過去の思い出
風呂につかりながら、考えていたことが、カカンボにはあった。
「そういや、ここじゃないけど、昔かあさんと入ったことが・・・・・・」
カンディードと旅途中、宿場町でのことだった。
もう疲れたので今夜は早めに寝てしまおうということになり、カンディードとカカンボとカエデ嬢は、ひときわ大き目の宿屋に泊まることになった。
ここのおかみはがめつく、三人で三百フランは勘定した。
「ひとり百フラン!? たかっ」
「文句あるなら泊めないよ」
カンディードとカカンボは顔を見合わせ、妥協する。
「し、しかたない。泊めてもらうか」
そのかわり設備は言うことがなかったので、カカンボは安心した。
「ねえ、ねえ、カカンボさん、一緒に入らない?」
先を歩いていたカンディードは驚いてカエデ嬢のほうを振り返る。
「ええっ、カエデちゃん、大胆・・・・・・」
「い、いけないよっ。結婚前の娘サンが、そんなこといっちゃあ」
「あら、古いのね。しきたり? そんなのどうでもいいじゃない」
カカンボは首を横へ、乱暴に振って、
「ぶるぶるぶる。違う違う。婚前の男女がそういうことすると、罰せられて鞭打ちか、打ち首獄門・・・・・・」
フリードリヒ・ヴィルヘルム一世が大好きなあれね・・・・・・。
「じゃあ夫婦って偽りなさいよぉ」
「ぶーっ」
聞いていたカンディード、鼻血を放出!
「何を想像したーっ!」
「カエデちゃんの胸、でかーっ、と」
「うっせー!」
カカンボは、あーあ、とため息をついた。
結局のところ、一緒に混浴してしまったという思い出。
「今にして思えば、あのころのウソがホントになっちまったんだなぁ」
カカンボはひきつった笑みを浮かべる。
状況は戦渦だったが、それでも昔を懐かしむ余裕くらいはあった。
愛する妻と子供。
必ず生きて帰ると約束した以上は、果たさなければ。
カカンボは何も知らずにいたのだ・・・・・・。
まさか妻が、敵兵とあんなことしてたなんて!
「おほほほ、かまうもんですか。黙ってりゃいいんだってば」
カエデちゃん、性格よくなってます・・・・・・。
懐かしんでる場合じゃない!
とっととおうちへ帰りなさいだぞ、カカンボ!