表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/32

第24話 無防備な由梨ちゃんは宝物♡

 朝、教室に入ると、すでに由梨ちゃんが席についていた。

 私がドアを開けて入ってきた瞬間、彼女は小さく肩を揺らし、恐る恐るこちらを見上げた。


 目が合った。

 けれどすぐに逸らされる。机の角を指先でくるくるなぞったり、前髪を耳にかけかけ、結局また戻してしまったり。

 どう対応していいか分からない──そんな迷いが、仕草のすべてに滲んでいた。


 ああ、可愛い♡

 心臓が跳ねて、胸の奥がじわっと熱を帯びる♡

 血が指先まで駆け巡って、身体が軽く浮き上がるような感覚♡♡

 由梨ちゃんの小さな動きひとつひとつに、私の中の幸福が弾けて、広がって、止まらない♡♡♡


 大丈夫だよ。そう伝えるように、私は静かに微笑んでみせた♡

 それだけで、彼女は一瞬、安心したように目尻を柔らかく緩めた♡♡


「おはよー」

「おはよー」


 それだけの挨拶なのに、胸の奥が甘く震える。

 そのまま私は席に着いたけれど、すぐに友人たちが集まってきて、いつものお花畑みたいな輪ができあがる。

 ──けれど今日は、その輪の外に、どうしても放っておけない一人がいる。


「ごめん、ちょっと待ってて」


 みんなにそう告げ、私は立ち上がった。

 周囲のざわめきがふっと落ち着く。視線が一斉に私へと向けられる。


 由梨ちゃんは、近づく私を前にして、目をぱちぱちさせた♡

 頬がほんのり赤く染まり、唇が小さく開いて、閉じて……また開く♡♡

 呼吸の仕方さえ分からなくなったみたいに、必死にこちらを伺っている♡♡♡


 その姿が、愛しすぎて、胸の奥から歓喜があふれ出す♡

 たぶん顔も耳も熱くなっていて、私はきっと今、誰よりも幸せそうに笑っている♡♡


「由梨ちゃん、こっちおいで」


 差し出した手は、まるで物語の王子様がお姫様を迎える仕草のように自然に伸びていた。


「う、うん……」


 びくっと肩を震わせてから、由梨ちゃんは視線を泳がせ、でも意を決したように私の手に自分の手を重ねる。

 その瞬間、教室のあちこちから小さな悲鳴や黄色い声が漏れた。


 つい数日前までほとんど関わりのなかった私と由梨ちゃん。

 それが今、こうして特別な仕草で結ばれている。

 みんなが驚くのも当然だ。


 私は手を少し上げて、まるで舞踏会のエスコートみたいに彼女を導く。

 彼女の手のぬくもりが心地よくて、胸がいっぱいになってしまう。


 可愛い……可愛い……由梨ちゃんは私のお姫様……♡

 ……可愛くて♡……純粋で♡……私の中に囲んであげる……♡

 震える手が愛しくて♡……由梨ちゃんが私の中で蕩けちゃってくみたい……♡


「ちょっとここの席使って良い?」


 隣の席の男子に軽く声を掛け、空けてもらった椅子に由梨ちゃんを座らせた。


⸻これは完全に演出だ。


 今までの坂尾由梨ちゃんの立ち位置は、クラスの中で「いてもいなくても困らない」ような、静かに溶け込んでいる存在だった。

 悪目立ちもしなければ、特別に注目されることもない。いわば、風景の一部のような子。


 もちろん私は、クラスの女の子たちが出来るだけ安心して笑い合えるように、声を掛けたり、輪に引き込んだりしてきたつもりだ。

 けれど、どうしても全員に同じだけ時間を割くことは出来ない。


 控えめな子や、もともと人前に出ることを苦手にしている子には、「無理に引っ張らない方がいい」と判断してしまうこともある。 

 由梨ちゃんも、そんなふうに「見守られる側」として静かに居場所を確保していた。


 ⸻でも。

 私と由梨ちゃんが一緒にいたところを、莉里に見られてしまった。

 もしこのまま由梨ちゃんがただの「地味な子」でしかなかったなら、莉里がどんなふうに彼女に迫ってくるか、想像するだけで胸が冷たくなる。


「白鳥沙織と関わるな」

「いや、彼女を男の集まりに行くよう説得しろ」

「昨日、私の彼氏を見てたよね?逆らったらどうなるか、分かってるでしょ?」


 そんな言葉で、優しい由梨ちゃんを脅すかもしれない。そうやって私を危険な場所に追いやる道具にされてしまう。


