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6杯目

あるところにとても可愛い男の子がいました。


人の言う事を良く聞き、頼まれれば何でもするいい子でした。


そんな彼には幼馴染の少女がいました。


その女の子は男の子を尻に敷きまくっていました。


それはもう言い感じに子分的扱いをしていました。


男の子はそれでもいいと思っていました。


男の子はその女の子ことが大好きでしたし、色々と命令されるのも嫌ではありませんでした。


ある日のことです。


学校の授業も終わり、男の子はいつもの様に女の子の席に向かいました。


いつもの様に女の子の鞄を持って一緒に帰る為にです。


この男の子マジ犬ちっくでした。


しかし、その日は違いました。


女の子は寄ってきた男の子から視線を外しながらこう言いました。


「もうあんたとは一緒に帰らないわ。これからは別々に帰るわよ。それから朝も起こしに来なくていいから」


女の子は若干頬を染めたまま、教室から走り去って行きました。


男の子は思いました。


……嫌われてしまった、と。


実際は思春期に入った女の子が、男の子のことを意識してしまい今までの扱いからどうすればいいか分からない……というのが真相でした。


一緒に帰って噂とかされると恥ずかしい……そんな感じでした。


しかし男の子はそんなことを露知らず、ただ悲しみました。


それはもうシクシク泣きながら家路につきました、一人で。


「……しくしく、嫌われちゃったよぉ」


涙をポロポロ零しながら男の子は歩きます。


男の子は家とは反対方向へと向かっていきます。


実はこの男の子マジ方向音痴で、女の子が一緒でなければまともに目的地に着かないのでした。


そのうち人気の無い路地へと入ってしまいました。


男の子は悲しいのと怖いのとで更に泣いてしまいます。


「こ、ここどこぉ……? お、お家はぁ……?」


そのままどんどんと路地の奥へと向かってしまいます。


この男の子結構アホなので、引き返すという考えが無いのです。


男の子は人気の無い路地をビクビクと歩き……少し開けた場所に出ました。


目の前には小さな建物が一軒。


男の子は建物の看板を見上げました。


「……ら、ず?」


やはり男の子は結構アホだったので、漢字を読めず平仮名の部分だけしか読めませんでした。


男の子は思いました。


(……らず、って何だろう? らず、らず……ラズ、ラズ……ラズ!?)


