる光景である。
「さて、じゃあまずは今の状態の理解からだ。ここはダンジョンなわけだけどそもそもダンジョンというのがどういうものでどういった扱いのものなのかを皆にもきちんと把握してもらおうと思う。まずは、人間側からみたダンジョンについて。リコリス、頼むよ」
「いきなりあたしかい?まぁいいけどね。人間、これは亜人種も含む所謂大きな枠組みでの人族という意味だけれども、そういった存在にとってはダンジョンってのは正に宝の山だね。魔物を狩って素材を売ってよし、ダンジョン内で採集できる素材や時折見つかるお宝を狙ってもいい。そしてなにより、最奥部へ到達して守護者を倒したものには絶大な名声が約束される。国によっては貴族様になることだって可能らしいよ」
「正に、夢と浪漫が詰まった場所ってわけか。もちろんその分危険も大きいんだろうけど」
「そうさね、ダンジョンの多くはドラゴンの巣窟になっているから踏破なんてのは夢のまた夢、物語に語られるような英雄達でないと無理な話さ。最低条件がドラゴンスレイヤーってことだからねぇ・・・だから大抵は自分達の力量にあった階層での狩りや採集で生計を立てることになるね」
「今は月末の騒動の名残で侵入者が居ないだけで今後も人間からの侵攻はあると見た方がいいってことだな。皆、そのつもりで今後も警戒は続けていこう。リコリス、ありがとう」
この辺りは基本情報の確認だけれども、まぁこういうのも大事だ。わかっているものとしてスルーしてたら足元が疎かにっていうのは勘弁して欲しいからな。
「じゃあ、次。ダンジョン運営にあたっての長期目標の話。ヘイムダル、頼む」
「ちょうきもくひょう?なんだそれは?」
「いや、二年後までにどーたらとかあったでしょ!俺も詳細知らないしその辺りいい加減知っておこうと思って」
「ぬ、カイトとの契約の話か。よし、皆の者!我の目的は大量のDP、二年後までに三億DPを貯めて我に献上するのだっ」
ヘイムダルは気合いが入っているのか口の端からチロチロと火の粉を零しながらそう宣言した。中身知らなければカッコいい場面なきがするんだけどなー。
「DPってなんだい?」
「3憶ってどのくらいだい旦那」
「Zzzzz・・・」
ヘイムダルの意気込みはスルーの方向で、リコリスとロッソから早速質問が出る。というかいい加減フィアレスは起きろ。
「DPはダンジョンポイントといってまぁ、ダンジョン内においては万能なポイントだと思ってくれればいいかな。ダンジョンの拡張なんかもDPを使ってやるし、モンスターの維持もしてくれる。ダンジョンに必要なものは基本的に全てDPを対価にして得られると思っていい。DPは基本的に侵入者を撃退するか、ダンジョン内の宝物から月末に一括でポイントが振り込まれるの二種によって得られる。3憶はそうだなぁ・・・とにかくたくさんって思ってればいいよ」
「マスター!ワタシ、がんばります!!」
フローレスは良い子だな。ヘイムダルやフィアレスはこの一割でもいいから見習ってほしい。
「へぇ。随分と便利なものなんだね。そんなものを大量に用意して何をしようっていうんだい?ダンジョンの拡張なんかも出来るって言ってたし、大陸一のダンジョンでも目指すのかい?」
「3憶の使い道に関しては俺もまだ聞いてないな。その辺の説明をいい加減してくれよヘイムダル」
「うむ、そうだな。そろそろ頃合いだろう」
重々しく頷く紫のドラゴン。未だにリコリスは苦手意識があるのか微妙に距離を取っている。
俺としては最近その残念加減が露呈してきたので初期の頃のような畏怖の気持ちは綺麗サッパリ無くなってしまっているが。
「3憶DP、その用途はだな・・・」
「「「「その用途は・・・?」」」」(Zzzzz・・・)
約一名寝ているが、他の面々はゴクリと喉をならしヘイムダルの答えを待つ。
冷静に考えてみればダンジョンにおいてなんでもできるDPが3憶とかなんでも出来そうである。それこそリコリスが言ったように大陸一のダンジョンを造ることすら可能かもしれない。というか実はいい線いってるんじゃないか?
ヘイムダルの目的はルルリアとかいう雌ドラゴンが関係していることだけはわかっている。そしてドラゴンはダンジョン経営をして遊んでいるわけだから、所属しているダンジョンの質が高いことはステータスといっていいのではないだろうか。つまり3憶の使い道の答えは・・・
「その用途は・・・婚活パーティーの参加費用だッ!!」
・・・え?
あまりの台詞に皆一様に固まってしまった。暢気に寝ているフィアレスを除いて。
コンカツ…婚活?