 女の子たちは、そういうことに案外敏感だ。

 でも、もし由梨ちゃんが「ただの地味な子」でしかないなら、きっと多くの子は「見て見ぬふり」を選ぶ。それが、教室という小さな社会の残酷なところだ。


 だから私は、今日ここで形を変える。

 ⸻由梨ちゃんを、ただの背景から「憧れ」にする。


 私が彼女を特別扱いすれば、由梨ちゃんの立場は一気に跳ね上がる。

 クラスの中で「白鳥沙織に選ばれた子」として存在感を持つようになる。


 そうなれば、もし何か起こっても、周りは「自分たちの仲間」として彼女を守ろうとするはずだ。


 少し目立ちすぎて、由梨ちゃんには恥ずかしい思いをさせてしまうかもしれない。

 けれど、それはどうしても必要なこと。ごめんね、由梨ちゃん。あとで必ず謝るから⸻。


 私は心の中でそう誓いながら、彼女の横顔を見つめた。由梨ちゃんの頬は赤く、緊張で強張った指先が小刻みに震えている。


 そんな姿すら、私には愛しくて仕方がなかった♡


「もっと良く顔見せて?」

 私が囁くように言うと、由梨ちゃんは小さく肩を跳ねさせ、視線を泳がせながらも恐る恐る顔を上げてくれた♡


「う、うん……」


 その顔は、今にも泣きそうなほど緊張で固まっているのに、目尻や唇が微かに震えているせいで、かえって柔らかく愛おしく見えてしまう♡

 頬の筋肉が強張っているのに、それでも私の言葉に応えようとする健気さ。喉が詰まったように動かない彼女の仕草すら、心臓を鷲掴みにする♡♡


 ⸻可愛い。

 もうその一言しか浮かんでこなかった。


 胸の奥が熱を持って、じわじわと全身に広がっていく。頭の奥で痺れるような快感が走って、身体が軽く浮き上がるような感覚に襲われる。


「うん、あまりしないって言ってた割には上手く塗れてると思うよ」

 わざと少し穏やかな声色で褒めると、由梨ちゃんの耳まで赤くなっていく♡

「ちょっとね、この辺が厚くて、ムラになっちゃってるかな。整えてもいい?」


「うん、いい……」

 か細く答えたその声は、震えを帯びて私の胸に直接響いた♡


 私はカバンを開き、化粧ポーチを取り出す。ファスナーを開ける音すら、周囲のざわめきの中で鮮明に聞こえるほど、自分の意識が集中していた。


 指先でそっと彼女の頬に触れる。粉が軽く舞い散る感触、指腹に伝わる微かなざらつき。

 ほんのり温かい肌に、緊張で上気した熱が重なって、指先が火照る。


 近付いた瞬間、彼女の髪からシャンプーの甘い匂いと、化粧品特有のかすかな香りが混じり合って鼻をくすぐった。

 それがまた、私の理性を少しずつ蕩かしていく。


「ここはね、ちょっと色が濃くなっちゃったんだね。鏡だと見えづらかったかな?」

 軽く指でぼかしながら、私は頭の中で想像する。きっと由梨ちゃんは今朝、震える手で一生懸命メイクをしたのだろう。

 鏡の前で何度も首を傾げて、自分なりに工夫して……。その姿を思い浮かべるだけで、胸がぎゅっと締め付けられるようだった♡


 どういうメイクにしてあげよう。学校だから派手すぎるのはダメ。でも、ただメイクするだけじゃ意味がない。

 これは由梨ちゃんを「特別」に見せるためのもの――そのためにどうしたらいいのか、私は彼女の顔を覗き込む。


 長いまつ毛に縁取られた目は、それだけで清楚な印象を持っている。だからこそ、下手に強い色を乗せれば台無しになってしまう。


 由梨ちゃんらしい、透明感と柔らかさを生かすのが一番いい。だけど、それだけじゃ「特別感」が足りない。わざわざみんなの前に引っ張り出した意味がない。


 ……なら、少しだけ私に寄せてみようかな。清楚さの中に、ほんの一滴の華やかさを。

 由梨ちゃん自身の良さを壊さずに、でも「あなたは特別」って、そう伝えられるように。


「この目元、すごくきれいに見えるよ。ここにちょっと色を足すと、もっと映えるんだ」

 私は小さなブラシでアイシャドウを重ねる。

 粉がまぶたに落ちる感触が伝わって、由梨ちゃんのまつげがぴくんと揺れた。


 その反応に、また胸が高鳴る♡


 ひんやりとした毛先が薄い皮膚に触れた瞬間、由梨ちゃんのまつげがぴくんと震えた。

 わずかに身じろぐようなその反応に、私の胸の奥で甘い熱が膨らむ。粉が均一に広がって、まぶたに淡い光を宿していく。


