第13話 ダンジョンをつくろう! 2
さて、いい加減この貧相なダンジョンからまともなダンジョンへクラスアップさせねば。ダンジョンが大きければその分奥に引っ込んでいる俺の安全も増すはずだし、拡張すればひと月に入ってくるDPの量が増えるわけだから拡張をしない理由もない。
「よし、ダンジョン改築をするぞ!」
「我はそろそろ伸び伸びと暮らせる大きなフロアが欲しいぞカイト」
森林フロア最奥。マスタールームに繋がる扉の前で気合を入れていると、昼寝をしていたドラゴンがのそのそと起きだしてそう主張した。
「大フロアは作るけど、ヘイムダルはしばらくこのフロアで反省だから」
「な、何故だカイト!」
「何故だもなにもあるかー!あんな危険物拾ってきやがってこの駄竜!!」
「なんだと!我は良かれと思ってだな!!大体たいしたことではないではないか、このへたれマスター!!」
「へたれとはなんだ!俺がどんな思いでここ数日寝起きしてると思ってるんだ!!」
「それがへたれだというんだ!」
「なにー!このへっぽこドラゴンめ!!いや、むっつりドラゴンめ!!」
「むむむムッツリとはなんだ!訂正を要求する!!!」
「やーいムッツーリ!ムッツーリ!」
「へたれへたれへたれ!!」
ぐぬぬぬぬぬ。
ここ数日、恒例となりつつあるヘイムダルとの口喧嘩を繰り広げていると騒ぎを聞きつけたのかロッソがやってきた。
「旦那、先ほど届いたポーションの配布が終わりやした。初級なんで多少時間はかかると思いやすが明日にはほぼ全てのモンスター達が復帰できやす」
「あ、裏切りのロッソだ」
「だ、旦那。勘弁してくだせえ、危険はないんでしょ?」
「ならロッソだって一緒にいてくれてもいいじゃないか」
「いやぁ・・・アレはアウルムの街で結構有名だったんですよ。あっしとしては怖くてあまり近寄りたくないというか・・・」
「やっぱり裏切り者じゃないか!」
全く、どいつもこいつも・・・
いや、いい加減切り替えてダンジョン拡張をしていこう。安全に暮らすために必要なことだからな!これは決して逃避ではない、逃避ではないのだ!!
気を取り直してダンジョンメニューを呼び出す。まずは、ダンジョンコアのレベルアップからだな。現在のダンジョンコアはこんな感じだ。
ダンジョンコアLV1 (700/300EXP)
特殊称号「竜の巣」と「光の祭壇」の効果で700EXPが溜まっている。ダンジョンメニューからEXPを使ってコアのレベルアップを指示する。
―ダンジョンコアがLv2になりました―
ダンジョンコアLV2 (400/1000EXP)
・「ゲート」「念話」をダンジョン限定で習得しました。
・ダンジョンマップ操作が解放されました。
・特殊地形「宝物庫」「牢獄」が追加されました
・罠セット中級が解放されました。
・モンスター生成施設(初級)に生成施設(森林)が追加されました。
・特殊称号「森林の統率者」を獲得しました。
なんだか色々出て来たな。ダンジョンマップ操作は新しいダンジョン機能の様だ。
ゲームっぽい3Dでのダンジョンマップを見ることは今までも出来たけど、森林フロアのほうを見てみるとドラゴン・ゴブリン・クロウラー型をした駒が表示されている。駒の上に表示されている数字はそのままその種族の数だろうか。どうやらフロアの管理をしやすくするためのシステムのようだ。フロアに侵入者が来たときのアラームの設定なども出来る。「念話」はダンジョン内限定で配下と連絡が取れる魔法のようだ。試しにゴブリンに繋いでみる。
『アルジ ナンダ』
『おう、ちょっと「念話」のテストをな。元気か?』
『クスリ モラッタ ゲン』
『そうか、侵入者が来たらわかるようになった。来たら連絡するから今はゆっくり休め』
『ワカッタ』
ふう、ゴブリンはカタコトなのか。今まではこちらの言うことは伝わっていたけど向こうのことはイマイチ理解しにくかったからな、かなり有用な魔法を手に入れたと思っていいだろう。これからモンスターとのコミュニケーションは「念話」を基本としていこうかな。その後、グリーンクロウラーとマイコニドにも繋いでみた。ゴブリンのように会話というわけにはいかなかったが肯定や否定の意思がなんとなく通じるようになってやはり便利だった。ダンジョン内ならどこでも繋げられるのでこれならダンジョンを思い切り広げても大丈夫そうだ。