「あの、ヘイムダル?てっきり俺はダンジョンを有名にして迎えにいくとか、DPですごい借金しててその肩代わりをとかそういうのだと思ってたんだけど・・・」
混乱する頭でなんとかそれだけ絞り出す。全く、本当に予想外の事ばかり言ってくるドラゴン様だぜ。
「うん?そんなわけなかろう。ルルリア殿はバハムートの血族の中でも由緒正しい家で金に困ることなぞないしな!我の立場では膨大な参加費用を払うことでしかお会いすることすら叶わんのだっ、ハハハ!」
「ハハハじゃねぇ!ちゃんと説明しろー!!」
「アタシはこんなのに負けたのか。ドラゴン、ドラゴンって・・・」
「竜の旦那は相変わらずですなぁ・・・」
「コンカツ、ぱーてぃ?」
「Zzzzzz・・・」
こんな陣営で大丈夫か?・・・大丈夫じゃない、問題だ。
ヘイムダルの意中のドラゴンは良いとこのお嬢さん。人間の貴族を真似たというだけあってランク分けは貴族の様に爵位で表しているらしいのだがルルリアさんの家はバハムート系公爵家なんだとか。
このバハムート系というのはドラゴンは基本的に始まりの五竜の内どれかの子孫なのでそれによって種類分けされる。
つまりルルリアさんだったらバハムートを祖に公爵の位を持つ家のドラゴンってことだ。
なお、王位については五竜会議とかいうもので全会一致で認められないといけないらしく、長らく空位なのだとか。
公爵なんてのは基本的に王族の親族に与えられる爵位なので現状の最高位という訳だ。もちろん五竜会議とかいうのにも参加する権利をもつ家らしい。
婚活パーティなんていわずに普通に舞踏会とかそういう表現にしてくれればもうちょっとダメージも少なかったのに・・・いや、ドラゴンがダンス踊るのかどうかわからないけど。
「ダンスは・・・苦手だな・・・」
「そこ!勝手に思考を読まないっ!!」
油断も隙もないドラゴンだよ全く。それにしても噂のルルリアさんってのは公爵なわけで、
「とんでもない身分差じゃんっ!」
「いやぁ、それほどでもないぞ?」
なにやら勘違いして照れている目の前の駄竜はリンドブルム系騎士爵級。
身分差としても滅茶苦茶壁が高いのだが、現実はもっとひどい。というかまだそれだけだったら自力でなんとかならなくもないのが力が全ての側面をもつドラゴン社会なのだが・・・
「竜の旦那は六男だったんですねぇ・・・あっしと似たようなもんじゃないですか、ワハハ!」
呑気に笑っているロッソの言う通り、ヘイムダルは騎士の爵位を持つスィエラ家の六男坊。当主もしくは次期当主ならばダンジョンの経営権を持っており、その手腕やダンジョンの規模によって評価されることもあるらしいのだが冷や飯ぐらいの六男では日の目を見ることなど皆無。一生を一族のダンジョン内で寂しく暮らすしかない。これでは意中のルルリア殿を迎えに行けぬ!とのことで出入りの商人であるDP屋ブラックの伝手を辿ってドラゴンの管理していないダンジョンへ渡りをつけてもらうように頼んだのだとか。
「家を出て自分で成り上がってやろうって気概は買ってやってもいいんじゃないかねぇ」
先ほど受けていたショックからは立ち直ったのか、苦笑を浮かべながらそういうのはリコリスだ。
確かにリコリスの言う通りな面はある。自分の置かれている環境では状況を打開できないからこそ家を出て自分で稼ぐという決意を固めたことは評価するべきかもしれない。
ちなみに、代を重ねるごとに血が薄れ騎士爵すら継承出来ないほどの能力になってしまったドラゴン達は「亜竜」と呼ばれ、家名をはく奪の後竜社会から追放されてしまうのだとか。モンスターに貴賤なんてないのに・・・
「それで、そのルルリアさんの番を探すためのパーティが二年後にあって参加費が3憶DPだって?」
「うむ、爵位毎に必要な額は変わるのだがな。なんの後ろ盾も持たない我は払う金額でその力を示さねばならん。故に3憶DPなのだ」
「一応確認しておくけど、ヘイムダルがそのパーティに参加すれば目的は達成できるのか?」
「参加さえできればあとは簡単だ!我の熱き心を伝えればいいだけなのだからな!!」
「そんなんで男女のアレコレが丸く収まるはずねーだろっ!この駄竜めっ!ピュアか!!あと相手の家格的にも無理ゲーすぎるわ!」
まったく、このドラゴンはどこまで呑気なのだろうか。
感情的なモノは一端置いておいたとしてもそれ以外の要素も楽観できる情報はない。序列があり、それにそった社会が形成されているというならそれに伴るルールや柵が出来ていると考えるのが普通だ。暢気にも程が無いだろうか、ウチのドラゴン様は。
「そんな有力な家のパーティが裏側なしの額面通りなものなハズがないじゃん。人の社会とかけ離れた部分もあるだろうけど、模倣もしたのならそのあたりもある程度踏襲されてると思った方がいいでしょ。もっとも、力至上主義のドラゴンがどこまで謀略や根回しを行えるかには多少疑問が残るけど、それでもゼロってことはないだろうね」
