バカ息子
「ねえ、あ・な・た! 愛してるわぁ、ちゅ〜」
とやっているこのお嬢さん。
カエデちゃんです。ちょっと色っぽくなったかな。
「あら。お世辞がじょうずねぇ」
お、おそれいります。
カエデちゃんのお相手は、もちろんカカンボ。
ふたりは結婚して、カイエンヌに家を建てて、家族三人暮らしていたんですねぇ。
カカンボは根がまじめなだけに、昼間からいちゃつくのはあまり、好きじゃないらしい。
「こら、そうなるには、まだ早いんじゃないか」
「そんなことないわよぉ。愛に時間は無関係だってば」
「誰がそんなこと、いったんだかね・・・・・・。そんなことよか、メシにしようよ、ねえ」
クロードも帰ってくるし、といいかけたカカンボ、どたどたと駆け込んできたその息子のほうを振り向く。
「ただいまあ、おかあちゃん! おとうちゃんもいたのか」
「いちゃあ、悪いか。このばか息子!」
「へっへっへ。まあ、そう怒りなさんな。俺今日から、ナポレオン・ボナパルトの兵隊に任命されたんだ。いいだろ。少尉だけどな」
カカンボは、なにっ、と小さくいってクロードをにらみつけた。
「兵隊なんて、やめなさい。クロード。ろくなことにはならないから」
「なんでさ、とうちゃんだって兵隊だったんだろ! かっこいいじゃんか」
「だからお前は、バカなんだ。とうさんは好きで兵隊やったわけじゃない、食うためにだなぁ」
「同じじゃん!」
クロードはテーブルにつくと母に食事をねだる。
「かあちゃん、メシだメシ。腹減ったよ」
「いつまでも子供ねえ。もうじき、十八だって言うのに」
言いながらうれしそうなカエデちゃん。
「かあさんが甘やかすからねぇ・・・・・・」
怒りを抑えながらカカンボがいう。
「甘やかしてなどいませんよ。おとうさんが、あたしより甘いんじゃない」
「お、俺はそんな」
新聞で顔を隠すカカンボ。
「軍隊上がりなわりに、甘いんだよねぇ、カカンボさんは」
カエデは横目でカカンボに視線を這わせ、肘をつく。
「それより、メシ!」
クロードとカカンボは、同時に叫んだ。
「ねえ、あなた。まだ起きてる」
「うん」
夜になると、ベッドに寝ていたカエデが、カカンボに声をかけた。
「兵隊ですって。戦争に行く気かな」
「ばか、戦争が始まるから、兵隊を募るんだろうが」
「あ、そうか」
カカンボは瞼を閉じてから、もう一度開いた。
「・・・・・・ひょっとしたら、俺もいくかもしれないんだ。アメリカの独立があったばかりだからね。ここフランスも熱狂している」
「さみしくなるね」
泣き出すかと思ったカカンボは、妻の冷静な返事に驚いて顔を上げた。
「しかたないさ」
「もう、こうすることもなくなっちゃうのね。・・・・・・やだなあ」
カンテラの明かりをつけると、カエデは窓を開いて夜風を入れ、カカンボのいる寝台へのそりと片足を乗せ、口づけする。
「しかたないさ」
切なそうに眉間にしわを寄せながら、カエデを抱きしめるカカンボ。
「戦争に犠牲はつき物だよ・・・・・・」
「あなた」
ふたりはしばらく、かたく抱き合ったまま、じっとしていた。
しばらくのち、カカンボは胸が濡れたように熱くなったので、カエデのほうを覗き込んだ。
カエデは、泣いていた。
「結婚するとき、泣かせないって、約束したのにな」
カエデの背中をさすってやるカカンボ。
「あなたのことは、まあしかたがないとして、心配なのはクロードのほうよ」
「えぇっ」
そうきたか、とカカンボはがっかりする。
しかしカエデは涙を拭くと、
「へへ、ウソだよ、ウソ。あなたも大事よ。あの子は戦争がどういうのか知らないから、心配よね」
「脅かしやがって。俺もそれはねぇ。しかし、いったいどこに属したのかな」
「あたし、護身用にドラグーン・タイラントほしいわぁ。ねえ買ってよぅ」
「それは爆撃機じゃなかったっけ・・・・・・。変なもん、ほしがるんじゃない!」
――そうか、あいつがバカなのは、コイツのせいか!?
今頃わかったかね、カカンボくん・・・・・・。
ドラグーン・タイラントってたしか、バイオハザードの・・・・・・とか、つっこまんでください_| ̄|○
ギャグでいってみただけだと思うので、カエデ嬢は・・・・・・。