「ゲート」は空間魔法の一種らしい。ダンジョンマスター、モンスター問わずダンジョン内であれば空間を繋げて一瞬で移動できるようになった。これまではモンスターは配置の時に一度だけだったし、マスターの移動方法は徒歩しかなかったのでこちらも非常に便利だ。ただ、これまで同様侵入者が居る状態ではモンスターもマスターも「ゲート」で移動することは出来ない。
「ダンジョンマップ操作に「念話」、「ゲート」か。ダンジョン運営が捗るな!」
「うむ、細かいことは気にせず早く3億DP貯めるのだカイト」
「お前はもっと反省しろっ」
呑気なドラゴンを一喝してから新しく解放された要素のチェックに戻る。
「宝物庫」は名前そのままで宝物類を収めておくためのフロアが作れようだ。特殊効果としては宝物庫の番人としてのモンスターを登録できる。番人を倒さないと宝物庫の宝物は持ち出せないし、番人がどれだけ暴れても宝物庫の宝物が壊れたりはしない。ただ、光の玉は祭壇に設置しないといけないので宝物庫には置けない。悩ましいものだ。
「牢獄」も名前の通りで侵入者を閉じ込めるための施設だ。閉じ込めている数や質に応じてDPを産出するらしい。閉じ込めた者は発生するDPから生命維持のためにいくらか振り分けられるので閉じ込めっぱなしにしていても餓死してしまったりはしない仕様だ。あまり人道的ではないため使いたいとは思わないけどこの間のランディみたいに明らかにこちらに害意があってわかりあえない存在とかは放り込んだ上で忘れるというのもアリかもしれない。もっともランディに関しては閉じ込めたままだとそれはそれで厄介だったのでこの地形が解放されていたとしても使わなかっただろうが。
こちらも監守という存在を登録でき、閉じ込められた存在はこの監守へ逆らうことは出来なくなる。
宝物庫と牢獄はそれぞれ一階層に一つずつ置けるようだ。設置にかかるのはなんと百万DP!高い。また、項目が出てからわかったことだが光の玉を安置している祭壇もこの特殊フロアのようだ。地形初級は森林・洞窟・草原といったものだったのに一つだけ浮いてると思っていたがそういうことだったらしい。おそらく光の玉を入手した時点で解放されたとかだと思う。
「宝物庫かー。やっぱドラゴンといったらお宝抱えてるイメージあるけど実際どうなんだ?」
ちょっと気になったのでヘイムダルに話を振ってみる。
「気に入った宝物を宝物庫にしまってそこで暮らしている者は多いぞ。自身のダンジョンに宝物を溜め込んで暮らすというのは竜族の間では割とポピュラーな夢の一つだ」
やっぱり溜め込んでるのか。お宝を収集するとDPも入ってくるようになるしダンジョン管理側からすれば一石二鳥だしやらないという選択肢は無いよねやっぱり。
罠セット中級は条件付きの罠の集まりといったところか。スイッチを押してしまったら岩が転がってくるとかそういう方向の奴である。面白そうな所でいうと「真理の扉」だろうか。問いに答えないかぎり絶対に開くことのない扉らしい。
さて、素晴らしいことに新しいモンスター生成施設が解放されたが、森林とか付いているし森林フロアを設置した恩恵だろうか。新しい要素の解放条件もきちんと探っていくべきだよな・・・あ、ちなみに生成施設と付くやつはどれも魔法陣のようなものを設置する形になっている。侵入者が一定距離以上近づくと稼働を止めるので見つかって壊されてしまうようなことはほぼ無いといって良いだろう。
・モンスター生成施設(森林) 8000DP/月
フォレストウルフ・サーベルボア・アッシュグリズリーなどの森林に生息するモンスターを生成する施設。
日にそれぞれ5体、3体、1体ずつ。
森林フロアのみ設置可能。
三種類も生成できるのか、ちょっとお高めのDPなのも納得だ。三種のモンスターの詳細はっと・・・
・フォレストウルフ
獣種 狼系
森林に棲む狼型のモンスター。
体長は2~3メートル程が一般的、基本的な性質は狼と同じで集団での狩りを得意とする。