「つまり、どういうことなのだ?」
「五竜会議とやらに参加できるほどの家格をもった家の婚姻ならすでにある程度の候補は絞られている可能性が高いと思う。ドラゴンは力至上主義だから、建前上力を示せる存在なら誰にでもチャンスがあるって形式を取るかもしれないけど実際はある程度絞られている候補から選ぶとか出来レースとかそういった可能性を考慮するべきなんじゃないかな」
「貴族の婚姻なんて柵だらけだからねぇ・・・」
「ヘイムダル、さっきあまりにも力が薄れて弱くなったドラゴンは家すら継げないって話してたじゃないか。ということは逆に考えれば力の強い血統の価値は高いってことだろう?その視点から考えてもルルリアって竜の家が騎士爵程度の家のさらに六男とかを相手にするとは思えないぞ。仮に、お互いの気持ちがあったとしても難しいと思う」
「ぬぅ・・・」
困ったように眉間に皺を寄せるヘイムダル。大分わかってきたけど、基本的にコイツは直情径行というか思ったらすぐ行動派だからこういう絡め手系のは苦手なんだよな。そもそもドラゴンという種自体はそこまでそういうの得意じゃなさそうというのもあるけど。
「まぁ、今色々気を揉んでも仕方ない。前提の3憶すら用意できてないわけだし。DP屋のブラックが色々なドラゴンのところに出入りしているみたいだからその辺りの常識とか今度来たときに聞いてみるよ」
一先ずこの件については現状此処までかな。次いこう次。
「じゃあ次に、今月に入ってから実験してる事柄についてだ。フローレス、作物の様子はどうだ?」
「ハイ!コムギ、ソバ、コメ、ジャガイモはゲンキにソダッテマス!!マホウつかってサイバイもジュンチョウですっ」
フローレスがハキハキと答えてくれる。一階層の一部を農業系エリアとして実験的に届いた作物を育てているのだが経過は順調のようだ。気候関係はフロアごとに設定できるのがダンジョン農業の強みの一つかもしれない。もっともそれ以上にアルラウネやトレントといった植物系モンスターの特性なのか作物の育成を助ける魔法を使えることが発覚したのが大きい。
農業なんてやったことないから不安だったけれども基本的に適材適所さえしてしまえば大丈夫そうなので安心した。
「魔法で栽培の弊害が無いかの確認はしないといけないけど今のところは順調か。フローレス、引き続き作物の世話を頼む。他の皆はそういう計画が動いてるってことくらいを今は知っておいてくれればいいかな。」
ダンジョン内のモンスター達はDPでの維持が出来るために食料は必要としないけど、DPじゃなくて普通に食べ物を得て維持することも可能なことがこの一カ月の間に判明している。ダンジョン農業はDPに頼り切らない配下維持のための活動として重要視している。ダンジョンマスターなんていうのは永遠の籠城戦をしているようなものなんだから補給物資なんてのはあればあるほど良いに決まっているのだ。なお、作物の名前は見た目と性質がほぼ一緒だったので慣れたものに統一している。
「旦那、コレが上手くいけば保存食生活もおさらばですね!」
ロッソが嬉しそうに声を上げる。ここ数日はリコリスもいるのでDPで食材を出していたがその前まではあまりにもお粗末な食生活だったからな。俺は無言でロッソに頷いてやった。食は大事だ、貧しいと心が荒むもの。
「さて、ロッソ。ここ数日のダンジョンの様子はどうだ?モンスターの種類も増えたしなにか困っていることはないか?」
ダンジョン農業についてを切り上げてロッソへと水を向ける。月末の侵攻の衝撃も冷めないままダンジョン拡張やら戦力拡充やらをしてしまったためにちょっとやりすぎてしまったかと心配な面もある。毎日100体近くのモンスターが増えていっているのを配下欄で確認する度に不安になってはいたのだ。
「一応、今のところ問題はないですぜ。一部のフロアを除いてどこも十分な広さがありますし、あぶれそうなのはフィアレスさんの大部屋に行ってもらってますわ」
名前が出たあたりでフィアレスが薄目をあけたがすぐに閉じた。本当に自由な階層主様だ。まぁ、この間リコリスから聞いてやっぱりあったんだと思った【ステータス】で確認したところそれはもう優秀なモンスターであることはわかっているので有事でなければだらけていようが気にしないことにはしてる。
「そうか、大変だと思うけど引き続きロッソはこれからも一層の見回りを中心に頼む。必要なものがあればその都度言ってくれ」
「へい、わかりやした」
「さて―大体の現状把握は終わったし、ここでダンジョンマスターから重大発表があります」
そういって俺はぐるりと皆を見回す。ドラゴン・盗賊・冒険者・鹿・アルラウネと統一感のない面々の瞳が全てこちらを向いた。
「ここに、国を造ろうと思う。モンスターと共存できる、そんな国を」
更新空いていた時期にキャラの設定だけは妄想してました。いくつか口調等の細かい部分で投稿済みのものを少し修正するかもしれません。