第48話 結菜ちゃんの相談に溺れちゃうの♡
「いいねー。でも、もしアピるなら、ちゃんと友達にも宣言して、正々堂々とだよ?」
「うん、そだね。分かった」
私が軽く笑いながら言うと、結菜ちゃんは少し困ったように眉を下げて、それでもしっかりと頷いた。
その仕草に、胸の奥がふっと温かくなる。まるでその小さな決意が、空気の中に確かな音を立てて響いたようで。
──相談を受けるって、本当に難しい。
優しく頷くだけでは、ただの慰めになってしまう。
でも、助言ばかり並べたら、相手の気持ちはどんどん遠のいていく。
寄り添うようにして、でも溺れないように距離を取る、その加減がいつも難しい。
私自身の中に、どうしても“主観”が入り込んでしまうのだ。
「女の子はみんな輝いてほしい」なんて綺麗事を言いながら、その輝きの中に自分の影を落としている。
悩んでいる姿が、愛しくて仕方がない。
そのもどかしさを見つめていると、どうしても手を伸ばしたくなる。
「こうすればいいのに」「こう考えれば楽になるのに」──そうやって言葉を紡いでいくうちに、
気づけば私の中の“支配欲”が小さく息をしている。
その危うさに気づくたび、背中がひやりとする。
けれど、同時に──そんなふうに、誰かの内側に触れられることが怖いほど嬉しい。
相談を受けるという行為の中に、支配と救済の境界線がある。
そして私はその細い綱の上で、バランスを取りながら微笑んでいる。
女の子の輝きって、本当に人それぞれ。
でも、相談を受けていると、そのどこかが“私とつながっている”と感じてしまう瞬間がある。
その一瞬の親密さが、どこか禁断めいていて、胸の奥で鈍く疼く。
ああ、この子の中に、私の言葉のかけらが少しでも残るなら──そう思うだけで、背筋に甘い痺れが走る。
だからこそ、怖いのだ。
自分が「優しく導くふりをして、誰かを染めてしまう」ことが。
でも、それでもやめられない。
だって、誰かの心に触れるたびに、その瞬間だけ世界が澄み渡るように感じるから。
相談に乗っていると、みんな私の言葉を真剣に聞いてくれる。
うなずいて、考えて、私の言葉を心のどこかに落とし込もうとしてくれる。
その様子を見るたび、胸の奥が少しずつ熱を帯びていくのを感じる。
その実感が、どうしようもなく嬉しくて。
だから、気づかないうちに私は、空気に酔ってしまう。
正しさや共感の仮面を被りながら、私の“欲望”が静かに蠢いていく。
その子が私の言葉を受け入れてくれればくれるほど、私は自分の言葉の力に溺れてしまう。
気がつけば、私の望む方向へと、女の子を導いている。
まるで操り人形の糸を指先でなぞるみたいに、そっと、優しく、でも確実に。
そして、終わったあと──静寂が戻った瞬間、胸の奥に冷たい波が押し寄せる。
自己嫌悪。
私の“優しさ”は、結局のところ、私自身のためのものだったんだと気づかされる。
助けたいんじゃない。
私が救われたいだけ。
誰かのための言葉に見せかけて、自分が「誰かの支えでいられる」という錯覚に酔いたかっただけ。
それでも──女の子たちは笑ってくれる。
満ち足りた表情で、「ありがとう」なんて言葉をくれる。
その笑顔を見ていると、また心がふわっと浮かび上がる。
ああ、やっぱり間違ってなかったのかもしれない──なんて、都合よく思いたくなる。
気持ちよくなった代償として、私は“言葉”を掬い上げ、その笑顔を守ろうとする。
自分の罪をなだめるように、彼女たちの幸福を、祈りのように行動と責任で覆い隠していく。
……なんて、醜くて、馬鹿馬鹿しい自己欺瞞だろう。
けれど、そうでなければ私じゃない。
私はこの歪んだ優しさの中でしか、生きられない。
それでも思う。
女の子の輝きを、裏切りたくない。
その笑顔を曇らせたくない。
それがどんなに偽善的でも、どんなに浅ましくても──その想いだけは、たしかに本物だと信じたい。
だから、私は今日も言葉を選ぶ。
自分の綺麗事に傷つきながら、それでも微笑む。
ああ、本当にバカみたい。
でも、そんな自分を、どこかで少し誇らしく思ってる。
女の子って光を、私はどうしようもなく愛してるから。
「大丈夫、私も力になるし、恋も友達も全部、自分の力に変えちゃおう。悩んだりするのも青春だけど、やっぱり楽しまなくちゃ」
「……楽しむ?」