基本的に群れで行動しているので戦うときは囲まれないように立ち回る必要がある。毎年、多くの駆け出し冒険者がフォレストウルフの被害を受けていることもあり地域によってはフォレストウルフの群れの討伐が一人前の証となっているところもある。
危険度 D(単体の評価) ※20体以上の群れの場合はCランクとする
・サーベルボア
獣種 イノシシ系
森林に棲むイノシシ型のモンスター。
大きく歪曲した切れ味の鋭い二本の牙が特徴。草食だが気性が荒く、出会ってしまった場合ほぼ確実に戦闘になる。
猪突猛進とばかりに一直線に突っ込むのが得意のスタイルのため事前情報のみで安心しているパーティなどはその圧倒的なまでの突進力で貫き通してしまうパワー型モンスター。
危険度 D
・アッシュグリズリー
獣種 熊系
森林に棲む熊型モンスター。
通称「レッドグリズリー」、冒険者の間では正式名称よりもこちらの名前のほうが一般的である。
その理由は極めて好戦的かつ残虐な性格から常に得物の返り血に染まっていることから来ている。また、知能も高く敢えて冒険者を生かしておいて仲間をおびき出すなどの行動をとった個体の報告が上がっている。攻撃スキルを持っている種からCランク以上というモンスター脅威度ランクの基準により脅威度Dランクに甘んじているがその身体能力、知能ともに通常のDランクを遥かに凌駕した存在といえる。
危険度 D
今まで生成できたモンスターよりはランクの高いものばかりだ。というかアッシュグリズリーやばいな!熊は危険なのは当たり前といえば当たり前だが・・・
ダンジョン防衛のための要員と考えればこの施設は中々良さそうだな、せっかくなのでダンジョンの1階層は森林系ダンジョンにしてしまおうか。モンスターの移動などを考えるとあまりに互換性のないフロアを乱立させても応用が利きにくそうだし。
「新しくフォレストウルフ・サーベルボア・アッシュグリズリーの生成施設を作れるようになったぞ」
「ふん、中々味の悪くない奴らだな」
ヘイムダルにそう言ってみると恐ろしい答えが返ってきた。
「いや、ダンジョンを守っていく仲間なんだから食べるなよ」
「アッシュグリズリーなどは歯触りが良くて好きなのだが。それにDPで維持出来るとはいえ偶には食事もしたいぞカイト」
あれだけ怖そうな説明が書いてあったアッシュグリズリーもドラゴンからすればちょっとおいしいおやつみたいな感覚らしい。やはりドラゴンというのは規格外の種だよな。
「維持出来てるなら良いじゃん!保存食ばっか食って食いつないでた俺に謝れ!!とにかく、ダンジョンのモンスターを食べるのはダメだからな!!」
同僚を食べようとするヘイムダルに釘を刺してからダンジョン改装に戻る。
ひとつの階層に設定できるフロアの上限数は24みたいなので最大の24フロア全て使うことにする。まずは大フロアを一層の中心部に設置、そこを中心にそれを取り巻くように螺旋状に中フロアや小フロアを配置していく。中心部には向かわないコースもいくつか作っておいた。そちらは草原地形にしてブラックに頼んだ苗などを育てる場所にしたい。侵入者が入り込まないように工夫しないとなぁ・・・
12フロアほどの設置が終わったあたりで階層主のフロア設定が出来るようになった。基本的な性質は宝物庫の番人と同じで倒さないと次の階層に進むことが出来ない。もちろん大フロアを階層主用のフロアに設定する。
モンスター生成施設は小フロア1、中フロア3、大フロア10とフロアの大きさごとにおける個数が決まっていた。拡張性も考えて大フロアは余裕を持たせて6つ、中には一種類ずつ設置する。小フロアはマイコニドを群生させるつもりなので設置していない。小フロアはそもそも階層の中間地点に設置して一階層の中ボス的な存在を置きたいので数より質の予定だ。マイコニドが群生している地形の中、強敵と戦うとか結構エグいと思うんだよね。
え?強力なモンスターってどうやって調達するんだって?いや、ほらアレがあるじゃない。
大量にDP入ったわけだし戦力増強のために回すのは正義だと思うんだ。安全第一だからね!!
