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4杯目

「と、いうわけで第二回『喫茶・親知らずはどうすれば客が増えるのか!』会議を始めようを思う!」

「わーっ!」

「……」


ある晴れた日の昼下がり。


喫茶店内でこの会議は行われることになった。


店内に客はいないので全く問題はない。


俺は会議に参加しているメンバーを見る。


「よーし、このお店が潰れない様にリセは頑張りますよー!」


ぐっと握りこぶしを握るリセ。


頼もしい限りだ。


そしてもう一人――


「……質問が」

「許可する」

「……何故私がこの様な会議に参加しなければならないのですか?」


いつもの様に無表情で今さらなことを聞くメイド。


非常に今さらだ。


そんなのは決まっている。


「お前暇だろ」

「……っ」


おお、青筋が額に!


表情が変わらんので怒ってるのか分かり辛い。


「て、店長! そんなこと言っちゃ駄目ですよぅっ。メイドさんだって忙しい中時間を削ってこのお店に来てくれているんですよ?」


ほぼ毎日な。


「……ええ、その通りです。私はメイドとしてお嬢様のお世話をするという大事な仕事があります。ここに来ているのもお嬢様がこの店を気に入っているからであり、お嬢様が来た際に不手際が無いように確認の為にです。私が個人的な意思でこの店に来ているわけではありません、そのことを勘違い無きように」


若干早口気味なメイドな発言。


この長台詞で噛まないのは凄いな。


しかし……


「お嬢様とやらは昨日一人で来たぞ?」

「なっ……!? あれ程ここに来る時には私に声を掛ける様に言いましたのに……!」


心なしか苦々しい顔になったメイド。


珍しい表情だ。


「一人でこの店に来るのは危険だとあれ程……」

「まるでこの店が危険みたいな言い方だな」

「……違いますか?」

「なんだと……?」

「まーまーまー! 落ち着いて下さい! これでも飲んで、ぐいっと! いっちゃって下さい!」


まさに衝突寸前だった俺とメイドの間にリセが割り込み強引に何かを飲ます。


……。


……ふぅ。


何をやっていたんだ俺は。


やれやれ。


ふぅ、と息を吐く。


メイドも同じ様に落ち着いていた。


「ナ、ナイスです、リセ! 誰も褒めてくれないので自分で自分を褒めます!」


虚空にガッツポーズをするリセ。


メイドが落ち着いた顔で話しかけてくる。


「……この店の環境を良くすることは、お嬢様の為にもなるでしょう。仕方ありません、私もその会議とやらに参加します」


しかし、と続ける。


「もう一つ質問が」

「なんだよ?」


メイドがリセの方へ視線を向ける。


リセはその視線を受け、首をかしげた。


「……これは何ですか?」


これときた。


「おい、リセ。お前はなんだ?」

「リセはリセですよー」

「だとさ。ウチのバイトだ」


メイドは俺の発言を聞き、眉を額に寄せた。


そして視線をリセに向けたまま



「……何故ゴミ袋を被っているのですか?」



と言った。


確かにメイドの言った通り、リセはゴミ袋を被っている。


すっぽりと全身を覆うように。


目と口の部分には穴を開けている。


見た感じ新種の妖怪にも見える。


さて、何故リセがゴミ袋を被っているか?


「え、えーとですね、リセはそのー、アレです」

「宗教上の理由だ」

「はいそれです! しゅーきょーじょーの理由です!」


分かったか?とメイドに目を向ける。


「……まあ、いいでしょう」


メイドは非常に何か言いたげな表情だが、これ以上聞く気はなさそうだ。


色々と説明が面倒なので助かる。


というわけでこのメンバーで会議開始。



「何かこの店を盛り上げる案は無いか?」

「……はい」


メイドが真っ先に手を上げた。


何だかんだ言っときながら、この店のことを考えてくれているんじゃないか。


少し感動。


メイドの案は、


「……銅像が気持ち悪いと思います」

「何だとぅ!? お前あれどんだけしたか知ってるのか!? ……つーか今思い出したけど首返せ、首!」


思い出された苦い記憶。


店内の置かれている首の無い銅像。


犯人はこいつだった。


「……は? 首、ですか?」


何を言っているんだこいつはという目で見てくる。


し、しらばっくれやがって!