「そうだよ。悩んじゃうのもその時は本気で苦しいけど、たぶん大人になったら、あんなこともあったなぁ、青春だったなぁって思ってるはず。
小学校や中学の頃の記憶とかもそうじゃない? 苦しかったけど、懐かしくて大事な記憶として残ってる」
「……いや……うーん、そうなの……かな……?」
「本気でぶつかって、本気で泣いて、本気で笑おうよ。自分の気持ちを大事にして、みんなの気持ちも大事にして、それでも素直で居れるなら、どんなに苦しくたって、最後はきっと笑えるよ」
「……無理だよ、そんなこと言えるのは白鳥さんだけだって」
その言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。
まるで遠くから自分を照らすようで、どこか突き放すようでもあった。
私は思わず、結菜ちゃんの手を掴んでいた。
冷えた指先が、私の掌にすっと吸い込まれるみたいに馴染む。驚いたように目を見開いた結菜ちゃんと、視線がぶつかった。
息が止まる。心臓が、どくん、と大きく跳ねた♡
目の前で小さく揺れる彼女の睫毛の影が、どうしようもなく愛しい♡♡
熱い。
掌から、腕を伝って、胸の奥まで火が走る。心臓がドクドクと鳴ってるのが分かる♡
頭の中がふわふわしてるのに、腰のあたりが甘く痺れて、キュッと力が入る♡♡
触れてしまったその温度が、まるで彼女の心の奥に繋がっているようで、指を離すことが怖かった♡
好き……好き……っ♡壊れちゃうぐらい好きなの……♡
全身が甘く……蕩ける……♡全部伝えたい……♡
燃え尽きたい……全部あなたに……♡結菜ちゃん……♡
結菜ちゃんのクラスで、モテる男と言えば、なんとなく目星がつく。
少し背が高くて、声が低くて、誰にでも笑顔を向けられるタイプ。軽いけれど、あざとすぎない。そういう“器用な男子”って、どこのクラスにも一人はいる。
少し前にそんな彼から、
告白されたことを思い出す。
ある日、共通の友達の女の子からLINEが来た。
「ねえ、この人が白鳥さんのこと気になってるらしくて、LINE教えてもいい?」って。
最初は軽い相談みたいな口調で言ってたけど、すぐに“お願い”に変わった。
私は即座に断った。「そういうのいいから」って。
でもその子は、何度も、何度も言葉を変えて頼んできた。
「一回だけでも話してあげて」「すごく真面目な人だから」——そんなふうに。
最後はもう、根負けだった。
「……仕方ないな」って言いながら、あっさり了承してしまった。
最初のメッセージは、どこにでもあるような挨拶だった。
「由香里ちゃんの友達だよね。急にごめん」
「忙しかったら既読スルーでも大丈夫」
そんな無難な言葉が並んでいて、無視するのもいろいろと面倒だから、適当に返す。
「そうだね」「ありがとう」「まあまあかな」
会話を続ける意図も、興味もなかった。
だからこそ、早い段階で“線”を引いた。
“そういうつもりはないから”と遠回しに伝えて、距離を明確にしたつもりだった。
それでも彼は、どこか抜け目がなかった。
話題の選び方も、テンポも、絶妙に“普通”を演じてくる。
退屈でもなく、馴れ馴れしくもなく。
たぶん、女の子がどういう言葉に安心するか、よく分かってるんだと思う。
数日後、「大事な話がある」と告げられた。
その言葉の裏の意図なんて、分かりきってた。
脈がないと悟ると、その手管の切り替えの速さには頭が下がる。
それでも彼は、告白の場を作るまでに、ちゃんと段取りを整えてきた。
「水曜日の放課後、大丈夫?」
「場所、静かなところがいいかな?」
こちらが少しでも不安を口にすると、即座に対応して潰してくる。
やり取りの一つひとつに、“段取り”が見えた。
まるで何かの脚本をなぞるような手際の良さだった。
そして、当日。
彼は、真っ直ぐに言葉を伝えてきた。
「前から気になってて、ちゃんと話したくて」
声も、表情も、整っていた。
それが全部演技だとは思えない。
たしかに、彼の中から何かを引っ張り出しているような、そんな本気の熱があった。
でも同時に、どこか“慣れてる”匂いもしていた。
全てが本当じゃない。だけど、全てが嘘ってわけでもない。
——ここまでやるんだ、と思った。
きっと、こうやって女の子の感情を動かしてきた人なんだろう。
その“上手さ”に、私の中の警戒心が一気に膨らんだ。
