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ダンジョン&ドラゴンズ  作者: 速水
12/20

DP屋

ネコだ、ネコがいる。

艶やかな黒色の毛並み、吊り気味の目、ピンと張った三角に尖った耳。

パーフェクトなまでの猫っぷりだった。・・・二足歩行さえしてなければ。


「ニャタクシ、こちらのダンジョンの担当をさせて頂くことになりましたケットシーのブラックですニャ。以後宜しくお願いしますニャ」


そう言って前脚を差し出して来るブラックと名乗ったネコ。いや、ケットシーか。反射的に前脚を受け止めながらどうしてこうなったのかをもう一度考えてみる。


俺は地元貴族の侵攻を防いだ直後、出血によって気を失ってしまっていたらしい。

気が付くとすでに日付が変わっておりダンジョンメニューには光の玉効果による膨大なDPが発生しており一人ニヤニヤしたのを覚えている。気を失う原因になった怪我は気を失っている間にヘイムダルが治してくれたらしい、そのことについては感謝しているのだがとんでもない爆弾をヘイムダルは拾ってきてしまっていた。


そう、ソレへの対処の為に急いでマスタールームの瓦礫などの後始末をゴブリン達に命じ、DPで家を出し住める環境を確保した。

危険物の安置とその他諸々の精神を削る一通りの作業を終えた後、現実逃避気味にダンジョンメニューで一カ月の節目を越えての変化の把握や今後のプランを考えていたのだった。


この一カ月で達成していたクエストは「ダンジョンを拡張しよう」「モンスターを配置しよう」などのおそらく初期に必然的に達成するものばかりだった。唯一他と違ったのは「大規模侵攻の撃退」だろうか。おそらく月末の戦いのことなのだろうが、面白いクエスト報酬が手に入ったので後で試してみるつもりだ。


そして特殊称号によるEXPも入っていた。ゲーム的に考えるならコアのレベルが上がれば出来ることが増えると思うのでDPの使い道はまずはコアのレベルを上げてから考えるのが妥当、とそこまで考えたところでダンジョンメニューからポップアップでメッセージが出たのだった。


―DP屋の訪問があります。許可しますか?(月一回)―


DP屋とはなんぞや?と思いつつ取りあえず許可してみた所、もはや見慣れた黒い穴のような転移ホールが出現。出てきたのがこの黒猫だったというわけだ。


「どうかしましたかニャ?」


「ああ、すまない。ここのダンジョンマスターのカイトだ、こちらこそ宜しく。といっても正直DP屋というのが何なのかわからないのだけれどもね」


前脚を掴んだまま物思いに耽っていた俺を訝し気に訊ねた黒猫、ブラックに曖昧に返すと一先ずの懸念を伝える。


「そうでしたかニャ、DP屋とはいわばダンジョンに来る定期的な訪問販売だと思って頂ければ結構ですニャ。ダンジョンに関することから日用雑貨まで、なんでも取り揃えております。ぜひご愛顧下さいニャ」


そういってペコリとブラックは頭を下げる。ううむ、可愛い。犬猫派閥の争いとは関わらずに生きてきた俺だが猫派閥へ所属したくなるような可愛さだ、やりおる。


「なんだか便利そうではあるな。どんなものを扱っているとかわかるものあるかな?」


「ではこちらをどうぞですニャ」


そう言って渡されたのは「DP屋カタログ 2676年春」とある薄めの冊子だった。開いてみると品目と対応したDPが書いてあるページがずらり。すべてではないが商品の挿絵も入っていたりと中々に凝った造りになっていた。


「へー、魔法が覚えられる巻物なんてあるんだなぁ」


ページを捲りながら気になったアイテムについてつい独り言が漏れる。一番安いのでも十万DPとかしている代物だが、治癒魔法など俺が覚えておいて損のない魔法もあるはずだ。この間のようなことはもう二度と出会いたくないが備えは重要だということも再認識したことだし。


「魔法の巻物は妖精族の特産品ですニャ、大抵は宝箱の中身にするみたいですニャ。」


「あれ、自分で使ったりしないの?」


「ダンジョンマスターになる方々は一族で一番強いとかの場合が多いのであまり必要ニャいそうですニャ」


「ああ・・・」


確かにドラゴン達なら後付けでそんなもの使わなくても十分だろう。他にどんなダンジョンマスターがいるのかは不明だが、ブラックの口ぶりからしてダンジョンマスター=ダンジョンボスのような図式が一般的なのではなかろうか。


「カイト様は人族で宜しいですかニャ?人族のダンジョンマスターというのはDP屋のニャタクシも初めての案件ニャのですが」


「うん、俺は人間だよ。どうしてダンジョンマスターになったのかは俺にもよくわかってないけれど・・・」


原因はおそらくあのゲームだし、その結果として此処にいることはほぼ間違いないと言って良いだろうけど「何故」の部分はサッパリのままだ。いずれわかる時が来るのだろうか。


「そうですかニャ、ダンジョン経営について指導もニャくランク入りとは有望なマスターさんニャのニャ。担当商人として楽しみニャ」


なにか、妙な単語が聞こえたような。ランク?


