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第7話 可愛いって言葉に蕩けちゃうの♡

 でも、だからこそ、悩みは尽きないのだろう。

 由梨ちゃんは、両手をもてあそびながら、小さく息を吐き、視線を落とした。


「で、でも……やっぱり、可愛いって少しでも思われたいし……。もし別れちゃった時のこととか考えると、どうしたらいいのか分からなくなっちゃって……」


 かすかに震える声。

 その言葉の奥にあるのは、ただの不安じゃない。

 ——誰かのために可愛くなりたい。

 ——今の関係を守りたい。


 そういう感情は、私から見れば本当にすごくて、尊くて、可愛くて。

 まるで女の子らしさの結晶みたいに、きらきらして見える。

 けれど、その“当たり前”は、環境ひとつであっさり裏切られてしまうこともある。


 男なんて、すぐに違う女の子に惹かれちゃう。頭の中はやりたいって欲求ばかりで、やらせてくれる子がいれば、あっさりそっちに流れてしまう。

 どんなに大事にしようとしても、結局は性欲に支配されただけの存在で、ただ我慢を強いられていただけだった……なんてことも、悲しいけれど現実にはあるの。


 もし、彼氏がそんな男だったら、どうする……?


 ——ねえ、由梨ちゃん。

 可愛いって言葉は、ただ“思われたい”だけじゃ足りないんだよ。

 おしゃれは、“可愛い”を伝えるためにあるの。

 誰かに媚びるためじゃない。由梨ちゃんの“可愛い”を、自分自身で伝えるためにあるの。


 だから、由梨ちゃんの“可愛い”をもっと見せてほしい。もっと教えてほしい。

 彼氏や誰かのためじゃない、由梨ちゃんの”可愛い”を、この世界にもっと魅せてほしい。

 だって、その由梨ちゃんこそが、世界で一番可愛い由梨ちゃんなんだから。


「あのね、自分の彼女が可愛いのは当たり前なの。むしろ、一番可愛いって言えない彼氏なんだったら、捨てちゃいなさい」


 そう告げた瞬間、由梨ちゃんが驚きで、ぱちりと瞬きをする。

 その拍子に、まつ毛が小さく震えた。


 ——その仕草が、胸の奥をトクンと響かせる♡

 心臓が跳ねて、全身に血が一気に巡っていく♡♡

 頭の中では喜びがはじけて、じんわりと幸せが広がって、甘い安心感がとろけるように絡みついてくる♡♡♡


 まるで見えない蜜が、神経ひとつひとつに染み込んでいくみたい……♡

 体は熱を帯びて鼓動は速くなるのに、同時に力は抜けていき、心はとろけて溶けていく♡♡


 息が速くなるたびに、視界がふっと明るくなって弾ける♡

 その「可愛い」に圧倒されて、胸の奥からこみあげる高鳴りが快感みたいに頭を満たしていく♡♡

 呼吸が詰まりそうになるのに、それすらも心地よくて♡♡♡

 もうまともに考える余裕なんてなくなって、ただ「可愛い」という思いだけでいっぱいになってしまう♡♡♡


 可愛い……可愛いっ……ほんとに、可愛いっ……大好き……♡

 可愛すぎて……息が甘く絡まって……呼吸まで蕩けちゃう……♡

 頭の中……可愛いって言葉しかないの……助けて……♡


「そりゃね、ルックスの良し悪しはあるよ? でも、“可愛い”ってそういう意味じゃないの」


 熱を帯びた声が、自分でも驚くほど真っ直ぐに出ていた。


「一番可愛いっていうのは、一番愛しいってこと。

 愛しいっていうのは、大事にしたいってこと。

 だからね——今の坂尾さんが、いつだって世界で一番可愛いの。いい?」


 言葉を口にするたびに、胸の奥がじわじわと熱を増していく。

 これは慰めなんかじゃない。

 これはただの真実で、どうしようもなく溢れてしまった私の本心だった。


 ……私は、全ての女の子がこの世で一番可愛いと思う。

 全ての女の子たちが、この世で一番愛しい。

 守りたい。笑顔を、大事にしたい。


 そう思うだけで、胸の奥がふんわりと灯りをともしたみたいに温かくなっていく♡

 そのぬくもりが、じわじわ広がって、体の隅々まで染み込んでいく♡♡

