第37話 お風呂に恋バナにトキメいちゃう♡1
「ただいまー」
私は恵美たちと思いっきりカラオケではしゃいで、喉が枯れるほど歌って、笑って、ようやく外に出たときには心まで軽くなっていた。
ただ盛り上がり過ぎたせいで、汗がじっとりと肌に残っている。体育の授業の疲れもあって、帰宅した途端、まっすぐお風呂に向かった。
脱衣所で制服の上着のボタンを外すたびに、胸のあたりの熱が静かに抜けていく。
締め付けられていた襟元や袖口を解くと、まるで今日一日の喧噪から少しずつ解き放たれていくようだった。
ワイシャツのボタンも順番に外していく。一番上のボタンを外すと、ふわりと新鮮な空気が鎖骨に触れた。
二つ目、三つ目……と外していくたびに、隠されていた白い素肌が徐々に露わになっていく。四つ目まで外し終え、ワイシャツの前を大きく開くと、白いキャミソールに覆われた自分の身体が現れた。
そのままワイシャツを腕から抜き取る。さらりとした感触の布が腕を通り抜け、完全に身体から離れる瞬間、妙に清々しい開放感があった。
次はスカートのホックに手をかける。
ぱちん、と小さな金属音を立ててホックが外れると、するりとスカートが腰から離れ、足元に折り重なるようにして落ちた。
上半身に残るのは、白くてシンプルなキャミソールと、身体に優しく沿うノンワイヤーブラ。
両手を上げ、キャミソールの裾をつまむと、頭のほうへと静かに引き上げていく。布が肌を滑りながら抜けていく感触に合わせて、肩や腕のラインが順に現れ、キャミは軽く空気を含んで手の中へと収まった。
下に残ったブラのフックに手を掛ける。ぱちんと外れると、締め付けが少なって、ふっと息が楽になり、肩の力も抜けていく。
肩紐を片腕ずつ抜き取り、完全に脱ぎ去る。
制限のない胸のふくらみが、静かに自己主張をするように揺れた。
残るは一番最後の砦──純白のコットンショーツのみ。
脚を片方ずつ慎重に抜き、その最後の一枚を剥ぎ取る。
肌と布の間に生まれていた小さな湿り気が名残惜しそうに吸い付き、するりと離れる瞬間がやけに鮮明に感じられた。
これで私は完全な裸体になった。
ひやりとした脱衣所の空気が、湯上がりのような体温とは違う熱を持った私の素肌を撫でる。
思わず鏡の方へ視線を向けた。
衣服の類を一切纏わず、ありのままの輪郭と起伏を晒している。
程よく鍛えられた健康的な身体。
柔らかで張りのある胸の膨らみ、きゅっと引き締まったウエストから続く滑らかな腰のライン、形の良い臀部。
何も飾らないその姿は、女の子の理想を体現したみたい。
女の子に求められ、女の子という光に触れるためのもの。
籠の中で小さく震えたスマホが、静かな部屋に鈍く響いた。
入浴の支度をしていた私は、一瞬だけ手を止める。
湯気を逃がさないように閉めた扉の前で、画面を覗き込むと──そこには「竹田結菜」の名前。
少し意外だった。違うクラスの子だし、特別親しいというわけでもない。
「どうしたんだろ」と思いながらも、こういう急な連絡といえば、だいたい決まって“恋の話”だ。
つい出来心でいろんな女の子の相談を受けていたら、いつの間にか"恋愛相談といえば白鳥沙織"と広まってしまっていた。
私に近付きたいだけなのかなって相談もあるけれど、それはそれで嬉しい。そんな口実作らなくても、私はもっとみんなとお話ししたいのに。
もちろん女の子の恋愛相談を聞くのは好き。
瞳を潤ませて、「あの人のことが好きなの」と話す姿を見るたびに、まるで自分のことのように胸が躍る。
そんな女の子を男なんかにくれてやるのは癪なのだけれど、この光が求めているのはその男のこと。
私はただ、その輝きに魅せられているだけ。
──ああ、恋って、誰かを好きになるって、どうしてこうも女の子を綺麗で可愛くするんだろう。
スマホを手に取り、アプリを起動した。
── ──
LINE
結菜
突然の連絡、すいません。
白鳥さんに、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?