「DP獲得ランキングですニャ。一カ月、半年、一年での集計がありますニャ。このダンジョンは先月の獲得DPランキングで98位に入っていましたニャ」


98位って喜んでいい数字なのだろうか。というか最低でもこの世界には98以上のダンジョンがあることがわかってしまった。


「ダンジョンができて初月にランク入りするのは凄いことニャ。自信をもっていいニャ」


ブラックはしきりに凄いと連呼してくる。商人としてのセールストークも入っているだろうが悪い気はしない。


「それで、このカタログから欲しいものがあれば月一でブラックさんに注文すればいいのかな?」


「そうですニャ。他にはカタログにニャいものでもこんなものが欲しい等の相談にのるのもDP屋の仕事ですニャ」


「そういうのもあるのか・・・」


話を聞く限りだと随分と便利なもののようだ。扱いとしてはダンジョンマスターの御用商人みたいなものだろうか。似たような機能で物質生成が使えなくもないがどうもあの機能は不明瞭な点が多くて使い勝手が悪い。既存のものの調達ならDP屋に頼んだほうが楽かもしれない。


「大体わかったし、早速相談に乗ってもらおうかな。今欲しいものは・・・まず薬類だな。このカタログにあるポーションってのを初級が500個、中級が1000個、上級を50個欲しい。あ、大量購入したら割引とかないかな?」


初級は傷の治りが早くなる程度、中級は結構な重症でも時間はかかるが治る、上級は瀕死の重傷でもなんとか治る程度らしい。それぞれ200DP、1000DP、10000DPだ。さすがに失った器官を復元させる程のものは無いようだが飲んだだけで傷が治るとか十分にファンタジーだ。備蓄も含めてある程度確保しておいたほうが良いだろう。


というかそういったアイテムの存在がすっぱりと頭から抜け落ちていた。この間は損耗率とかなんとかいってたけど物資としてポーションが多く支給されているようであればさらに厳しかったかもしれない。カタログの説明文を見る限りどうも即効性のある薬ではないようなので短期決戦を挑んだことが思わぬ功を奏した形かもしれない。


「そんなにポーションを買い込むマスターさんは初めてニャ。割引に関してはそういった事例がニャいから時間が貰えるなら一度妖精界に戻って相談してくるニャ」


貴重な医療物資だと思うんだがドラゴン達にとってはそうでもないのかね。力が全てという種族らしいし治療行為とかとは遠いのだろうか。それにしても妖精界なんてあるんだね。いや、なんかヘイムダルがそんなようなことを言ってた気がするけどよく覚えてない。

「じゃあ初級ポーションを200個、中級のポーションを100個だけ先に納品してもらってもいいかな、結構な数のモンスターが怪我をしてしまっていてね」


この間の侵攻は食い止められたものの、少なくない被害がゴブリン達にも出てしまっていた。きちんと撤退の訓練を積ませたおかげか死んでしまった者はそう多くは無かったが怪我をしたものは無数にいる。彼らの治療をしてやれねばなるまい。


「ダンジョンモンスター達の治療をするのですかニャ?」


「当然だ、彼らはダンジョンを守ってくれる大切な仲間だからな」


驚いたように聞いてくるブラックにそう返した。そう、モンスター達は俺の安全を守ってくれる頼もしいパートナーであり同じダンジョンに棲む仲間だ。蔑ろにしていいわけがない。


「そうですかニャ、では初級と中級の一部を先に納めて、残りの値段は一度持ち帰って相談することにしますニャ。他になにか御座いますかニャ?」


「あー、いい加減まともな食料がほしい。魔物食材でないやつで。なんとかならないか?」


そう、実は初めてセットに入っていた一カ月の食料はなんと干し肉に黒パンなどの所謂保存食系で空腹は紛れるものの圧倒的に味の面で不満が残った。ロッソがマイコニドを連れてきた経緯には実はそういった背景もあったりする。結局マイコニドを食うことは許さなかったので二人で保存食と森林エリアで得られる木の実やら果実やらで一カ月を過ごしていたのだった。


「人族の食材となると取引先がニャいので今すぐは難しいですニャ・・・苗などであれば入手できると思うニャ」


人間のマスターは初らしいからな、ラインナップに無いのも頷ける。毎月DPで食料の確保するというのも家計を圧迫するかもしれないし自給自足の為にそれ用のフロアをダンジョン内で作るというのはアリかもしれないな。気候も弄れるみたいだし地上よりもやりやすいかもしれない。結果が出るまでは干し肉生活か、もしくは物質生成のお世話になるとしよう。イメージが大事みたいなのでスーパーの特売肉とかイケるかもしれない。問題はDP効率だが。