「先週の日曜だよ! お前店に来ただろ!?」

「……先週の日曜はお嬢様のお側にいましたが」

「いいや、来たね! 今でも覚えてるさ! その日のお前は異様にテンションが高かった、酔ってるかと思ったわ!」


入店早々『やっほー、来たよー』だった。


驚いて目の前の客にカルボナーラをぶちまけてしまった。


『ほー、なるほどねー』

『うんうんいー感じ!』

『握手、握手しよー!』

『パフェおいしー! 私と結婚しよー!』

『うおーなんじゃこの銅像! かっけー!』

『お持ち帰りー!』


とまあそんな感じだった。


銅像を褒められて油断していた俺はまんまと首を持ち去られたのだ。


その旨を目の前のメイドに説明する。


「……その話は、真実ですか?」

「真実の中の真実だよ!」

「……まさか……やはり……そういうことですか」


ぶつぶつと何やら呟くメイド。


額に手を当て、珍しく困った顔をしている。


「返せよー! 俺の首返せよー!」

「……今度来た時に持ってきます、必ず」

「絶対だぞ!? 嘘ついたら今度から俺のことご主人様って言えよ!?」

「嫌です」


すっぱり断られた。


しかし、銅像は駄目だ。


あれだけは譲れない。


頑なに主張する。


何とか銅像の件は保留出来た。


「リセ前から思ってたんですけどー……」


リセがそろそろと手を挙げる。


「このお店には音楽が足りないと思うんです!」

「音楽?」

「……確かにこの店に音楽は流れていませんね」

「はい! この店で聞こえる音といったら店長の即興ラップぐらいですからねー」

「駄目か、俺のラップは」

「……耳障りです」


……畜生。


結構いいセンスだと思ってたのに。


「しかし音楽といってもなぁ……どんなのをかければいいか」

「ここでリセのオススメですっ!」


用意していたのかCDをゴミ袋の中から取り出し、こちらに押し付けてくる。


CDを見る。


非常に見慣れたものだった。


「お前これ……」

「ミカルンの新曲『恋は早い者勝ち! あの子さえいなければ……』ですよぉ! ナウなヤングからおじいちゃん達にも大人気です!」


これ持ってる。


発売日前にもらった。


「でも、これを店内でかけるのはなぁ……」


歌詞がかなりグロイんだ、これ。


刺したり刺されたりだからな……。


「これだったらまだセカンドシングルの『まさかの代打!? あたしがやらなきゃ誰がやる!』の方がいいんじゃないか?」

「……あー、そうかもですねー。そっちの方がお店にあってるかもしれませんね。……ってあれ、店長? ミカルン知ってるんですか?」

「き、客が言ってたんだよ」


そうですかーと頷くリセにほっと息を吐く。


全部CD持ってることとか知られたら恥ずかしい。


しかし、音楽か。


あまり考えたこと無かったが、いいかもしれん。


――。


――。


その後も店について話し合った。


メイドも予想外に的確な助言をしてくれた。


しかし、もっと生な意見を聞きたいな。


客の意見とか。


「そう思ってリセはこんなのを作っておきました!」


再びゴミ袋から何やらノートを取り出すリセ。


「なにそれ?」

「これをですねー、一週間前からから店内に設置しておいてたんですよー」


へへん、と胸をはるリセ。


「成る程、客に書き込んでもらったのか」

「『この店について何かあったら書き込んで下さい』って書きました」

「では読んでみよう」


ノートを開く。



・店の前の人形がキモイ。

・店の前の人形の声が渋い。

・店の前の溝に嵌っている人がいて怖い。

・助けようとすると『好きで嵌っているんで!』とか言われた、怖い。

・銅像がキモイ。

・うん、銅像はキモイ。

・ああ、キモイな。

・あれ、何の銅像?

・あれ店長のだよ、キモイよな。

・自分の銅像かよwwめっさ笑顔だしww

・俺行った時顔無かったよ?