 背筋が自然に伸びて、指先まで力が宿っていく。何かを守りたい、頑張りたい、そんな気持ちが湧き上がる♡♡♡


 だけど同時に、その熱が胸の真ん中をきゅっと締めつける。

 息を吸うたび、胸の奥で小さな痛みが走る。

 心臓は早鐘みたいに打ち鳴らされて、耳の奥で鼓動が反響する。

 温かさと切なさがいっしょくたになって、甘いのに苦い、胸いっぱいの飲み物を無理やり飲み干してしまったみたいだ。


 本当に私にそんなことができるのかな。

 女の子を幸せにできる? 笑顔にすることができる?

 女の子がみんな好きで、一人を選べない私に、そんな資格なんてあるんだろうか。


 考えれば考えるほど、胸がちくりと痛んで、息まで浅くなる。

 「大好き」という気持ちは確かにあるのに、それを形にできない無力感が、体をぎゅっと締め付けていく。

 心臓はバクバクして、血の気がふわっと引いていくのに、逆に顔は熱くなる。

 ……ああ、どうしよう。好きすぎて苦しいのに、手が届かない。

 

 悲しいけれど、私に“私に恋する女の子”の輝きを作ることは出来ない。

 そんな子が現れても、応えることは出来ない。

 その現実は、もどかしくて、苦しくて——。

 好きなのに、大好きなのは間違いないのに。


 たとえ男が性欲にまみれ、劣った因子を抱えた、穢れた存在だったとしても——。

 女の子が笑ってくれるなら、それでいい。

 それが、なによりも大事だから。


 けれど——もし、その男の子が女の子を泣かせるなら。

 もし由梨ちゃんが、このまま不安そうな顔をし続けるなら。

 私が——奪ってあげる。


 寝取ってでも、「好き」「好き」ってとろとろに蕩けさせて、嫌なことなんて全部忘れさせてあげる。

 たとえ手段が汚くても、それが彼女の笑顔を守ることになるのなら。


「……凄いね、白鳥さん。私もそんなふうに考えられるかな……?」


 その声は小さく震えていて、迷いと憧れが入り混じっているのが分かった。

 私は思わず息を整えて、笑みを返す。


「出来るよ。女の子はみんな、誰よりも綺麗で、可愛くて、愛されるために生まれてきたんだもの」


 少し芝居がかった台詞かもしれない。けれどこれは嘘じゃなかった。

 由梨ちゃんはきょとんとした顔をしたあと、頬を真っ赤に染めて、慌てるみたいに視線を逸らす。


「えへへ……なにそれ? 変なの」


 そう言いながらも、その瞳はしっかりと私を見ていて。

 さっきまでの迷いが、ほんの少し薄れているように見えた。


 ——そして。

「……でも、私は白鳥さんが一番可愛くて、綺麗だと思う」


 ドクン、と心臓が跳ねた。いや、跳ねたどころじゃない♡

 心臓が爆竹みたいに破裂して、全身に火花が散った♡♡

 な、なにそれ……今この流れで言う!? ずるい、反則だよ!♡♡♡


 笑って受け流せばいいのに、喉が詰まって声が出ない♡

 耳まで熱くなってるのが分かる。絶対顔も真っ赤だ。やばい。落ち着け私♡♡


「え、えー……それ、私が男だったら、もう完全に勘違いするやつだから! ……気をつけなよ?」


 なんとか笑い混じりに返すけど、声が裏返ってしまって、説得力ゼロだ♡

 内心はぐちゃぐちゃで、胸の奥はジェットコースターみたいに上下している♡♡


嬉し過ぎて……♡息が甘く絡まって……♡呼吸まで蕩けちゃう……♡

頭の中……可愛いって言葉しかないの……♡助けて……♡

鼓動が早すぎて……私、壊れちゃうかも……♡


「うん。ありがと。でも本当のことだから」


 本当のこと、って……え、ちょ、待って待って。

 どういう意味? 私のことが好きってこと?

 それともただ……女の子として褒めただけ?


 どっち!? ねえ、どっちなの!?

 勘違いしていいの? それともここで自滅コース!?

 ああもう、心臓の音が大きすぎて、頭が全然働かないっ!


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