「そうか、ではこの辺りで食べられている穀物で主流なものを100、そのほかの作物の苗や種を適当に見繕って50ずつ調達してきてくれないか。それと、最後に俺の身を守る術としてなにか良い物はないかな?」


「苗や種については入手出来次第お送りしますニャ。カイト様の身を守るもの、ですかニャ。具体的にどのような物が良い等ありますかニャ?」


「うーん、やっぱりダンジョンなんだしモンスターで防衛したほうが夢があっていいんだけどね。この間マスタールームにまで入り込まれてしまって大変だったんだよ」


正直アレはもう二度と経験したくない。もうちょっと穏当な世界で生きていた身としては命のやり取りなんてのはしないで済むならそれに越したことはないのだ。


「なるほどですニャ。そうなると傍に控えられる系のモンスターなどはいかがですかニャ?人狼や吸血鬼、睡魔族など人族にある程度近い者達などもいますニャ」


「そういった人達ってモンスターって枠に入れて良いものなの?」


「種族毎の違いはあるニャ、でも結局ダンジョンと契約するなら本質的な違いはニャいニャ。モンスターなんてわけかたは人族が勝手に分けてるだけだしニャ」


人と近しい姿かたちをしてるから仲間、それ以外はモンスターとかそういった括りのようだ。でも結局ドラゴンみたいに明らかに人間とはかけ離れてる存在ともこの世界では意思疎通ができるし枠組み自体が適当そうだ。


「他には・・・モンスターに拘らないのであれば魔法の鎧とかですかニャ。質の良い物であればある程度自動で迎撃してくれる機能が付いていたりもしますニャ。」


鎧で自動迎撃システム組めるとか魔法凄いな。そういえば対外的には俺はリビングアーマーってことになってるから鎧の質を上げるというのは割と良い選択肢かもしれない。見た目にもこだわったものにすればそれだけで強そうに見えてお得かもしれないし。


「そういった鎧にどんなものがあるかとかもう少し詳しく聞きたいな」


「でしたらこれをどうぞですニャ」


そういってブラックは先ほどと同じような冊子を手渡してくる。今度は鎧専用のカタログの様だ。

ペラペラと頁を捲っていく。おそらく種族毎の好みに合わせているのだろう、様々な意匠の鎧がたくさん目に入ってくる。サイズに関してはさすが魔法の鎧だけあって自動で合わせてくれる仕様のようだ。


「物理・魔法障壁付フルプレートメイル600万DP、自動迎撃魔法乙型800万DP、甲型950万DP。うーんどれも高いなぁ・・・」


質の良さそうな鎧はどれも結構なお値段がしてしまうようだ。探しているのが全身を覆うフルプレートメイル型ということも値段が高い要素の一つかもしれない。

なかなか手頃なものが見つからないまま冊子の最後にたどり着くと気になるモノを見つけた。


「元勇者の鎧…?50万DPってこれだけ随分安いな」


鎧の種類はフルプレートメイルのようだ。ただ、名前だけが書いてあり他の鎧のように挿絵などは描かれていない。小さく、キズモノ特価とだけ書いてあった。


「それは300年くらい前に人族の間で勇者と呼ばれていた人間の鎧ですニャ。痛みが激しいのに加えてちょっと曰くつきの一品ニャのです」


「曰くつき?」


「ニャんでも手入れをしてもすぐ傷んだ状態に戻ってしまうそうですニャ。それと安置していた場所から勝手に別の場所に動いていたという話も聞きましたニャ」


え、何それ怖い。元とはいえ勇者の鎧がそんなホラーな感じでいいのだろうか。でも、勝手に動くってもしかしてアレなのかもしれない。


「面白そうなんでコレ頼んでいいですか」


「え!コレを買うんですかニャ?」


「ええ、元勇者の鎧なんて浪漫があるじゃないですか」


勇者関係といえばダンジョンには光の玉がある。もし呪い関係がかかっていたとしてもなんとかしてくれるかもしれないし、そうでなくてももしアレなら上手い事いけば自動迎撃の魔法どころじゃない鎧が手に入るかもしれない。


「わかりましたニャ、それでは今月はこの辺でお暇致しますニャ。ご注文の品は用意できたものから順にダンジョンコア経由でお送りしますニャ」


なんだかんだで色々買ってしまった、全部で200万DP分くらいだろうか。商品はコアを経由する転送魔法で届くらしい。DPもそのときに自動的に引き落とされるようだ。妙な所でハイテクである。



さて、次はダンジョンの拡張だ!


え?爆弾とやらはどうするんだって?ホント、どうしようかなぁ・・・

第3話でのグリーンクロウラー生成施設の設定を構想段階の旧バージョンのまま投稿してしまっていたことに気付いたので修正したしました。

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