ついでに2階層の解放も行った。こちらの階層の地形は洞窟にした。現状で選べる地形は森林・洞窟・草原の三つなので被りがないようにという意図だ。どうもコアのレベルアップ時に出てきた項目からしてレベルアップまでにダンジョンをどのように運営したかによって解放される要素が変化している気がするので色々設置する方針にしたのだ。
改装後のダンジョンはこんな感じだ。
「光の森の迷宮」
ダンジョンコアLV2 (400/1000EXP)
1階層 24フロア (大1・中19・小4)
配下 ゴブリン 193
グリーンクロウラー 105
マイコニド 120
フォレストウルフ 105
サーベルボア 63
アッシュグリズリー 21
階層主 未設定
2階層 15フロア (大1・中10・小1)
「宝物庫」 守護未設定
「祭壇」 光の玉
「牢獄」監守未設定
配下 ドラゴン 1
スライム 10
階層主 ドラゴン(ヘイムダル)
スライム 10
保有DP 3,890,000DP
獲得DP
基本 372,000DP/月
宝物 10,017,00DP/月
(内訳)光の玉 10,000,000DP ミスリルの儀仗剣 10,000DP ミスリルのハーフプレート 5,000DP 妖精の取り分 2.000DP)
特殊ボーナス 「竜の巣Lv1」 200EXP/月 「光の祭壇」 500EXP/月 「森林の統率者」 20EXP/月
ダンジョンの名称が変わってしまったがどういう基準なのかがわからない。光の~はおそらく光の玉のせいだとは思う。新しく出てきた森の~は新しい特殊ボーナス「森林の統率者」のお蔭なのかそれとも一階層をほぼ森林フロアで埋めたせいなのかがはっきりしない。ヘイムダルがいることで付いている「竜の巣」に関する名前が無いことを考慮すると森林フロアが多いからという方が有力だがまだ確定というほどの情報が集まってるわけでもない。
「なかなか住み心地の良さそうな洞窟ではないか」
機嫌良さげに目を細めて喉を鳴らしているのはヘイムダルだ。結局、安全第一として最終防衛線としてヘイムダルには二階層最奥に設置した大フロア(洞窟)の守護者をやってもらうことにした。マスタールームも祭壇フロアと一緒に引っ越し済みだ。
洞窟というだけあってちょっと湿気は強い気がするが、光る苔がところどころに生えているせいか視界はそれほど悪くない。
「ちゃんと希望するだけの大きさのフロアを用意したんだ、ちゃんと防衛してくれよ。この間みたいなのはもうゴメンだからな」
「災禍」を相手にした時は本当に危なかった。正直あんな作戦で生き残ってる自分に驚く。いつ、死んでしまってもおかしくない状況だったと今になって思う。
「なんだ、やはり我が拾ってきたモノは必要だったではないか。中々の戦力だぞアレは」
「あの危険物に関してはそういう問題じゃないんだが・・・」
いい加減この話題も辛い。向き合わねばならないというのはわかっているのだが。
「とにかく、あと4百万弱ほどDPは残ってるけど今月のダンジョンの拡張はこのくらいにしておこう。ある程度余裕は持っておきたいし、ガチャも回したいからな」
「すべてのDPを使い切って拡張しろとは言わんが、ガチャは毎月制限があるぞ?」
「え、マジで!?」
「マジだ」
衝撃の事実をヘイムダルが告げる。急いでダンジョンメニューからガチャの項目を確認すると
―ガチャは各項目合わせて10回までです。計画的なダンジョン運営をしましょう!―
と書いてあった。
「なんだよこれ・・・」
「ダンジョンコアの項目はダンジョンコアを制作した妖精族が色々機能を作っているのだ。ガチャ機能が追加された頃はどの氏族もそれはもうたくさん回してしまってな。色々問題になった挙句一カ月10回までというルールになったのだ」
