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7杯目

「ほら、お待たせ」

「ありがと」


リセに頼んで極限まで甘くした『スウィート・キャラメル・コーヒー』を差し出す。


カウンター越しに座る小学生――明日遥は、そのコーヒーに少し口をつけた後、眉に皺を寄らせてコーヒーをカウンターに下ろした。


「何だ、熱かったか?」

「ちょっと、熱かったかも。……匠君、冷まして欲しいの」


猫舌な子供だ。


いや、子供は総じて猫舌か?


そういえば俺も昔は猫舌だった。


ま、そういうことなら仕方ない。


「じゃ、水ぶち込んでくるよ」

「ちょっと待つの」


いつも通り世界を呪っていそうな声で遥は俺を止めた。


相変わらずこいつの声はテンションが低い。


『いずれ世界はわたしの思うがままになるの』


口癖がこれである。


凄く悪っぽい笑顔で言うのだ。


ちなみにこいつの笑顔はこの台詞の時しか聞いたことが無い。


基本的に不機嫌な顔だ。


「何だよ、冷まして欲しいんだろ?」 

「やり方がおかしいの。どう考えてもコーヒーに水を入れて冷ますやり方は非常識極まりないの」

「な、何だよ。お前まで醤油で冷ませとか言うのか!?」

「い、言わないの。それは病気なの」



■■■



「クシュン! あ、あれ風邪でしょうか? あっ! もしかして誰かがまたリセのことを可愛いって言ってるんでしょうかっ? もー、しょうがないですねー」



■■■




どうやら醤油で冷ませ、と言ったわけじゃないらしい。


安心した。


誰かさんの醤油フリークが伝染したかと思った。


実際に昨日も俺が作った味噌汁に熱いからという理由で醤油を入れようとしやがったし。


全くどこかの誰かさんときたら本当にしょうがねえな。


そのうち醤油風呂なんてものを作りかねんな……。


ちなみに醤油フリークは醤油フレークと似ている。



「もういい、すっかり冷めちゃったの」



不機嫌な顔をさらに不機嫌にしてコーヒーをすする遥。


一体何が不満なのか。


何を入れて冷ませば満足だったのか?


