第18話 ※由梨視点 沙織ちゃんとのデートで天にも昇る気持ち♡
沙織ちゃんの可愛い攻撃に、私の頭はぐちゃぐちゃになってしまった♡
耳の奥で血の音がどくどく響いて、足元がふらつく。心臓が早鐘みたいに暴れて、胸の奥が熱で張り裂けそう。息を吸ってもすぐに苦しくなって、肩で呼吸をしてしまう♡
頬が灼けるみたいに赤くなって、指先はじんじん痺れて、体の中の全部が「無理、無理」って叫んでるのに、沙織ちゃんを見つめることはどうしてもやめられなかった♡
⸻壊れちゃう。こんなに全身が火照って、体温が私じゃないみたいになってるのに♡♡
ふざけてるのか、本気なのか。バカにされてるんじゃないかって不安が頭をよぎる。
だけど、沙織ちゃんの目は冗談を装いながらも真剣で、私の奥にまっすぐ届いてくる。信じたらきっとまた傷つくって分かってるのに、ほんの少し、信じてみたくなる自分がいる。
でもその瞬間、胸の奥から暗いものがせり上がってくる。
「どうせ信じても無駄だよ」って、弱い私が囁くみたいに。沙織ちゃんの言葉を胸にしまい込んでしまうのは、そのせいだ。
……そう、さっき痛感したばかりだった。
待ち合わせのカフェに着いて、沙織ちゃんの姿を見つけたとき。彼女が座っているだけで、店内の空気がふっと華やいで、周りの視線が集まっていた。
嫌な視線じゃない。むしろ羨望とか、憧れとか、興味を含んだ女の人たちの眼差し。
私服の沙織ちゃんは、大人っぽくて、綺麗で、まぶしくて。どこにいても目を引く存在で、私にはまるでテレビに映る女優さんにしか見えなかった。自分の子供っぽさが急に恥ずかしくなって、どうして隣に座るのが私なんだろうって思った。
でも席に着いて、目の前に彼女がいるだけで、それをすぐに忘れてしまった♡
嬉しい。ただ嬉しくて仕方がない。沙織ちゃんの存在が尊すぎて、彼女に向けられた羨望の眼差しが、少しだけ自分にも重なった気がして⸻誇らしさで胸が膨らんでいった♡♡
全身が興奮で震えてる。背筋がぞくぞくして、息をするたび喉が渇く。膝が勝手に震えて、握りしめた手のひらに汗が滲んで、落ち着きなんて一秒も保てない♡
こんなふうに、誰かの隣にいるだけで全身を支配されるなんて、沙織ちゃん以外は考えられない♡♡
ランチをしている間も、その感覚は変わらなかった♡
おしゃれなカフェのテーブルに向かい合って座っているのに、私は料理の味なんてほとんど分からなくなっていた♡♡
周囲の視線がふと集まるたび、胸がざわつく。けれどその中心にいる沙織ちゃんは、落ち着いていて、どんなときも余裕があって、やっぱりきれいで⸻そして私に向ける眼差しだけが、とても柔らかかった♡♡♡
「由梨ちゃんって、周りのことほんとよく見てるんだね。そういうところ、すごいと思う」
その一言に心臓が一瞬止まった気がした♡
周りを気にしすぎるのは、自分でも嫌になるくらいの性格なのに。足りない部分ばかりで、みんなみたいに自由に振る舞えなくて、苦しいだけの欠点だと思っていたのに♡♡
⸻沙織ちゃんがそう言ってくれるなら、この性格もそんなに悪くないのかもしれない。胸の奥がふっと軽くなって、呼吸が楽になっていくのを感じた♡♡♡
そしてあの言葉♡
『冗談じゃないよ。この“好き”に嘘はないから。今日こうして話して、もっと好きになった』
耳に届いた瞬間、世界がぱっと白く光ったみたいだった♡♡
熱いものが胸から込み上げてきて、思わず視線を落とした。頬が熱くて、テーブルの下で指先が小刻みに震えている♡♡♡
信じられない。でも、信じたい。信じてしまったらもう元には戻れないって分かっているのに、気分は天に昇るみたいに舞い上がってしまった♡♡♡
私は調子に乗って、つい直樹の愚痴ばかりを口にしてしまった。
学校の仲のいい友達には、恋愛の話を気軽にできる子が少なくて。特に男子との付き合いの話なんて、わざと避けてしまうようなところがあったのに。
でも沙織ちゃんは、黙って否定せずに耳を傾けてくれた。頷いたり、時々相槌を入れたり、ほんの少し笑ってみせたり⸻全部が「聞いてるよ」って伝わってきて、心の奥まで解けていく。