ヘイムダルがシブい顔でそう続けた。そうか、そうだよな。娯楽に飢えてダンジョン経営始める様な奴らにこんなシステム導入したらアホみたいに回し続けるよな・・・
「ヘイムダル君・・・」
「な、なんだカイトよ。というか君って」
「毎月100万DPはガチャに回します、宜しいですね?」
「100万!それはちょっと多・・・いや、必要だな!!わかっておる好きにするがいいぞカイト!!」
なにか異論がありそうなヘイムダルを見つめ返したらわかってくれた。そう、ガチャに全力になるのはダンジョンのためだ、だから仕方ない。よりレアなものがでる確率を上げるために10万DPガチャ10回分を毎月回すのは正しい、絶対に正しいのだ。
「とりあえず今月のガチャ配分どうするかだな。宝物を引きまくって宝物で入ってくるDP増を狙うのが一番DP的には良さそうなんだが、この広がったダンジョンをきちんと防衛するための戦力も欲しい。ダンジョン施設もなにか良い物が出るかもしれないし・・・」
「カイト、モンスター召喚なら我に任せろ。我が付いていれば大抵のモンスターは即座にカイトとの契約を結ぶだろう」
ヘイムダルが自信有り気にそう言ってくる。そういえばモンスター召喚は召喚するだけでその後の契約は交渉次第だったな。明らかに各上のドラゴンが配下になっていればそのあたりの手間が省けるということか。
「よし、ならまずはモンスター召喚ガチャを回すか。目標は一階層の守護者に成り得るモンスターを引く事だ!」
ダンジョンメニューからモンスター召喚ガチャを選ぶ。10万ガチャには「Cランク以上確定!」と書いてあった。宙に出現したレバーを気合を入れて捻る!
ガシャン、コロコロ・・・
出てきた球体を捩じり開けると球体が緑色の光を放つ。ヘイムダルの時ほど激しくはないが十分眩しい。光が収まるとそこには一本の木が立っていた。
「木・・・?」
「トレントだな、耐久力以外はたいしてみるところの無いモンスターだ」
ヘイムダルが酷いことを言っているあいだに向こうから契約の申請がくる、ドラゴン効果は高いようだ。契約を了承しつつモンスター大全を調べてみる。
・トレント
植物種 トレント系
木に擬態しているモンスター、歳を経るごとに強くなるとされている。
根を下ろしているせいか敏捷性は皆無だが、その分耐久力に優れる。近寄らなければ攻撃してこないので腕に自信がない間は避けて通るのが無難である。どのトレント種も「ライフドレイン」系のスキルを使うことが確認されており、耐久力と合わせて非常に厄介なスキルといえる。総じて火には弱い傾向にある。
未確認だがトレントのいる地域は植物がよく育つという伝承がある。
危険度 C
維持コスト 1,000DP/月
おぉ、ついにスキル持ちのモンスターか。耐久力しかとか言われてたけど拠点防衛と考えれば悪くないのではなかろうか。そして最後の一文が気になる。
『植物が育ちやすいとか書いてあるんだけどどうなの?』
『――――』
トレントから肯定の意思が返ってくる。やっぱ植物系は喋れないのかな・・・
「カイトよ、そやつには名がないようだ。せっかくだから付けてやたらどうだ」
「え、そうなの?」
ダンジョンメニューの配下欄を確認してみると確かにトレントとだけ書いてある。というか配下で名前が付いているのはヘイムダルだけだ。
「名を持つという習慣のある種は少ないからな。だが、召喚したモンスターは生成施設のモンスターより高ランクだろう?任せる役割も重いものになる。であれば名があったほうが便利ではないか」
「それもそうか、じゃあトレント!これからお前はキタロ・・・」
「それはなにかマズい気がするぞカイト!」
「仕方ない、じゃあモクノクケだ」
