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第38話 お風呂に恋バナにトキメいちゃう♡2

 鏡の前に立ち、クレンジングオイルを両手に広げる。

 顔に触れた瞬間、指先の温もりが皮膚の下へ、さらに奥へと沁みていく。

 今日のメイクが、色も形も境界もなく、じわりと溶けて流れ落ちる。


 女の子たちが求めるままに、私の頬を撫で回す。優しく、けれども私の輪郭を溶かすように何度も何度も── 視界はふわふわ揺れて、目の前がきらきら滲んでいく♡


 泡立てた洗顔料を頬にのせる。

 もこもこの泡が肌を包み込み、指先でなぞるたびに小さな音を立てる。

 

 みんなして頬擦りして、私への愛を示してるみたい。愛しくて、可愛くて、大事に大事に── 全身が震え、脳は幸せに飲み込まれていく♡


 頬を伝う水が、白い泡を連れて静かに流れていく。


 湯気の中で、髪から落ちる雫が肩を伝う。

 一粒ずつ落ちていくたびに、

 何かが整い、何かが終わっていく。

 その一連の動作が、まるで心を洗う儀式のように感じられた。


 体を洗うのはその後。

 髪に残ったトリートメントが肌に触れないよう、動作の順番を決めている。

 首筋から肩、腕、腰、脚へ。スポンジをすべらせるたび、泡が小さく弾けて音を立てた。

 熱を帯びた肌が、空気と混じり合うようにやわらかくなる。


 最後にシャワーで全身を洗い流す。

 頭上から落ちるお湯の重みが背中を叩き、髪を伝って流れていく。

 指の間で髪をすくうと、するりとした感触が心地いい。

 滑らかになった髪先を確かめるように撫で、口元に小さな笑みがこぼれる。


 脱衣所の籠からスマホを取り出し、防水ケースに入れる。

 画面に触れる指先が、まだほんのりと赤い。

 風呂場の灯りが湯気ににじんで、世界が柔らかくぼやけて見えた。


 湯船に身を沈める。

 入浴剤の香りがふわりと広がり、鼻先をくすぐる。

 肩までお湯に包まれると、心臓の鼓動が少しゆっくりになった。

 内側から血が巡っていくのがわかる。

 じんわりとした熱が、頬から耳の先へと広がっていく。


 目を閉じて、深く息を吸い込む。

 湯気を含んだ空気が肺の奥に落ちて、吐き出すときに身体の輪郭が緩む。

 毛穴が開いていく感覚を追うように、もう一度、静かに息を吸う。


 新しいLINEの通知が一つ入っていた。指先が濡れた画面を軽くなぞる。

 返事を送り合っての待ち時間は、顔のマッサージ。

 湯の表面をすくって頬を包む。手のひらに残った熱が、ゆっくりと肌の奥に沈んでいく。


 こめかみから耳の下へ、円を描くように指を動かす。

皮膚の下で脈が小さく跳ねて、それが指先に伝わるたびに、自分の身体が生きていることを確かめるような気がする。


 頬の筋肉を押すと、さっきまでの強張りがほどけていく。

 鼻の横、顎の下、鎖骨へと流していくと、重たかった頭の奥がすっと軽くなった。

 湯気の向こうで、髪がゆるやかに揺れる。滴が肩を伝って落ちる瞬間だけ、少しだけ涼しい。


 額を親指で撫でると、温かい膜がすべてを覆う。

 目を閉じて深呼吸。湯気に混じる香りが、肺の奥に届く。

 呼吸のたびに胸のあたりがゆるんで、世界が少し遠くなる。

 湯面が静かに波打ち、灯りが揺れて、水面に映る自分が少し微笑んだ気がした。


── ──


結菜

正直どうしたらいいのか分からないんだよね


沙織

うーん、一人で抱え込むのもしんどいでしょ



結菜

そうなんだよね……。だから誰かに話したくて


沙織

それなら、明日の昼休みにゆっくり話さない?



