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第2話 キスがしたくて、蕩けちゃう♡

 彼女は、恥ずかしそうに俯いたまま、ひとつひとつ言葉を探しているようだった。


 その指が、そわそわと落ち着かなく動いて、こまねいたかと思えば、今度は髪の毛を指先でくるくると弄りはじめる姿が愛しくて堪らない♡


 見てるだけで、胸の奥がぎゅーって締め付けられて、溶けるように熱くなる♡

 鼓動が早くなるのを、誤魔化せない。きゅうって、頬が緩んで、勝手に笑ってしまっていた♡♡


 脳内に、ふわぁって甘くて蕩けるものが流れ込んできて、頭の奥の方が、じんわりあったかくなって、多幸感に包まれる♡

 目尻がとろんと下がっていくのが、自分でも分かった♡♡

 とろける。蕩ける。崩れる。もう、戻れないくらい——可愛い♡


 可愛い……可愛いっ……ほんとに……もうっ……好きっ……♡

 私……もう……好きでいっぱいになっちゃう……♡

 頭の中……可愛いって言葉しかないの……助けて……♡


「……あ、あの……白鳥さんに、聞いて欲しいことがあって……」


 その声が、小さくて、やさしくて、

 耳の奥でそっと弾けるみたいに届いた。


 この子の名前は、坂尾 由梨ちゃん。

 同じクラスの、ちょっと目立たない女の子。

 いつもグループの端っこで静かに微笑んでて、でもちゃんと周りを見てる、そういうタイプ。


 髪は短くて、ちょっとふわっとしてて、頬のラインに沿ってきれいに揺れる。

 目元はすこしタレ気味で、どこか切なげで──でも、それがすごく優しい印象で。


 ああもう……何もかもが、愛おしすぎて困る♡


 ぷるっとした唇が、緊張のせいか小さく震えてて♡

 そっと舌先で濡らすしぐさに、目が離せなくなってしまう♡♡


 ふあっ……♡ 好き……っ♡……好き……っ♡

 ……その唇に触れたい♡……この想いを伝えたい……♡

 ただ重ね合いたいっ……♡溶かし合いたい……っ♡


「いいよ。今、話す? それとも放課後?」


「えっ……あ、どっちでも。白鳥さんが良ければ」


「今からだと時間足りないよね。放課後、ちゃんとゆっくり聞くよ。急ぎじゃないよね?」


「う、うん……急ぎとかじゃない」


「じゃあ決まり。放課後に教室でどう?」


「え、でも……わざわざ時間取らせるの、悪いかも」


「何言ってんの、坂尾さんさ、いつもみんなのために動いてるじゃん。移動教室の時とか、忘れ物チェックしたりしてるの知ってるよ? 私がシャーペン落としたときも拾ってくれたでしょ」