何故だか分かりませんが、男の子はその言葉が怖くてたまりませんでした。


そんな男の子ですから、すぐ傍に知らない男が立っていても気付きませんでした。


男はゆっくりと男の子に近づき、優しく声をかけようと肩に手を置きました。


「ら、ら、ら……ラズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッッッ----!?」

「ラズゥ!?」


男の子は悲鳴をあげて倒れました。


男も突然悲鳴をあげられたので、ひっくり返ってしまいました。


「助けてぇえぇぇぇぇ! うわぁぁぁぁん! やだぁぁぁぁぁぁ!」


男の子は泣き叫びました。


「ちょ、ちょっと君! な、なんもしないから! 泣かんといて! ただでさえ少ない客が減っちゃう!」

「みかちゃぁぁぁぁぁん! 助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」


男の子は女の子の名前を叫びました。


「だ、大丈夫だって! 俺みかちゃんだから! だから泣くなって! お願いだから泣かんといて!」


男は混乱してわけの分からないことを言いました。



■■■■



男の子はほぼ拉致される形で建物の中へと連れていかれました。


「……ひっく、ひっく……うえぇぇ」


男の子は建物の中の椅子に座らされました。


この建物はどうやら喫茶店のようです。


机と椅子がたくさんありました。


男の子意外に人はいません。


男は男の子は座らせるやいなや、奥へと行ってしまいました。


男の子はこれから何をされるか不安でビクビクしながら、辺りをキョロキョロしました。


店内には謎の置物や、人形が置かれており、それが男の子をさらに不安にさせました。


「お待たせー」

「ひぃ!? うぁ、ぁぁあああ……」

「ちょっと待った! 何もしないから!」


泣きかけた男の子を男が必死に止めました。


「こ、これ! ほらおいしそうでしょ?! 食べていいから!」

「……あ」


男の手には大きなパフェがありました。


男の子の目はそれに釘付けになりました。


所詮は子供です。


スプーンをもらうやいなやパフェに喰らいつきました。


「……ふぅ、良かった良かった」


男は額の汗を拭いつつ、安堵しました。


あのまま泣き叫ばれていては、誰かに通報されていたかもしれません。


男の判断は正しかったでしょう。


男はパフェを貪る男の子を優しげな目で見ていました。


「……けぷっ」


あっという間に男の子はパフェを完食しました。


そこでハッと気付きます。


「お、お金もってないですぅ……」

「ああいいよ。タダだよ、タダ」

「やったぁ!」


男の子はタダでパフェを食べれてラッキーと思いました。


意外としたたかです。


「その代わりと言っちゃあ何だけど、何であんな所にいたか教えてくれるかい?」


男のその言葉に男の子はゆっくりと、その日の女の子とのやり取りを話しました。


男の子はすっかり男を信頼してました。


こんなにおいしいパフェを作る人が悪い人なわけがない、そんなことを思っていました。


やはりアホです。


「成る程、その女の子に嫌われちゃったと」

「……うん。今まで仲良かったのに……ぅぅ」


男の子は思い出して涙ぐんでしまいます。


「本当に嫌われちゃったのかね?」

「……え? だ、だってもう一緒に帰らないって」

「いやいや、結論を出すのは早いよ」

「けつろん?」

「答えってことさ」

「こたえ……」


男の子は悩みます。


「俺が思うにね、その子はツンデレなんだよ」

「ツンデレ?」


また分からない言葉を言われて、首を傾げました。


「多分ね、他の男の子に野次られたんじゃないか? お前ら付き合ってるだろ……とかさ?」

「つ、つき合ってないよ!」


男の子は顔を真っ赤にして言い返しました。


マジピュアです。


「それで君のことを意識する様になったんじゃないかね」

「いしき?」

「まあ、その辺りは本人に聞かなきゃ分からないけどね」

「……」

「その女の子とちゃんと話してごらん」

「で、でもまたおなじこと言われたら……」

「その時はまたここにおいで。一緒に考えてあげるよ」

「ほんと?」

「ああ、ほんとさ。俺はね、人の悩みを聞いたり、一緒に悩むのが大好きなのさ。この店もその為にあるものだしね」

「よくわかんない」

「ハハハ。ま、趣味だよ趣味」



■■■■



「てんちょう! みかちゃんとなかなおりできたよ!」

「それは良かった。で、その顔は他に何かあるんだろ?」

「うん! こんどね、妹のたんじょうびなんだ!」

「その誕生日に何をするか、一緒に考えてってことかい?」

「ちがうよ。……パフェのつくりかたを教えてほしいの!」

「いいけど……難しいぞ?」



■■■■



「てんちょう!」

「どうしたんだい?」

「へ、変な女の人が水着で追いかけてきたの!」

「またあいつか。あいつは本当にしょうがないな。……まあ、気に入られたってことだよ」

「いやだよぉ!」



■■■■




「店長」

「やぁ、久しぶりだね」

「ああ、ちょっといい風が吹いたからな。あんたの顔を思い出したのさ」

「……」

「おっと、俺がここに来たことは忘れたほうがいい……それがあんたの為さ」

「そうか……君、もう中学生になったんだね」

「グッ、み、右手が疼きやがる……!」


■■■■


「やはりメイドは素晴らしいね」

「ああ。メイドに逆に罵倒されるのとか想像したらヤバイよな」

「君随分と倒錯した趣味持ってるね」

「あんたに言われたくねえよ! 何だよメイド服+筋肉女って!? どういう趣味だよ!」

「だからね、メイド服に隠されたムッチリとした筋肉がね……」

「想像させるな!」



■■■■


「た、匠君! こ、このスクール水着を着るんだ! じゅ、十万までなら払うから!」

「寄るな変態」

「店長からも言ってくれないか? むしろ店長も着てみないかい?」

「俺はむしろメイド服を着て欲しいね」

「寄るな変態共」


■■■■






男の子は大きくなっても、定期的に店に通いました。


そこで店長と話すのが彼の趣味でもありました。


そんな日はある日唐突に終わりを告げます。



「……閉店?」

「まあね、俺も歳だからね。そろそろ故郷に帰ろうかと思ってね」

「あんたの故郷どこだよ?」

「知らない方がいい……それが君の為さ」

「……」


店長は人の黒歴史を弄るのが大好きでした。


「……」

「おや? もしかして寂しいのかい?」

「ちげーよ! アホか! 暇潰せる場所が無くなってダルいだけだ!」

「そうかい」


店長はニコニコと笑いました。


「しかし俺もね、この店を無くすのは惜しいと思ってるんだよ。折角建てた店だしね」

「じゃ、どうすんだよ?」

「君にあげる」

「……はぁ?」

「え、欲しくない? っていうかもう手続きとかしてるんだけど」

「はあ!?」



■■■■



「君がこの店はどんな風にしていくのかとても気になるよ」

「だったらあんたが続けろよ」

「いやいや、もう長い間趣味に時間を費やしたからね。そろそろ本業に戻らないと色々うるさいんだよ」


店長の本業については尋ねませんでした。


また弄られることが分かっていたからです。


「いつかまたこの店に来るよ、客としてね。その時は頼むよ?」

「その時には潰れてるかもしれんぞ」

「ハハハ、それもまた楽しみさ」


店長はいつもの様に笑っていました。


そしていつもの様にダラダラと歩きながら店をあとにしました。


店長は最後に振り返って言いました。





「じゃあね、匠君」




■■■■



「本当に今の担当はうるさいの」


……。


……どうやら少し居眠りをしてしまったみたいだ。


「やれもっとパンチラを多くしろだの、トドメは派手にだの、もっとカメラ映えする動きをしろだの……」


あの元店長は一体、何をしているんだろうか。


結局謎のままだったし。


結局未だに来ないし。


「パワハラなの。絶対にパワハラなの。先代が懐かしいの……好きにやらせてくれた時が凄く懐かしいの」


よくよく考えるとおかしい。


あの元店長、俺が子供の時と最後に見た時と見た目全然変わってないし。


……吸血鬼なんじゃないのか。


「……いい事考えたの。戦場では流れ弾なんて日常茶飯事、どさくさに紛れて……って、匠君、聞いてるの?」

「全然聞いてない」

「正直者なの」

「凄いだろ?」

「意味分かんないの」





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