沙織
どうしたの? なんか悩んでる感じ?
結菜
好きな人のことで……なんか友達と好きな男子が被っちゃったみたいで……
沙織
えっ、そうなの? それはちょっと大変だね
……
結菜
うん……相手は同じクラスの男子で、わりと人気ある人なんだけど
沙織
なるほど、それなら他にも気になる子多そう
結菜
でも、その友達とは仲良いから気まずくなりたくなくて
沙織
わかるよ。友達との関係は壊したくないもんね
── ──
何度かメッセージをやり取りして、少しだけ気持ちがほぐれたのか、結菜ちゃんの文面に柔らかさが戻ったのを見て、私も胸の奥が温かくなる。
スマホをそっと籠に戻す。
指先にまだ、文字を打っていたときの小さな熱が残っていた。
そして浴室の扉に手をかける。
指先が金属の取っ手に触れた瞬間、外気との温度差が肌に伝わる。
ゆっくり押し開けると、湿った温かい空気がふわりと頬を撫でた。
浴室の照明が柔らかく反射して、白い湯気がゆらゆらと踊る。
その空気に包まれるだけで、心が静かに解けていくようだった。
好きな人が友達と被る問題。これも学校生活では、よくある話。
だいたい女の子にとって魅力的である男って、どうしても限られてしまうのだ。
男なんてみんなクソ──そう言い切りたい気持ちはあるけれど、その中でも「こいつはモテるだろうな」っていう顔ぶれは、嫌でも分かってしまう。
モテるっていうのは比較から始まる。日常で接する男子の多くは「普通」か「微妙」に分類されて、印象に残らない。けれど、一人でも際立った存在がいると、脳はそこに集中的にスポットライトを当てる。
しかも女の子同士は集団で行動するから、同じようにその男を目にし、同じ瞬間に「気になる」と思ってしまう。そうやって「候補」が絞られていく。
ルックスや運動神経、頭の良さといった分かりやすいスペック。あるいは、コミュニケーション能力といったアプローチのうまさ。恋愛市場における優位性は、ほんの小さな差が決定的に響く。だから、どうしても「被る」。
そして、そういう男は自然と余裕が出来る。この子じゃなくても他の子がいる。そういう“選択肢の多さ”が態度ににじみ出る。ガツガツしていないように見えるし、断られても平気そうに笑える。その「余裕」がまた魅力を増幅させる。
女の子をちょっと雑に弄ってみたり、わざと軽口を叩いて境界を揺らす。そこに冗談めかした優しさを混ぜるから、ただの意地悪にはならない。
無邪気に軽く突き放して、すぐに引き寄せる。その落差がドキッとして心を震わせる。
あるいは、小さなことで恩を売る。気兼ね無く、何か重いものを持ってあげたり──その程度の些細な行為でも、「助けてもらった」という感覚は心に残る。しかも本人は「別に大したことじゃない」とサラッと流すから、余裕の格がさらに強調される。
女の子は本能的に、群れの中でリーダーシップを持つ存在や、周囲に慕われる余裕ある態度に惹かれる。いわば「選ばれる側」ではなく「選ぶ側」であることを示す男が、無意識に特権的な立場になる。
さらに厄介なのは、その余裕が自己強化のループを生むことだ。モテる → 選択肢が増える → 余裕が生まれる → さらにモテる。だから、最初にほんの少しリードを取った男子は、気づけば“圧倒的にモテる男子”という地位を固めてしまう。
ただ──それが「本当に中身が伴っているか」とは、まったく別の話。
モテるからといって、優しさが深いわけじゃない。むしろ選択肢が多いぶん、一人に真剣に向き合わなくても困らない。だからこそ、軽さや無責任さが目立つこともある。
そして、女の子の側もそれを薄々分かっている。分かっているのに、惹かれてしまう。彼が特別に優しいわけでも、約束を守ってくれる保証があるわけでもないのに──「みんなが欲しがる人を自分だけが手に入れられるかもしれない」という希少価値の魔力が働く。