普通だったら嫉妬されるのが怖くて、とても自分の恋愛話なんて話せない。
けれど、彼女はあれだけたくさんの男子に告白されている。クラスの人気者や、サッカー部の次期エース、憧れの先輩だってアピールしてくるくらい。
沙織ちゃんは、小さな嫉妬なんて超えてしまっている人♡
私の愚痴すら楽しそうに聞いてくれて⸻そのことがただ、嬉しかった♡♡
あの時間の私は、ほんとうに幸福感しかなかった♡
視線を上げるたび、目の前にいるのが彼女だってことが、また胸に押し寄せてきて。心臓が痛いくらい高鳴るのに、それすらも甘美な痛みで、ずっと続けばいいとさえ思った♡♡
それが壊されたのは、お店を出てからのことだった。
手を繋いだ瞬間までは、本当に夢みたいに幸せだったのに。沙織ちゃんの指先が私の掌に重なったとき、心臓が跳ねて、胸がぎゅっと熱くなって。
思わず笑ってしまいそうになるくらい嬉しくて、どうして彼女が「ごめんね?」なんて小さく言ったのか、その意味すら分からなかった。
けれど数歩歩いただけで、すぐに気づいてしまった。
周囲の視線が、一斉に沙織ちゃんへと注がれていることに。
男も女も関係なかった。
ただ息を呑むように見惚れている人。
罪悪感を滲ませながら、それでも何度も盗み見る人。
スマホを手に持っていながら、操作を忘れて固まってしまう人。
隣に彼女がいても、視線を逸らせない人。
誰もが、彼女を追っていた。
その流れの中で私に向けられる視線なんて、まるで一瞬の通過点のように空気に溶けていく。
隣に立っているのに、存在の軽さを痛感させられる。沙織ちゃんと「女の子」としての差を、これ以上ないほどまざまざと見せつけられてしまった。
極めつけはナンパだった。
もちろん私だって、全く経験がないわけじゃない。でも、それはあくまで軽く声をかけられる程度で、避ける素振りを見せれば大抵は引いてくれる。未成年にしつこく絡む人なんて、そうそういない。
⸻けれど沙織ちゃんは違った。
周囲の男たちの欲望が、ことごとく彼女に向いているのが肌で分かる。
大人びた格好がその視線をさらに引き寄せて、皆が一斉に声をかけるタイミングを探っている。避けようとしても、別の方向からまた別の男が寄ってくる。
逃げ場なんてない。私はただ、強く手を握ってくれる沙織ちゃんに導かれるまま、前を見て歩くしかなかった。
でも、なぜか男たちは私の正面にばかり立ち塞がった。
「二人とも可愛いね」なんて言いながら。
でもそれは私に向けられた言葉じゃないと分かってしまう。私に向けて発されているのに、あまりにも軽く、ただ道を塞ぐための口実にしか聞こえなかった。
初めてだった。
やたらとしつこくつきまとわれたり、捨て台詞を吐かれたりするなんて。
「落とし物あるよ」なんて声をかけられたときには、恐怖しかなかった。ただ、沙織ちゃんがどう動くのか、何をしてくれるのか、そればかり気にしていた。心の底では走って逃げ出したかった。
その時、ようやく理解した。
⸻ああ、沙織ちゃんは、こんな世界に生きているんだ。
私が憧れていたきらめきの裏側には、こんなにも濁って、ねっとりとした暗さがうごめいていた。
ただの羨望の対象なんかじゃなくて、欲望の的になってしまう現実。
それが彼女の世界なのだと、初めて実感した。
それなのに沙織ちゃんは、何もなかったみたいに微笑んで、「大丈夫?」って私を気遣ってくれた。
慣れているから⸻なんて、強がって。
私を守ろうとしてくれるその姿が、痛いほどまぶしかった。
眩しすぎて、胸が苦しくなる。
ああ、やっぱり私と沙織ちゃんは違うんだ。見ている景色は同じでも、棲んでいる世界はまるで別物だ。
……ねえ、沙織ちゃん。
なんで、私なんかをそんなに褒めて、好きだって言ってくれるの?
私、弱いんだよ。あなたとは違う世界の人間なのに。
それでも。
私は⸻信じたいと思ってしまう。
沙織ちゃんの「好き」を。
「可愛い」って言葉を。
信じたい。信じたいのに。
……ねえ、沙織ちゃん。
貴女は一体、何を見てるの……?