結菜

いいの? 白鳥さんに話し聞いて貰えるなら凄く嬉しい


沙織

もちろん。昼休みなら、家庭科室とかどこか空いた教室使えば良いし


結菜

いいね、それなら落ち着いて話せそう


沙織

じゃあ、明日の昼休みね。一緒にお話し出来るの楽しみにしてる。


結菜

うん、じゃあ、また明日の昼休みに家庭科室で


── ──


 その通知を見た瞬間、胸の奥がふっと熱を帯びた♡


 たった一行のメッセージなのに、そこに含まれた「誰かが自分を待っている」という約束の重みが、皮膚の内側にゆっくりと染み込んでいく♡

 手にしていたスマホの明かりが、まるで心臓の鼓動と同じリズムで微かに脈打っているように見えた♡♡

 頬の裏側がじんわりと温かい。息を吸うたびに、胸の内側が膨らんでいくのが分かる♡♡♡


 誰かと繋がるということが、こんなにも身体を反応させるものだったのかと、今さらながら驚く♡

 ──明日、結菜ちゃんと話せる。それだけのことなのに♡♡

 目を閉じると、昼休みの光景が、まだ存在しないのにもう“在る”ように感じられた♡♡♡


 漫画とかだと、好きな相手を寝取りとか横取りみたいなドロドロした展開ってよくあるけど、実際の学校生活ってそういうのは思ったより起こらない。

 もちろん、「あの子の彼氏いいなぁ」とか「別れたら私がいこうかな」みたいな噂や空気はある。けど、わざわざ友達から奪うとか、真正面から取りにいくことはほとんどない。


 これがなんでかっていうと ──たぶん学校って世界が狭すぎるから。

 一度でもそんなことをしたら一瞬で広まるし、あっという間に自分の立場が悪くなる。友達関係も壊れるし、居場所そのものがなくなるリスクが高すぎる。

 だから自然とみんなそこは線を引いてるんだと思う。


 そもそも彼氏を作るという行為が、単純な好きって気持ちもあるんだけど、周りから置いて行かれたくない、すごいって思われたいっていう承認欲求の部分もあると思う。

 高校生活って「恋人を持つこと」より「友達にどう思われるか」のほうが重要だったりするから、友情を壊してまで恋を取りにいくのは割に合わない。


 あと高校生の恋って「好き!」って気持ちは本物でも、将来を背負うほどの重さはない。今のスクールカーストっていう立場は学生時代だけのものなんだって、みんななんとなく分かってる。

 だから「そこまでして奪うほどじゃないか」ってブレーキがかかる。


 でも、社会に出て働き始めると、コミュニティが広がる。失敗しても別の場所に逃げられるし、大人の恋愛って責任と自由が入り混じってるから、奪い合いも現実的になってしまう。


 学生の頃と違って、社会人になると「完成品」ととしての男性像がはっきりと浮かび上がる。

 たとえば仕事ができる、経済的に安定している、周囲から信頼されている、円満な家庭を想像出来る ──そういう男はコミュニティが広がるほどに、自然と複数の女性から注目を浴びる。


 一方で、社会人女性は年齢を重ねるごとに結婚・出産のタイムリミットを意識せざるを得ない。すると、「奪うことへのためらい」よりも「今逃すと二度とチャンスがない」という切迫感が勝つ。結果、友達の彼氏や既婚者であっても“奪う”に踏み切る動機が強まる。


 さらに大人の恋愛は「自己責任」の文化が根強いから、倫理よりも“個人の欲望”が優先されやすい。社会的ステータスや経済力、精神的支えとしての男性は一種の「資産」とみなされ、奪い合いの対象になっていく。

 いざ奪ってしまえば、他人に心を動かされる程度の男だってレッテルを、自ら貼ってしまう事実すら見落として。


 まあ最終的に定年になって社会的カーストが終わると、熟年離婚なんてことになるんだけどね。

 そのギャップが、なんだか不思議で面白い。


 スマホを持って、お風呂から上がる。

 湯気がまだ漂う脱衣所。湿った空気の中に、石鹸とシャンプーの香りがかすかに残っている。肌の上を伝う水滴が、室内の光を受けて小さく瞬いた。


 ここからは、時間との勝負。

 バスタオルで水分を押さえるように丁寧に拭き取っていくと、肌がまだ温もりを留めていて、掌にしっとりと吸い付く。

 その感触を確かめながら、化粧水を手に馴染ませ、顔全体に重ねていく。

 肌が水を飲む音が聞こえるような気がして、指先にまで気持ちが集中する。

 次に美容液、乳液。軽くマッサージするように塗り込むと、表情まで柔らかくなる。

 腕、脚、鎖骨のあたりにもボディクリームを伸ばしていく。


 お風呂上がりの五分 ──この短い時間が、私の一番大事な時間。

 温もりと潤いが混ざり合う肌に、自分が女の子であることを、身体ごと確認していく。


 最後に髪。

 タオルで余分な水分を吸い取ってから、ヘアオイルを少し。

 指先で毛先をすくうように馴染ませると、オイルが光を反射して、まるで薄い金糸を織り込んだみたいに艶が出る。

 ドライヤーをあてるたびに、甘い香りがふわりと広がる。

 乾いた髪を指で梳かすと、サラサラと静電気のない音がして、胸の奥が静かに満たされていく。


 お風呂で清めた身体が、“光”へと昇華されていく感覚。

 鏡の前に立つと、そこに映っているのは、ただ清潔で、静かに整った私。

 誰かに見せるためじゃない。でも、誰かのために在りたいと願う。


 私が身を清めるのは、全て女の子のため。

 私は、可愛い女の子たちの憧れ。

 私は、可愛い女の子たちの象徴。

 私は、“可愛い”という言葉そのもの。

  ──そして私は、“女の子という光”を愛するために存在している。

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