だから、学校の恋愛市場はいつも歪んでしまうのだ。魅力の総量は偏っていて、気持ちはそこに集中して、競合は避けられない。
本当、男との恋愛なんて報われないことの方が多い。
みんな言葉では「もう懲りた」とか「恋なんてしない」なんて言いながら、それでもまた誰かに惹かれてしまう。
それが滑稽で、少し哀しい。
でも──恋する女の子は、やっぱり綺麗で可愛くて、愛しい。
笑った顔も、泣きそうな目も、嫉妬で滲む声も。
その全部が、どうしようもなく眩しく輝いている。
悩んで、苦しんで、報われなくても、それでも恋をしている姿に、誰もが目を奪われる。
見ているだけで胸が痛むのに、それでも目を逸らせない。
その痛みの中に、何か“生きている証拠”のようなものを見てしまうから。
ねえ……みんな……お願い……♡もっと、好きって叫ばせて……蕩けさせて……♡
指先まで甘く震えて……好きが零れ落ちる……♡
私の全部が……可愛いって言ってるの……もう止まらない……♡
湯気が満ちるバスルームは、世界から切り離された小さな聖域のようだった。
水滴がタイルの上で淡く光り、天井から落ちる蒸気が空気を柔らかく包み込む。
レバーを捻ると、シャワーの温もりが髪を伝い、肩を撫で、心の奥に沈んでいたざらつきを少しずつ溶かしていく。
湯の粒が首筋を滑り落ちるたびに、意識の輪郭がゆるんで、身体と世界の境目が曖昧になっていった。
熱が肌の奥に沁み込んで、そこからじんわりと、甘い倦怠が広がっていく。
あぁ ──蕩けていく。ゆっくり、ゆっくり、すべてが。
そのときふと、昼休みの教室が頭に浮かぶ。
笑い声、光、そして女の子たちの視線♡
──「沙織の髪って、ほんと綺麗だよね」
あの何気ない一言が、泡のように思い出の中で弾けて、胸の奥に染み込む♡♡
恍惚とした熱が頬を撫で、心臓の鼓動が静かに速まっていった♡♡♡
一度目のシャンプーは、汗と埃を洗い流すため。
指先を軽く滑らせると、泡が髪の間を踊るようにすり抜ける。
流した瞬間、髪一本一本が光を吸い込み、柔らかく輝いた。
女の子たちに髪を撫でられ、脳みそを直接愛撫されているみたい♡
女の子たちの指が、私の髪をそっとすくい上げる♡
……首筋に触れた瞬間、ひやりとした感触が背中を駆け上がって、息がふっと漏れる♡♡
耳の後ろをなぞる指先は、まるで私の深いところに触れるみたいに──甘さと快楽が混ざり合う♡♡♡
もう一度、掌にシャンプーを取る。
今度はマッサージするように、ゆっくりと頭皮を押していく。
円を描くたびに、血が通い、指先から温もりが広がる。
二度目の泡は絹のように滑らかで、指を通すたび光が弾む。
鼓膜の奥を、くすぐるみたいに震えが這い上がって、髪を梳く指先の動きが、全身を蕩けさせる♡
震える指先が、耳殻のふちをゆっくり犯していって──脊髄の奥がピリピリと痺れて動けない♡♡
コンディショナーを髪全体に伸ばして、毛先を中心に揉み込む。
手のひらに残るぬめりが、柔らかい膜のようにまとわりついて、
流してしまうのが惜しく感じるほどに心地いい。
湯気が肩を包み、息をするたび、湿った空気が肺の奥で蕩けていく。
女の子たちの愛が、神経の奥底まで、撫で回す♡
毛根から、皮膚の裏側、背骨の奥まで、じんじんと痺れて、蕩けていく♡♡
髪一本が撫でられるごとに、身体の中でじわじわ甘い波紋が広がった♡♡♡
しばらくそのままにして、髪を軽くまとめる。
その間、天井の湯気がゆっくりと降りてきて、頬を撫でていった。
世界が霞の中に沈み込んでいくようで、時間の流れさえも甘く溶けていく。




