9話 12歳 遊びの約束
午後、魔術の稽古のためアレイス邸を訪れると、門の前にセリナが立っていた。
目当てはアリアだったらしく、手を振りながら近づいてくる。
「こんにちわ!アリア君」
とても可愛らしい笑顔を向けてくる。
『これは、何か企んでいるか、単純に機嫌が良いか、どちらかだ…』
と思い、アリアは警戒しながら軽く手を挙げる。
「やぁ。今日は俺に用事でも?」
「よくわかったね!あのね、お父さん、お母さんには内緒なんだけど、今度、トレオ君とフィル君と一緒に街の外に遊びに行くことにしたの!アリア君も一緒に行かない?」
トレオとフィルはセリナとよく遊ぶ同い年の子供で、
アリアも何回か一緒に遊んだことがあるが、トレオとはそれほど仲が良いわけではなかった。
原因は、何かとつけて勝負を挑んできては、アリアに対し1勝もできていないからだろうか。
行こうかどうか悩んでいると
「行っておいで。子供だけで外に出るのは危ないからのう。アリア君がみんなを守ってあげなさい」
と、いつから居たのかアレイス先生が話しかけてきた。
「あ、アレイス先生!?ええと…このことは秘密で!」
セリナはびっくりしながら両手を合わせてお願いしている。
アリアも多少びっくりしながら、しかし声音には出さずに挨拶をする。
「アレイス先生、こんにちは。確かに魔物が出たら危ないですね。でも俺も自信無いですよ?まだ実践経験も少ないんですから」
「大丈夫じゃよ。冷静に対処すれば、そこらの魔物に遅れはとらんじゃろう」
アリアは稽古の一環として何度か魔物との戦闘もこなしていた。
街の近くに出る魔物とは一通り戦った。
討伐だけなら怪我もしないでこなせるが、今回は『みんなを守りながら』
という条件付きだったので、不安に感じていた。
下手をすれば、怪我どころでは済まないからだ。
「まぁ…冷静になれればいいんですが…」
魔物が出てきたとき、みんながどう動くかが問題だなぁ、と考えながら返答する。
「ふむ。なに、少し怖い思いをすれば大人しくなるじゃろうて」
少し笑いながら、危惧するところのアドバイスをもらった。
そのおかげでいくらか気持ちが楽になり、
「わかった。俺も行くよ」
セリナを向いて、そう言った。
「おお!ありがとう!実は私もちょっと魔物が怖くてね」
ぺろっ、と舌を出してから苦笑いをするセリナ。
トレオとフィルだけでは不安だったらしい。
頼りにされていることに少し嬉しさを覚える。
「それで、いつ行くの?」
「んと、明後日の午後に行くから。私の家の前に集合ね!」
約束を交わし、セリナは帰って行った。
「ふむ。それじゃぁ今日は、魔物の対処の仕方から復習していこうかの」
「はい、先生」
アレイス先生も気にしてくれているんだなと思いながら、今日の稽古が始まった。