『――――』
モクノスケから嬉しそうな意思が飛んできた。特殊効果からして食料系の実験に付き合ってもらうことにしよう。一階層に作ったそれ用のフロアの一つに「ゲート」で移動してもらった。動きは遅いがまったく移動できないということはないらしく根を足のように使ってゲートを潜っていたのが印象的だ。
「さて、次行くぞ次!!」
出たままのレバーを回す、回す。
ガチャガチャ、コロン。お、今度の光は橙だ。
「ヴォフヴォフ!」
次に出たのは真っ黒な毛色をした大きな狼だった。フォレストウルフよりも二回りほど大きい、なかなかの威圧感だ。
・黒狼
獣種 狼系
体長5メートル程の巨大な狼。真っ黒な毛色が特徴的で、その体色を生かし闇夜での狩りを得意とする。宵闇の中、二つの金色の瞳の光が浮かぶ様は地方によっては最大級の恐怖の代名詞となっている。黒狼の個体数は多くないためか同種で群れることは無く、下位の狼系魔物を従えていることが多い。複数の黒狼が居た場合大抵が番である。
直接的な攻撃スキルである「スラッシュ」や「バイト」以外にも恐怖状態を引き起こす咆哮など一筋縄ではいかないモンスターである。もちろん群れで行動しているため単体で相手をすることは少ないこともこのモンスターの厄介なところだ。なお、過去に捨て子を育てた個体がいるとの話があるが真偽のほどは確かではない。
危険度 B
維持コスト 5,000DP/月
遂にBランク来たか!やっぱり狼系は浪漫あるよな!!とかテンション上がっていると契約の申請がきた。やはりドラゴンは怖いらしい。
『宜しく、お前の名前はクロだ!一階層でフォレストウルフのまとめ役をやってくれ』
『ヴォフ!』
嬉しそうに尻尾を振ると現れた「ゲート」を潜っていった。ちょっと名残惜しいが後でいっぱいモフるとして今はガチャの続きをするとしよう。
ガチャコロン!
トレントと同じ緑色の光の中出てきたのは・・・幼女?
「マスター、ケイヤク!」
真っ赤な華の蕾から生えているとしか言いようのない少女がそこに居た。にぱっという擬音が似合う屈託のない笑みをこちらに向けてくれている。しかし、皮膚も若干緑かかっているような。
・アルラウネ
植物種 妖精系
上半身は美しい女性、下半身が巨大な花の植物種モンスター。
個体数が極めて少なく、人間を避ける性質を持つため出会うことは稀である。
モンスターではあるが自己防衛以外で戦うことは無い。エルフなどの一部の種族と共生しているとの情報あり。
土属性上級魔法や植物種が得意のドレイン系のスキルを使いこなす。
女性型のモンスターの常として様々な物語が作られている。
危険度 C
維持コスト 2,000DP/月
「アルラウネ、モンスターっ娘か・・・これはコレでアリだな!」
テンション上がりながら契約を了承する。
しかし、モンスター大全の物語云々とかいうあたりにこの世界の人達の業の深さを感じる。やっぱりどの世界でもそういう層はいるらしい。この子はどこに配置しようかなぁ、本人に聞いてみるか。
「なにか得意なことはあるかい?」
「ショクブツ、ソダテルノトクイ!」
お、いいじゃないか。ぜひウチの食料問題の解決に役立ってほしい。というか人型なせいか念話じゃなくて普通に会話成立してるな。
「じゃあトレントのモクノスケと一緒に食べ物作って貰おうかな。あ、それと君はこれから『フローレス』だ!」
「ナマエ、ウレシイ!!」
ピョンっと跳ねるようにしてフローレスと名付けたアルラウネは抱き着いてきた。
ハハハ、愛い奴め。モンスターの魅力に上下はないと思っているがこの愛嬌というか可愛らしさは良い物だな。ぐりぐりと頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めている様子とか心が癒される。