ちょうど、彼が彼女と別れたばかりだという噂も聞いていた。
だから私は、それを理由にこっ酷く振った。
「今はそんな気になれないから」——言葉だけなら綺麗に終わるけれど、あれはほとんど八つ当たりだったと思う。
「そういうの、やめといたほうがいいと思う」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
本当は、私自身の中にどうしようもない苛立ちが溜まっていた。
男なんかに時間を取られたこと。
くだらないと思っていた相手に、少しでも感情を揺さぶられたという事実。
その全部が、どうしようもなく腹立たしかった。
誰に向けた怒りなのか、自分でもよく分からなかったけど、胸の奥で何かがじわじわと焦げつくように痛かった。
振られた彼は、拍子抜けするほどあっさりと退いた。
まるで最初から、それが予定調和だったかのように。
こちらに罪悪感を抱かせないように、冗談をひとつ落として笑って、そのまま何事もなかったみたいに日常へ戻っていった。
昼休みには、またいつもの仲間と話している。
放課後には、教室の窓際でふざけあっている。
けれど、廊下ですれ違うとき、ほんの一瞬だけ視線が絡む。
その瞬間に、心の奥で何かがチリッと焦げる。
彼の表情が何も変わらないほど、それが痛い。
近づいてきそうな気配は、確かにあった。
けれど、私はいつも恵美たちと固まって、わざとらしく輪の中に自分を埋めた。
笑い声の中に紛れれば、彼の視線なんて届かない。
でも、そうして作った壁の向こうから、
誰かが静かにこちらを見ているような感覚が消えなかった。
私という存在は、女の子のためだけにあるはずなのに。
女の子を理解して、支えて、輝かせるための存在であるはずなのに。
男に心を乱されている時点で、もう私の負けだ。
自分の中の“女”が反応してしまったことが、何より悔しい。
気持ち悪い。
彼も、自分も。
どちらも、同じように。
──その嫌悪ごと、過去の記憶に沈み切ってしまいそう。
そんな時、ふっと手のひらに熱が落ちてきた。
握った手から、結菜ちゃんの体温が伝わってくる。
それはただのぬくもりじゃなくて、まるで心の奥に直接触れてくるような、やわらかな熱だった。
じんわりと皮膚の内側に染み込んでいく感じがして、指先が自分のものじゃないみたいに震える。
その震えが、彼女の指先の震えと重なって、どちらのものか分からなくなった。
緊張してるのか、それとも、何かを堪えてるのか。判別なんてできない。
けれど、掌を重ねた瞬間、結菜ちゃんの心拍が確かに伝わってきた。
鼓動が、皮膚を通して小さく跳ねる。
細くて華奢な手なのに、その奥には確かに“生きている力”がある。
その鼓動が、私の心臓に呼応するみたいに、ドクンと音を立てた。
結菜ちゃんの瞳が、ゆっくりと私を見上げる♡
長いまつげの奥で、淡い光が滲んでいた♡♡
涙を我慢しているとき特有の、あの独特の潤み方♡♡♡
吸い込まれるような透明さに、息が詰まる♡
唇が少し開いて、そこからこぼれた息が、私の肌に触れた♡♡
たったそれだけで、全身の血が一瞬で熱を帯びる♡♡♡
視線が絡まって、もう離せなかった♡
彼女の目の奥には、悲しみと迷いと、それでも誰かを信じたいという揺らめきがあった♡♡
それを見た瞬間、胸の奥がぐらりと揺れた♡♡♡
理屈も、正しさも、全部どうでもよくなる♡
ただ、目の前の彼女を抱きしめたくて仕方がなかった♡♡
喉の奥が熱くなって、息をするたびに心臓が跳ねる♡
このまま顔を近づけたら、もう戻れなくなる。
そんなこと、分かってるのに♡♡
理性が「やめろ」と叫んでいるのに、体は前に出ようとする♡♡
手のひらの熱が、指の間から零れ落ちそうで、離せなかった♡♡♡
結菜ちゃんの頬が、かすかに赤く染まっていた♡
照れてるのか、泣きそうなのか、どちらにも見えた♡♡
まつげの影が頬に落ちて、その影が微かに震える♡♡♡
唇が少し動いて、けれど言葉にはならない♡
息が重なって、時間が止まったみたいだった♡♡
その柔らかな表情が、怖いほど綺麗だった♡
触れたら壊れてしまいそうで、でももう、壊れることを怖がっていられなかった♡♡
胸の奥がじんわりと痛いほど熱くて、まるで「これが恋なんだ」と体の奥が告げているようだった♡♡♡