それは誰にも分からない。


「……ふぅ」


そしてタメイキを吐く。


心底疲れている時のタメイキ。


具体的には残業が続いているサラリーマンのタメイキだ。


まあ、原因は分かる。


本業の方だろう。


「忙しいのか? 随分疲れている様子だが」

「……? 別に仕事の方は全然なの。どちらかと言えばストレス発散になるの」

「え? でもいつもあんなビュンビュン飛び回って撃ったり撃たれたりだろ? しんどくないのか? 俺だって階段の上り下りでたまにしんどくなるぞ?」

「それはただの運動不足なの」


……美香と同じこと言われた。


やっぱ運動不足なのかねぇ。


サッカーでもするかな、リセを誘って。


あー、でもあいつ晴れてる時は外出れんしな……。


……うーん。


あ。


店の中でやればいいのか。


俺って普通に発想力豊かだな。


よし、明日やるか。


「別に仕事の方は全然楽勝なの」

「でも、この間テレビで見たときは結構やばそうだったぞ」


昨日の放送『第35話 絶体絶命! なるか必殺バーストレイン!?』


Aパートはライバルにボロボロにされ、Bパートで新必殺を編み出し逆転という展開だった。


ちなみにノンフィクションである。


「あれは演出。三代目ダニエルが言うには『僕から君にへの言葉は三つ。ギリギリで勝て。喰らったら痛そうな声を出せ。あざとくてもいいからパンチラしろ』らしいの」

「えー、何かやらせっぽいな」

「そんな事言われても困る……大体相手が弱すぎるのが問題なの」

「そんなに弱いのか?」


魔法少女ハルカのライバル、魔法少女エクゼはずる賢い。


いつも卑劣な手段を使ってアスカを苦しめるのだ。


正体は不明。


目的はこの町にある何からしいが……。


以上、番組宣伝より。


「ものすっっっごく弱いの。わたしが目を瞑って指一本で徹夜明けで風邪ひいて……」

「やっと勝負になる?」

「ううん。それでも勝っちゃう。そもそもわたしが強すぎて相手の攻撃が届かないの」

「え、でもお前服とか破けるじゃん」

「アレ仕込んだ火薬を爆発させてるの。よくバラエティとかでやってるやつ」


うわー、いらん裏事情聞いちゃったよ。


バラエティと同レベルかよ……。


「バリアの強度をギリギリまで落としても駄目なの。たまにあくびが出そうになって困るの」


はぁ、とタメイキをつく遥。


成る程、強者故の悩みってやつか。


色々大変なんだなぁ。


「じゃあ何でそんなに疲れてるんだ? 親が離婚でもしたのか?」

「パパとママはうっとうしいくらいにラブラブなの。この間敵に攫われた時もラブラブしてたの」


あ、アレか。


『第21話 え!? 攫われたパパママ!』か。


確かにラブラブだったな。


あれが演技で無いのが凄い。


危うく濡れ場に突入しそうだったし。


ん。


あれ敵のアジトなのにどうやって撮影してんだ……。


そもそも毎回の撮影で凄いアングルで色んな角度から撮ってるけど……空飛んでるよな?


「撮影に関してはわたしも不思議なの。この間なんか危うくお風呂入ってるところを撮られそうだったの……まぁ、辺り一帯を魔法弾で吹き飛ばしたから大丈夫だったけど」


この間の話か。


確かに不自然に映像が途切れたな。


「最近は誰の気配がしたら誰彼かまわず吹き飛ばしてるの」

「それやりすぎだろ」

「さっきもこの店に来る前に水着を着た人に、学校で着る水着を無理やり着せられかけたから最大出力で吹き飛ばしたの」

「よくやった! あれは怪人スク水女でな、この辺りに出て赤子から老人まで無差別にスクール水着を着せまくって困ってたんだよ」


功労者を労わるつもりで、遥の頭を撫でる。


「……よく分からないけど褒められたの」


キョトンとした顔で俺に頭を撫でられる遥。


いや、いい仕事をしてくれた。


最近あいつ調子乗りまくってたからな。


この間深夜に寝込みを襲われたし。


いい薬になろうだろう。



と、話しが逸れたが何で遥が疲れているかって話しだな。



「両親が離婚したんじゃないなら何だ。父親が女装趣味にでも目覚めたか?」

「違うの」

「男装趣味に!?」

「だから違うの。そもそも男の人が男装趣味をするのは変なの」

「いや、そこまで変じゃないぞ。男が男になる――つまり男の中の男になるんだ」


哀川翔みたいにな。


「だから優しく見守ってやれ」

「だから別にパパは目覚めてないの」

「じゃあママか?」

「ママも別に……あ、でも最近ママが変な服を一杯集めてるの」


変な服?


「おっさんの顔だらけのシャツとか?」

「そういう変じゃないの。えっと……バスの運転手さんが着る服とか……」


ほうほう。


「看護婦さんが着る服とか」


ほうほう。


「高校生が着る服とか」


あー、なるほど。


「OLの人が着る服とか」


お盛んですなぁ。


「外国の甲冑とか」


――!?


「昔の日本人が着てた……あの、サムライの鎧?」


異種格闘技対決!?


性的な意味で!?


「一番新しいのは犬の着ぐるみと猿の着ぐるみ」


獣プレイ!?


犬と猿……ツンデレプレイか!?


「あとお月さまと太陽のお面もあった」


太陽と月!?


クレイジーすぎだろ!?


太陽パパママがイロイロして地球(遥)が生まれたんだよ、ってアホか!



「ママが考えてること全然分かんないの。ママに聞いても『これを使ってお仕事で疲れているパパを労わるのよ』としか言わないし」



一回会ってみたいな。


一回だけでいいけど。


「疲れているのはそのせいじゃないのか?」

「別に疲れてないの。ママが変な服を集めててもわたしには関係ないし」

「じゃ、何に疲れてんだよ?」



そう聞くと、心底嫌そうな顔で深く深くタメイキをついた。


相当に深刻そうだ。


俺が慈しむ目で遥を見守っていると「すぐに喋るからそんな怒らないで欲しいの」慈しむ目で見守っていると、遥はゆっくりと口を開いた。



「学校のことなの」



学校。


学校。


小学校。


学校かぁ。


懐かしいなぁ。俺もつい最近まで通ってたんだよな……。


ああ、楽しかったなぁ。


友人達と馬鹿やってたあの日常。


授業もつまらなかったけど、そのつまらなさがまた学生生活を盛り上げた。




――楽しかった、体育祭!


どっかのスクール水着を着た人が騎馬戦に乱入してきて大変だったなぁ。


そういえばあのスクール水着の人、夏の水泳の授業の時には当たり前のように一緒に泳いでたなぁ。


さも知人の様に話しかけてきて困った困った。


いつの間にか水泳の指導とかしてたしなぁ。


体育のテストでスクール水着の歴史について出たのは、もしかしてあの人のせいなんだろうか?