・マジで? あ、でもこの前メイドが首持って歩いてたの見たw

・メwwwイwwwドwwwとwwwかwww

・いや、いるよなメイド。

・いるいる。めっさ可愛い。Sっぽい。

・え、ここメイド喫茶だったの?

・俺来るときいつも店長しかいねーんだけど。

・つーかそもそも店長がアレだよな。

・だよな。アレだよな。

・この間一人で紙相撲してたぜw

・俺見たときは何かゴミ袋とサッカーしてたw

・ゴミ袋てw

・あのゴミ袋なんなん?

・妖精だよ、妖精w

・ゴミ袋の妖精wwww

・ダストフェアリー?

・フェアリーダスト?

・どっちでもいいwww



……。


……。


「おい、フェアリーダスト」

「違いますよぅ! リセそんなんじゃないですよぅ!」


ダストフェアリーことリセは手をバタバタとして不満を示した。


ゴミ袋がカサカサしてうるさい。


「……続きを読みましょう」



・あたし女だけど店長結構いいと思う。

・店長乙w

・店長乙。

・いや、ボクも彼はいい人だと思うよ。欲を言えば、スクール水着を着て欲しいね。もっとセクシーさをアピールした方がいいと思うんだ。逆になんでスクール水着を着ないかね? あれほど完璧な装備はないのに。濡れても大丈夫だし、よく伸びるし、煮込むと出汁が出るんだよ? アダムとイヴだって生まれて最初に着たのはスクール水着だって言われてるしね。

・上の人怖いwww

・俺もスクール水着は好きだがこれはやばいwwwマジキチwwww

・む、失礼だね。ボクは正常だよ。仕方ないこのスペースを借りて如何にスクール水着が素晴らしいかを語るとしよう。まずスクール水着の発祥は――」



「……」

「……」

「……飛ばしますか?」

「うん」



・そんなことよりリセちゃんのこと語ろうぜ!

・リセちゃんサイコー!

・誰?

・上はゆとり。

・ゆとりとか関係ねーし。そのリセとかお前らの想像上の生物か何かですかwww

・上は童貞。

・ていうか俺一回しか見たことないんだけど。

・リセちゃんぷりちー! 雨の日に良く見る気がする。

・確かに。晴れた日に見たことねーわ。

・やほー、お兄ちゃーん見てるー?

・つーかマジ可愛くね? この間転んだリセちゃんに鍋焼きうどんぶっかけられたけど……なんか興奮したwww

・俺もビビンバぶっかけられたwww

・俺カレーwww

・シチューww

・お前ら変態www俺は熱々のミートパイ顔面にぶつけられたけどあんまり興奮しなかったしww

・つーかわざと?

・リセちゃんS説浮上www

・ねーよ。

・ねーわ。

・ここまで俺の自演。

・たまに「はわわっ」とか言うよなww

・はあ? キモイ。殺すわ。

・通報しました。

・通報しますた。

・ここで専門学生の俺がリセちゃん書いてみた。これ→jpg

・うめえwww

・いやラノベのロリ系ヒロインかよwwwwこんな生き物が三次元にいるわけねーwww妄想乙ww

・え?

・え?

・いや、いるよ。少しロリっぽいけど大体合ってる。

・マジで?

・うん。

・いるよな。

・……やだ……何か胸が……キュンってした……。

・ようこそ、漢の世界へ



「いやー、照れますねー、もうえへへー」


フェアリーダストが頬らしき場所に手をあてながらクネクネしてる。


ゴミ袋がカサカサうるさい。


「お前今度からホール出るか?」

「む、無理です! 死にます!」



・なんかリセちゃんの話しばっかだけどさ、店長結構いい人だよ? by苦労鼠

・はいはい。

・店長乙。

・俺がさ受験生の時の話なんだけどさ。俺試験失敗してめっさ落ち込んでたんだよ。by苦労鼠

・自分語りとかチラシの裏にでも書けよ。

・でさ、死のうとも思ってたんだよ。一回試験に落ちただけなのになww by苦労鼠

・やだ……真面目な話……?