 至近距離で見つめる彼女の瞳は、怯えと恥じらいと、ほんの少しの期待で揺れている。

 そこに自分の顔が映り込んでいるのを見た瞬間、心臓が跳ねて血が一気に巡った。


 まるで頭の奥で花火が弾けるように♡

 ⸻あぁ、もうだめ。可愛いが過ぎる♡♡


「じゃあ……こっちの頬にも重ねるね」

 ブラシを軽く払って余分な粉を落とし、そっと頬にのせる。

 筆先がふわりと触れるたびに、由梨ちゃんの体が小さくびくん、と震えた。まるで肌が予期していなかった刺激に驚いたみたい。


 その震えが私の指先から柄を通じて伝わってきて、ぞくりと背中を甘い電流が走り抜ける♡

 頬を染めるはずの色よりも先に、私の胸の奥が熱に満たされていく♡♡


「……これ、昨日買ったリップ。仕上げに塗ってあげるね」

そう言いながら、私はキャップを外し、ほんのり艶のある色を指先に取った♡

ゆっくりと、彼女の唇に近づける。筆先が柔らかい肌に触れた瞬間、空気がピンと張りつめる♡♡


ひと塗りするたび、由梨ちゃんの唇が微かに震える。その震えが、筆を持つ私の手首まで伝わってくる。温かくて、柔らかくて、まるで触れちゃいけない秘密に触れているみたいで、心臓がぎゅっと縮む♡


 呼吸がうまく整えられない。吐く息が浅くなって、鼓動が耳の奥でうるさく鳴り響く♡

 唇に重ねるその一筆ごとに、由梨ちゃんの顔が少しずつ完成していく――でも私の方こそ、今にも仕上げられてしまいそうで♡♡


 指先に残る微かな震えが忘れられなくて、胸がいっぱいになる♡


 それはまるで、音も色も匂いも、全部が由梨ちゃんで満たされていくようで⸻私の中で抑えきれない「好き」が、どんどん膨らんでいくのを自覚してしまった♡


「うん、終わり。学校だから薄めにしたけど、すごく自然で可愛いよ」


そう言うと、教室にいた女の子たちの声が一気に華やいだ。由梨ちゃんの周りに小さな輪ができる。


「坂尾さん、すっごく可愛い! え、魔法みたい!」

「ねえ、白鳥さんとなんでいきなり仲良くなったの!?」

「私も白鳥さんにメイクして欲しい!!」


 普段は静かで、どちらかといえば目立たない由梨ちゃんに、次々と声が飛んでいく。彼女はきゅっと肩をすぼめ、視線をあちこちに泳がせながら、どう答えればいいのか分からないといった顔で口を開きかけては閉じる。その姿がもう、たまらなく可愛かった。抱きしめて隠してあげたくなるほどに♡


「坂尾さんと、何かあったん?」

 隣で私の友人の恵美が小首をかしげて尋ねてくる。はしゃぐ声の輪の中で、彼女の視線だけが冷静に私に向いていた。


「うん、この前、由梨ちゃんから相談受けたんだよね。彼氏ができたけど、ちゃんとやっていけるか不安って言ってて」

「へえ」

「それで、可愛くメイクしたら自信もつくかなって思って、週末に一緒にコスメ見に行ったの」

「なるほどね」

「お店でメイクさんにメイクしてもらって、それが嬉しかったみたい。でも一人でやるのはまだ不安だって言ってたから……だから学校で私が見てあげるよって」


「へえ、良いじゃん、それ」

 恵美は半ば納得したように笑って頷いた。その瞬間、周りの女の子たちが一気にヒートアップする。


「ねえ、白鳥さんはどんなコスメ見てたの?」

「店員さんとどんな話してたの?」

「坂尾さんの彼氏って誰? 同じクラス?」


 矢継ぎ早に浴びせられる質問。由梨ちゃんは真っ赤な顔で「え、あ、えっと……」と声にならない声をもらし、手を胸の前でぎゅっと握りしめている♡

 まるで小さな舟が大波に翻弄されているみたいに、視線が右往左往して、肩が何度も小さく震えていた♡♡


 その様子があまりにいじらしくて、私はただ見守るしかなかった。助け舟を出してあげたい気持ちと、この慌てふためく姿をもう少し眺めていたい気持ちとが胸の中でせめぎ合う。結局、私は温かい眼差しだけを向けることにした♡


 また由梨ちゃんがみんなの中心になっている。その事実が誇らしくて、胸の奥からじんわりと幸せが広がっていく。彼女が照れて困って、それでも必死に答えようとしている⸻そんな姿を見られること自体が、私にとっては何よりのご褒美だった♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