2話 5歳 日常と秘密と幼馴染
幼少期編はどんどん年齢を重ねていきます。
いきなり飛ぶので、サブタイトルで年齢を確認しながらの方がいいかと思います。
意識を集中する。
自分が作り出したいモノ、やりたいことを明確に、イメージする。
そして、自身の中にある「力」を少しだけ開放する。
「加速」
言葉にするのは、イメージを固定化し易いから。
慣れれば必要無いもので、すでにその域まで達しているのだが、
鍛錬中なので基本に忠実にしている。
風を纏ったアリアは、自宅の広い庭を駆け巡る。
庭には多数の障害物を設置してあるが、今ではもう、あって無いようなモノとなっていた。
アリアは今、日課となっている鍛錬を行っている。
魔法を行使する練習、制御する練習、そしてこれは体力作りにもなっていた。
魔法を使うのには精神力と体力も必要となっている。
すべてをカバーできる、良い鍛錬方法だった。
持続魔法を使っているので、常に疲れが溜まっていくはずだが、
10分たってもアリアは涼しい顔をしている。
急停止、急加速、サイドステップなど動きに変化をつけ、さらに10分。
さすがに疲れを感じて、アリアは止まった。
「だいぶ動きは良くなったな。得意な系統魔法だから上達も早いのかな?」
ニッと笑いながら男が近づいてくる。
「父さん、これでも僕、体力作りをちゃんと、やってるんだからね!」
男…アリアの父に向かい、ちょっと拗ねた様子でアリアは言った。
「ハハッ、わかっているよ。毎日欠かさず鍛錬しているものな。偉いなアリアは」
ガシガシと髪を撫でられる。
「ちょっ、痛いって!髪が抜けるー!」
涙目になりながら父の手から逃げ出す。
「悪かった、悪かった。さて、そろそろ朝飯の時間だ。汗を流して来なさい」
うぅ…わかった。と答えて、シャワーを浴びに向かう。
「アリア、風魔法は他よりもだいぶ上達したと思うが、次は何の練習をするんだ?」
食卓を囲みながら、父さんが聞いてきた。
「ん、僕、もっと風魔法がうまくなりたい!風がとても気持ちいいし!楽しいし!」
「そうなの、アリアちゃんは風魔法が好きなのね。ふふっ、頑張りなさい」
母さんがにこやかに話しかける。
「うん!僕、父さん母さんみたいな魔術師になりたいから頑張る!」
「あらあら。アリアちゃんなら、私たちなんかすぐに追い越せるわよ」
「自分の子供に負けたくは無いが…。うむ、アリアは頑張り屋だし、きっとすごい魔術師になるだろうな」
自慢の息子を持った。と二人は喜ぶのだった。
夕方近く、食後のお昼寝をしていたアリアは目を覚まし、起きてくる。
そこで、アリアが起きるのを待っていたのか母さんが
「アリアちゃん、これからお買い物に行くけど、行く?」
と聞いてきた。
もちろん答えは、
「行く!」
「それじゃ、いつもの手袋をしてきてね」
「うん!」
家の外に出るときはいつも手袋をする。
生まれた時は痣のようだったソレは、今では紋章のような形に見える。
そしてこの紋章は、あまり人に見せないようにと言われていた。
昔からなので、とくに疑問も持たず素直に従うアリア。
家から20分弱歩くと、(アリアを連れての移動のため少し時間がかかる)
それなりに大きい町に着いた。
「まずは、パンを買いにいきましょうか」
手を繋ぐアリアに声をかけ、いつも行くパン屋に向かう。
カランカラン
「いらっしゃーい。あら、こんにちは。今日はアリア君も一緒なんですね」
この人はパン屋の店長。
「こんにちはー」
挨拶を済ませ、店内の隅にある椅子に座り、母さんの買い物が終わるのを待つ。
話が長くなるのはいつものことだ。
外で遊んでこようかなーと考えていると、
「あ、アリア君!こ、こんにちは!」
と、部屋の奥から挨拶をされた。
声のした方を向くと、同い年くらいの女の子が立っていた。
「こんにちは、セリナちゃん。母さんの買い物、もう少し時間がかかりそうなんだ。ちょっと遊ばない?」
と、提案する。
「うん!今日は何を見せてくれるの!?」
駆け足で近づいてくるセリナ。
セリナはアリアが魔法を使うことができると知っている数少ない人間だ。
以前、泣いていたセリナをなだめるために魔法を使ったことがある。
珍しさからか、それとも不思議なものを感じたのか、
それ以来、アリアに懐いている。
魔法のことは、他の人に言わないようにお願いしてあるし、
セリナは約束を守るいい子でもあったので、二人の秘密ということで、
たまに魔法を見せていたりする。
「んー…あ、そうだ。できるかわかんないけど…外に行こう!」
良いアイデアが浮かび、テンションの上がるアリア。
「母さん!セリナちゃんとちょっと外行ってくるね!」
「あまり遠くに行っちゃダメよ?気を付けてね」
「うん!」
セリナちゃんと店の裏側に来て、辺りに人がいないことを確認する。そして、
「それじゃ、始めるよ」
アリアが声をかけ、セリナはワクワクした様子で何が起こるのか見ている。
両手を受け皿みたいな形にして、魔法を使うため集中するアリア、
内にある力を開放し、魔法を発動させる。
言葉を発しないのは、女の子の前ということで、恰好をつけたいから。
これから使う魔法は簡単なものなので、言葉を使わなくても十分扱える。
魔法を使用した結果、アリアの手の上には水が玉のような形で浮かんでいる。
それを見ただけでセリナは興奮している。
「こっからが本番ね!」
アリアは続けて風魔法を使い、水の玉を霧状にする。
キラキラと舞う水の粒は夕日の光を受けて、とても綺麗だった。
「…すごい、綺麗」
セリナはその光景に見入っていた。
「うん、綺麗だねー。綺麗なんだけど…」
『…本当は虹を作りたかったんだけどなぁ…』
とアリアは納得しない様子で、
『あとで何がいけなかったか、調べよう』
と心にメモをするのだった。
しばらくして、母さんが迎えにきた。
他の食材も持っていたので、遊んでいるうちに買い物を済ませたらしい。
「アリアちゃん、そろそろ帰りましょうか」
「はーい。それじゃセリナちゃん、またねー」
「うん!また遊びに来てね!」
簡単な挨拶を交わし、アリアは母さんと家に帰るのだった。