「カイトよ・・・我の戦利品に対してはあれほど嫌がっておったのに。時折思っていたがお主特殊な」
「シャラーップ!まったくこれだからムッツリドラゴンは!!」
「むむむムッツリではない!」
「こんな可愛い生き物を純粋に愛でていただけなのに邪な目でみるとかムッツリ以外の何物でもないだろ!」
「その割には妙に嬉しそうだったではないか」
「モンスターを愛でているのだから当たり前だろう!」
「はぁ、もういい。さっさと次にいこうぞ」
俺が当然の主張をするとヘイムダルは溜息と共にガチャの続きを促して来る。全く、何が不満だというのか。
フローレスは先ほどモクノスケを送った作物エリアに「ゲート」を繋げて送り出す。蕾の下から生えているツタのようなもので器用に歩いていった。それを見送った後、またレバーを回す。
コロン、コロン。
ぬ、なにか蓋が硬い。今まで以上に力を入れて捻るとなんとか外れた。え、なにかドス黒い光が出てるんですけど・・・
「キチキチキチ・・・」
値踏みするようにこちらを見つめてくるモンスターには鈍色に光る巨大な鎌が二つ。
逆三角の頭部、せわしなく音を鳴らしている口元。感情の読めない瞳というか複眼。圧倒的な存在感の前に背筋が凍る。
・グリムリーパー
マンティス種 ユニーク系
マンティス種の上位系列の種が変異した希少種とされているモンスター。
見た目が巨大なカマキリなのはマンティス種共通だが、その鎌の鋭さはその中でも群を抜いている。
巨大な鎌による攻撃力、無尽蔵と言われるほどのスタミナ、様々な攻撃スキルなどその戦闘力の高さに目が行きがちだが一番の特徴はその殺意の高さにある。
その名の通り、縄張りに入ってきたモノを見逃すことは決してない。出会った者には確実に死が訪れると言われているモンスター。
運よく逃げ切れた冒険者もそのまま引退してしまうケースが多いのだとか。熟練の冒険者ですら避ける存在である。
危険度 A
維持コスト 100,000DP/月
ヤバいヤバい。この紹介文怖すぎるよ!
「力の差もわからぬ羽虫が!」
GUOOOOOOO!!
混乱している俺の横でヘイムダルの咆哮が炸裂する。やるなら一言言ってほしい。耳が、耳が。カマキリからの威圧感は消えたけど。
『ダンジョンモンスターとして契約してくれるかな?』
ヘイムダルが一吠えしたお蔭で対話出来そうなので念話で聞いてみる。
『カリバ、ヨウイシロ』
狩場か・・・Aランクだし一階層の守護してもらってもいいかもしれないけどコイツに任せると侵入者全部ちょんぱしてしまいそうで怖い。皆殺しルートは正直嫌だしここは一階層で絶対に入ってほしくないフロアの防衛に回そう。
『じゃあ、重要なフロアの防衛を任せるよ。そこに入ってきた侵入者は好きにしていい』
『ショウチ』
『あ、名前いる?』
『フヨウ』
そういって「ゲート」の向こうに消えていった。送ったのは食料実験に使うフロアの手前に位置する小フロアだ。侵入者がその先に進める未来が全く見えない。さっきのカマキリに任せておけば安心だ。あ、便宜上「グリムさん」と呼ぶことにしよう。
「はぁ、カッコいいけどめっちゃ怖かった」
「カイト、我の主なのだからもっと堂々としろ」
「はいはい。じゃあ続けるぞー」
ガラガラ、コロン。
ぬ、これも硬いな。一階層守護の為の高ランクモンスターは欲しいけどさっきみたいのはちょっと勘弁して欲しいんだが・・・
『此方を呼んだのは其方か?』
「え・・・?」
「面白いのを呼んだではないか、カイト」