・でフラフラーってこの店に入ったんだよ。店長は懸垂してた。 by苦労鼠

・懸垂wwww

・俺は席に座ってさ、適当に頼んだバームクーヘン喰った。 by苦労鼠

・バームクーヘンおいしいですwww

・喰ってたらさ、涙ボロボロ出てくんの。家帰ったら家族に何言おうとか、もう死ぬしかないんじゃとか考えて。by苦労鼠

・そしたらさ、いつの間にか店長が傍に立って俺見てんの。by苦労鼠

・「な、なんすか?」って言ったらさ、店長「別に」とか言うの。 by苦労鼠

・んでさ、俺気が付いたら店長に泣きながら受験のこととか話してたw by苦労鼠

・もうさ、涙と鼻水でボロボロでさ、何言ってるか絶対分からんと思うんだけどさ、店長は俺の話し頷いてんの。by苦労鼠

・で話し尽くしてさ、めっちゃ喉かわいてたんだ。by苦労鼠

・そしたら店長「これ飲め」ってコーヒーくれたんだ。by苦労鼠

・何かさ、もうどうでも良くなったw 今まで泣いてた自分とかアホらしくてさw すっきりした、みたいな?wby苦労鼠

・俺さ、そういう悩みとか全部コーヒーと一緒に流し込もうと思ったんさwby苦労鼠

・んで、一気飲みwby苦労鼠

・……結構いい話?

・イイハナシダナー。

・店長……素敵……。

・んでコーヒーだと思ってたら醤油で思いきり噴出したwwwby苦労鼠

・ちょwwwwww

・しょwwwwうwwwwゆwwww 

・台無しwwwww

・死んじゃうwwww

・俺が咽てたらさ、店長「じ、人生ってこんなもんさ」とか言って厨房に走って行ったwwwwby苦労鼠

・酷いオチwww

・ま、俺の話しはこれで終わり。お前らに言いたいのは飲む前に中身を確かめろってこと、じゃあな!by苦労鼠

・何それwww



……あったなー、こんなの。


「店長酷いですよー」

「醤油入れたのお前な」


続きを読む。



・実際ここのメニューってどうなん?

・コーヒーは旨い。

・ねーよwwwめっさマズイだろwww

・え、旨くね? 今まで飲んだ中で一番旨かったんだが。

・お前の味覚、旅行中かよwwwwどこに行ったの?wwww

・コーヒー通の俺でもここのは無茶苦茶旨いと思う。

・黙れwwwwコーヒー厨wwwwコーヒー星に帰れwwww

・昔からここに通ってる俺がここでネタばらし。確かにここのコーヒーはゲロ不味かった。一時期を境に旨くなった、ふしぎ!

・古参乙。

・菓子は旨いよな、パフェとか。

・スイーツ(笑)

・疲れたあたしへのご褒美(笑)

・うんうん、お兄ちゃんのケーキはめっちゃ旨いよー!

・店長の気まぐれパフェお勧め。



「へへ……」

「店長が照れてますっ」

「……キモイですね」


続き。



・話の続きだがスクール水着というのは防御面でも非常に高い能力を持つ。というのも――


飛ばした。



・で、お前ら的にこの店どうなん?

・学校と仕事の両立で疲れた心を癒すの。ここはとても落ち着く場所なの。学校の精神年齢低いガキ共から離れられる唯一の聖地なの。 by赤い魔法少女

・あんま来るなって言われるけど、来たら来たで優しくしてくれるから好きー。 by妹

・いい場所だよ。強いて言うならスクール水着を着てくれたらいいね。 by水も滴る女

・ま、仕事の合間に時間を潰すいい場所よ。キャラ作らないでいいし byアイドル

・――ヤツは……どこだ……。ここを見ているのか。私は貴様を見つけるまで彷徨い続けるぞ。by忘れるな、あの時の決着を。

・結局お前ら何だかんだ言って好きなんじゃねーかwwww

・ツンデレだからな。

・店長もツンデレだよな。

・ああ、ツンデレだな。

・長く通ってるとデレてくるww




……。


パタンとノートを閉じる。


「……で、結論ですが」

「このままでいんじゃね?」

「ですねー」

「……この会議の意味は無かった、ということで」

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