「そ、それは……つい、やっちゃうだけで」


「だから、その“つい”にお返しさせてよ」


「じゃ……じゃあ、放課後……教室で」


「オッケー、待ってるね」


「うん、ありがとう……待ってる」


 彼女がふっと笑った。くしゃっとした笑顔に、目の端が柔らかく折れて、えくぼがきゅっと沈む♡

 その無防備さに、胸が熱くなる♡♡


 トクンと音がした。自分の中で、何かが跳ねた♡


 胸の奥がきゅうっと締め付けられて、呼吸が一瞬止まる♡

 鼓動が浮き上がって、熱がじわっと広がっていく♡♡

 脳髄の奥にとろっとした甘いものが染み込んで、指先まで、震えている♡


 優しいのに、まっすぐで。あったかくて、でもドキドキして。甘くて、少しだけ苦しい。好きだって気持ちが、胸の奥でぽんと膨らんだ♡


 心臓が跳ねるたびに、「好き」って音が鳴ってるみたいだ♡

 トクン、トクン、好きだよ。苦しいよ。でも、こんなに嬉しい♡♡

 好きと苦しいが一緒になって、全部がぐちゃぐちゃになって、でもそれが気持ちいい♡


 頭の中があったかく、ふわふわ浮かんでいく♡

 目の前が柔らかくぼやけて、感覚の輪郭が蕩けるみたいに溶けてく♡♡

 彼女の笑顔が、全世界みたいになって、“好き……苦しい……可愛い……”そんな想いだけが、脳内に溢れて行く♡


 由梨ちゃんが、ほんの少しだけ頬を染めて、視線をそらす。その仕草がもう、たまらなく愛おしい♡

 唇の端をきゅっと引いて、もう一度はにかむように笑ったあと、教室の扉に手をかけた。


 静かに扉が開いて、彼女の後ろ姿が遠ざかっていく。

 その背中を、わたしはまるで宝物を包むような気持ちで、そっと、でも確かに、微笑みながら見送った。


 鼓動が音を立てるたび、身体の内側が熱を孕み、じわじわと溶けていく♡

 心が蕩けて、思考がぼやけて、

 私は今、脳の奥から何かが溢れ出して、

 全身の神経に染み込んでいくのを止められなかった♡


 ダメ、頭がおかしくなっちゃう♡♡


 視界がかすむ。息が浅くなる♡

 胸の奥がふわふわして、頭の中が熱に包まれていく♡♡


 好き……っ……♡ 好きっ……♡

 大好き……大好き……っ……♡

 恋しちゃう……あぁ……もう……♡


「いやー、沙織は罪な女だねぇ」


「えー、どういうことよ?」


「あれ、絶対に告白でしょ? 男も女も関係なく落とす。さすが学校一の美少女と言われるだけある」


「ナイナイ。坂尾さんとそこまで接点なかったし、告白ならこんなとこで声掛けないよ」


「いやー、どうだか。どっかでさっきみたく、「いつも見てるよ?」みたいなこと言ったんじゃないの?」


「あれ、私ちょっとドキドキしちゃった。沙織、悪い女だわ」


「だって見ちゃうでしょ。坂尾さん、可愛いし、雰囲気も柔らかいし。気になるって」


「それはまあ、わかるけど……」


「でも、告白だったら報告してねー?」


「ダメですー、プライバシー尊重系女子なので、私は」


「だから相談とかいっぱいされちゃうんだよ。特に恋愛相談といえば、"白鳥 沙織"みたくなっちゃってるからね?」


「いいな、私も他人の恋バナに無責任に首突っ込みたいー!」


「てか坂尾さんってさ、違うクラスの男子と付き合ってるって噂なかったっけ?」


「え? マジ? それはちょっと意外……でもないか」


「ほら、ああいう子ってさ、地味にいろんな男子からモテたりするから」


「そそ。だから告白とかあり得ないって。

てなわけで、私は坂尾さんと放課後デートするから、あとはよろしくー」


「それ、ちょっと期待してるやつー」


「はーい、りょーかーい」


「放課後になったら、お邪魔虫な私たちはサッサと撤収いたしますよー」



 午後の授業が始まる少し前、チャイムの音よりも少し早く、由梨ちゃんは教室に戻ってきた。


 由梨ちゃんはこっちを一度だけ、ちらって見たあと、席に着く。


 由梨ちゃんは、ほんの少しだけ、頬を赤らめて、あの……天使のような、でもちょっぴり恥ずかしげな、はにかむような笑顔を向けてくれた♡


 完全にわたしの情緒を壊しにきた♡♡


 もう、頭も心もとろけちゃって、ふわふわって、空に浮かんでいっちゃって、身体の輪郭も曖昧になって、全部が夢みたいにふにゃふにゃになっていく♡


 身体の中心がぽかぽかして、でもその分、脳みそがどろどろに蕩けて、言葉も理性も感覚も、全部、甘く痺れて、上手く使えなくなっちゃう♡


 由梨ちゃん……♡ 

 可愛い……可愛い……♡ほんとに……♡

 ねえ、もっと見て……わたしを……見て……♡


 ぎゅぅって、胸が痛いのに、苦しいのに、それすらも幸せで……♡

 苦しささえ、幸福の証みたいに思えてくる♡♡


 わたしは教室の後ろの席で、由梨ちゃんの背中をぼんやりと見つめながら、ぐにゃぐにゃに蕩けた脳内で、思考を繰り返す。


 だって、私は知っている。


 ⸻由梨ちゃんには、彼氏がいる。


 休み時間、机にうつ伏せてスマホを覗きこみながら、にこにこしてるのを知っている

 嬉しそうに微笑むその顔を、ずっと、見てた。

 通知がこないときには、ちょっとだけ寂しそうな表情を浮かべて……その揺れを、わたしは何度も知っている。


 放課後になると、制服の襟を整えて、髪型を少し整えて、何度も時計を見ながら、そわそわ待ってるの、見てた。


 校門の向こうで、他のクラスの男と並んで歩いて行って、人目を避けるように、でも確かに⸻手を、繋いでるところ、見てしまった。


 だから⸻わたしが、由梨ちゃんに告白されるなんて、あり得ない。


 ……ないよね?


 ……ない、ないないない、そんなわけ、あるわけ、ないってば……!

 いや、ないよね? ホントに……? 絶対?  100%? いや120%? ……ないって信じてるよ!? たぶん!


 ……でも、でもでも、もしかして、ほんのちょっとでも……。

 ……いや、万が一どころか、億が一……兆が一……! ねぇ、もし、ほんのちょっとだけでも、由梨ちゃんの中に、私への“好き”があったとしたら……?


 ……うそ、うそでしょ、待って、そんなの、そんなの無理、私……無理無理無理っ……!!


 視界がふわふわしてて、耳の奥で心臓の音ばっかり鳴ってる♡

 頭の内側、ぐつぐつ煮詰まって、甘くて熱くて……もう、理性の蓋なんて、蒸気で吹き飛んじゃったみたい♡♡

 感情がぐらぐらして、心が蕩けて、もう、まともな言葉が出てこない。思考が……全部、由梨ちゃんに持ってかれてる♡


 胸が締めつけられて、息吸うのも怖くて、でもそれ以上に……幸せすぎて、細胞が全部震えてた♡


 ……うん、でも、好き……♡由梨ちゃん、好きっ……♡嬉しい……とっても……♡

 好き……好き……好き……♡壊れちゃうぐらい好きなの……♡

 ずるいよ、由梨ちゃん……♡

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