眩い虹色の光の後に出てきたのは巨大なシカとも言うべき存在だった。頭部の角は複雑な曲線を描いているが決して醜くはなく、むしろ優美さを感じさせてくれる。先ほどからこちらを見つめている瞳からは獣とは思えない理性的な知性の光を感じる。穏やかではあるが先ほどのグリムさんよりもさらに圧倒的なまでの存在感を放っていた。
・ブレイブディア―
獣種 系統不明
霊峰や樹齢の高い大森林などの奥に棲むと言われているモンスター。
巨大なシカの見た目をしていると言われているが目撃例は極端に少なく定かではない。
多くのことが不明のままだが森の危機に際して姿を現すと言われており、その時には森のモンスターを束ねて鼓舞して活動するとの記録がある。森林に住む少数部族の内には神と崇めている部族もいる。
危険度 A(情報不足のため暫定)
維持コスト 400,000DP/月
って地方によっては神様かよ!これドラゴン級なんじゃ・・・というか応えてなかった、マズイ。
『召喚したのは俺で合ってます。ダンジョンモンスターになって欲しくて・・・』
『此方をダンジョンモンスターにして何を望む?』
『いやー出来たら第一階層の守護をしてくれればなぁなんて・・・ダメですかね?無駄な殺生はしたくないんでアナタだと安心出来るなぁなんて思うんですが』
『ふむ、宿星も含め妙なことを言う人間であるな。ドラゴンを従えていることといい興味深い。良いだろう、此方の力を貸すとしよう。其方、名は?』
『あ、カイトっていいます!』
『そうか、此方のことは「フィアレス」と呼ぶが良い。かつて、友が付けてくれた名だ』
『あ、はい宜しくフィアレスさん』
『あぁ、宜しく頼む。カイト』
そう言うとフィアレスは一階層の最奥大フロアへと「ゲート」で移動していった。ダンジョンメニューを操作してそのまま一階層の階層主として設定する。
―ブレイブディアーが階層主となったため一階層の地形森林は「霊樹」フロアへと変化しました。特殊称号『霊樹の森』を習得しました―
「おおう、なんだか凄いことになってしまったな」
「カイト、我よりもあやつに対してのほうが丁寧ではなかったか?」
「いやだってムッツリドラゴンとは比べものにならない威厳があったじゃん」
そう、この間のことで残念系ドラゴンと判明したヘイムダルよりフィアレスのほうがよっぽど凄そうなオーラを放っていた。
「カイト、我も怒るぞ?」
「暴れてもいいけどこのフロア壊さないでよ、修復にDPいるし。この間のアレ直すのだって大変だったんだから。」
「ぬぅ・・・」
ダンジョンモンスターがどれだけ暴れてもマスターの俺には一切被害は及ばないのでスルーだ。軽くあしらわれたヘイムダルは眉間に皺を寄せているがしばらくはチクチクいってやらないとまた同じことしそうで怖いんだよな。
「一階層の階層主も決まったし、モンスターはこのくらいにしておこうかな」
ダンジョンマップでモンスターの配置を確認してみたが悪くない。思い切って生成施設をたくさん立てたおかげでモンスターの数も増えていくだろうし、クロが中ボス的な立ち位置の場所を守ってくれている。食料関係の大切なフロアはガチャモンスター3体という層の厚さである。
「だだだ、旦那ぁー!」
マップを見つめニマニマしていたらマスタールームへの扉がバタンと開いた。バタバタとロッソが走り寄ってくる。
「どうしたロッソ、そんなに急いで。あ、『念話』使えるようになったからこれから伝令とか報告とか楽になるぞ」
「そ、それどころじゃねえんで!!お、起きやしたよ!」
「ん、なにが?」
「ドラゴンの旦那が拾ってきたアレですよ!!」
「マジか・・・」
どうやら、逃避の時は終わったようだ。覚悟を決めよう。あ、胃が痛い。
随分と間が空いてしまいすみません。この時点でどこまで広げるのかを悩んでいたらいつの間にかといった感じです。この土日の間にもう一話、投稿できたらと思っています。