――楽しかった文化祭!


3年の文化祭、俺達のクラスは喫茶店をやった。


当然の様に俺は店長……にはならず、何故かコーヒーを作らされた。


何か度胸試しに使用されていたらしい。


ま、飲んだ後に無事に立っていた奴はいなかったがな!


あと部活の頭のおかしいゴスロリ着た後輩が、文化祭中ずっと俺の後ろについていたらしい。


後で写真を現像した時に分かった。


本人曰く


『フフフ、トイレにはついていきませんでしたヨ』


らしい。死ね! 死んで償え!



――思い出いっぱい、修学旅行!


北海道に行った。


雪で覆われた北の大地は美しかった。


思わず涙を流して、凍らせてしまったほどだ。


流氷も見に行った。


何か当たり前の様に一緒に来ていたスクール水着の人が流氷の間を泳いで、そのまま帰って来なかった記憶があるがそれは北の大地が見せた幻の記憶だろう。


アイドルとしての仕事が軌道に乗って忙しかった美香に土産話したら悔しがったなぁ。


その後冬休みに無理やり北海道に連れて行かれたのは予想外だったが。


そして流氷を見に行ったらスク水の人が仁王立ちで


『置いて帰るなんて酷いじゃないか!』


とか言ってたけど、多分寒さが見せた幻覚だろう。美香もそう言ってたし。



――お別れの、卒業式!


ああ、これでこの日々が終わるんだなぁ……と思ったら悲しかったなあ。


前日の夜に泣いてしまったくらいだ。


それを妹に見られたのは不覚だった。


『誰!? だ、誰に虐められたの!?』


とか慌てた妹は傑作だった……。


今でもたまにその時の話をされる。


そして卒業式当日。


先生達の別れの言葉が身に染みた。


嫌いだった生活指導のマーク・ミハエル先生の言葉、


『オマエラハ最高にイカレタ生徒ダッタゼ! オマエラトノチェイスハ最高にハイッテヤツダッタゼ! アメリカ最高ォー!』


思わず涙してしまった。


他に見たことが無い先生もいた。


この学校には俺の知らない先生がまだいたんだなぁ、としみじみ思ったよ。


『や、諸君。卒業おめでとう。喫茶親知らずをよろしくね!』


どっかで見た気がする先生だったが、まあ気のせいだろう。


そして生徒代表として卒業式の答辞を読んだ人物。


『君たちと別れるのは非常に辛い。まだまだやり残したことだらけだ。学生生活中に匠君にスクール水着を着せることが出来なかったのは、我が人生で一番の不覚だ……!』


とか俺の名前をバリバリ出しまくった答辞だがこれも気のせいだろう。


周りの皆が泣きまくって俺だけ泣いていなかった記憶もあるが、まあこれも気のせいだろう。


なんか俺の記憶気のせいだらけだなぁ。



――そんな学生生活。


懐かしい。


戻れるなら戻りたい。


今のこの生活が嫌ってわけじゃないが……学生生活は人生の中でも別物だ。


二度と戻れない過去。


戻りたくても戻れない。


だから人はその手の店に行って、制服を着た女とそういったイメージプレイをすることで、過去を反芻するのだろう(オチ)




「――と、いうわけなの。全く困ったものなの」



と、俺が学生生活を回想している内にどうやら話は終わったようだ。


やべぇ、聞いてなかった。


俺の焦りが顔に出ていたのか、遥は訝しげな顔で覗き込んできた。


「……聞いてたの?」

「あ、ああ! 聞いてたけど!」

「じゃ、言ってみるの」


……学生生活の悩みか。


そうか、俺の時に当てはめればいいのか!


よし!


「学生生活の記憶のうち、殆どスクール水着を着た女がいた」

「そんな学生生活まっぴらごめんなの」

「自称『愛の忍者』とかほざく後輩にストーキングされて困った?」

「……違うの」

「じゃ、じゃあ外国人教師がチラチラと黒光りする物を見せつけるとか!?」

「……」

「じゃ、じゃあ! 中学校の時のあだ名が『ジューダス』だとかか!?

「……」

「じゃ、じゃじゃあ! クラスメイトでも無いスクール水着の人が当たり前の様に教室で飯食ってたりとか!? しかもスク水丼」

「……」

「じゃあ――」




あること無いこと暴露してしまった日であった。


ちなみに悩みとは、クラスの掌握が上手く進まないという話だった。

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