第17話 可愛いって言葉が溢れて止まらないの♡
ようやく目的の建物――駅ビルの入口に辿り着く。自動ドアの向こうからは冷房の涼しい風と、人のざわめきが流れてきて、少しだけ肩の力が抜けた。
ほんの少し歩いただけなのに、息が上がるほどの疲労感と、心臓を圧迫するような重たいストレスに体が沈んでいた。足元がじんわり重く、肺の奥がざらつくみたいに呼吸さえ苦しい。
精神を削られる感覚。男の性欲や加害欲に濡れた視線や声が皮膚の内側にまで染み込んで、擦れて赤くなるみたいに痛んでいた。
「……由梨ちゃん、なんかごめんね? 気悪くしてない?」
「ううん、ちょっとビックリしたけど、沙織ちゃんが悪いわけじゃないから。いつもこんななの?」
「そう。もう慣れっこだけどね」
「……そっか。沙織ちゃんも大変なんだ」
由梨ちゃんのその声は、そっと撫でられるみたいに優しくて、目が合った瞬間、慈悲の光を帯びた瞳に全身が溶けていった♡
胸の奥がふわりと緩んで、熱が広がっていく。
頬の内側からじんわりと痺れるような感覚が立ち上がって、指先にまでその余韻が染み渡る♡♡
まるで柔らかい布で全身を包み込まれているみたい。皮膚の表面をやさしく愛撫され、骨の髄まで「大丈夫だよ」と抱きしめられているようで、涙が滲みそうになる♡
ああ、これが由梨ちゃんの優しさなんだ……♡♡
胸の奥が温泉に沈むみたいにほどけていく♡♡♡
好き……♡好き……大好き♡……由梨ちゃん……♡
あぁ……優しさが……溶けて消えて……私の中に入ってくる……♡
気持ちいい……♡この世界、由梨ちゃんで満ちてる……♡
それに比べて、男と来たら。
全部が自分のため。
クソみたいな加害性と、女の子に相手にされなかった承認欲求を復讐心に変えて、性欲で発散しようとする浅ましさ。
ナンパなんて何の生産性もない行為で、やった数をスタンプラリーみたいに競い合う下劣さ。
無責任な軽薄さ、奪うことしか考えない傲慢さ⸻そういう全部が許せない。
「ふふっ、ありがと。由梨ちゃんがそう言ってくれるの嬉しいな。でも、今日はせっかくの二人でデートなんだもん。由梨ちゃんにはいっぱい楽しんで貰いたいなって」
「……で、デートだなんて」
由梨ちゃんはぱっと視線を落として、頬が桜色に染まる。指先が膝の上で所在なさげに動いて、肩が小さく揺れる。その一つ一つが可愛すぎて、触れずにはいられない♡
そっと頬に触れると、驚いたように目を瞬かせて、でも拒まない。まるで、触れられることを密かに待っていたみたいに⸻その温もりは、掌から心臓に直通するみたいに熱を運んできた♡
愛でたい。ひたすら愛でたい♡
由梨ちゃんのすべてを、両手で包み込んで守りたい。撫でて、抱きしめて、震える心ごと「大丈夫」って言ってあげたい♡♡
ただ優しくし合うだけじゃ足りない。私の方が守ってあげたいんだ。小さな肩も、揺れるまつ毛も、ぎゅっと抱き寄せて、世界から隠すみたいに覆ってしまいたい♡♡♡
ナンパに絡まれていた時、由梨ちゃんは本当は怖かったはずなのに、私の手を強く握り返してくれた。走って逃げる準備も、目で合図し合う準備もしてくれていたのを、私はちゃんと気づいてる♡
あの瞬間も私を信じてくれていた。その信頼が、胸をぎゅっと熱く締めつけてくる♡♡
⸻これで、少しは由梨ちゃんの中に入れたのかな。
もっと頼って欲しい。もっと心の奥に私を住まわせて欲しい。
けれど、胸の奥でざわめくのは嫉妬。
彼氏という居場所に由梨ちゃんを取られている悔しさ。爪を立てたくなるような胸の軋み。
心臓が速く打ちすぎて、息苦しい。体温が乱高下して、頬が熱くなり、視線が落ち着かない。これが嫉妬。どうしようもなく、ただの女の子になってしまう私。
「デートだよ。私はそう思ってる。由梨ちゃんにもっと自信持って貰って、いっぱい可愛いとこ見せて貰うためのデート」
「そんな……私、沙織ちゃんみたく可愛くないよ?」
喉の奥がじんと熱くなる。思わず握った手に力がこもって、指先が小さく震える♡
どうしてそんなことを言うの。ずっと私の目には、由梨ちゃんが世界で一番可愛いのに♡♡
胸の奥に溜めてきた気持ちが、堰を切ったみたいに溢れてくる。抑えられなくて、言葉が勝手に口を突いて出てしまう♡♡♡
「もうっ、そんなこと言わないの。由梨ちゃんは可愛い。髪が揺れるところも、すぐ照れちゃうところも、照れると唇を噛むところも、誰かを想わずにはいられないところも、ぜんぶ。ぎゅってハグしたい。可愛い、可愛い、可愛い、可愛い」
「ああっ、もう無理無理無理。その仕返し止めてよ」
由梨ちゃんが慌てて顔を赤くするのが、可愛すぎて胸が破裂しそう♡
両腕で抱きしめてしまいたくなる衝動に駆られて、足の先までむずむずと熱が走る♡♡
その姿を独り占めできるのは私だけなんだ、と思ったら、喜びと切なさが入り混じって、涙が出そうになる♡♡♡
「えー、だって由梨ちゃんが自分のこと可愛くないって言うんだもん」
「分かった。参りました。可愛いでいいから、もう。沙織ちゃんには敵いません」
「うーん、まだ納得してなさそうだけど。まあこれぐらいで許してあげましょう」
胸の奥がじんわりと熱くなり、普段はぎゅっと押し殺している「女の子は可愛い」という衝動を、もう我慢できずに吐き出してしまう♡
言葉が口をついて出るたび、胸に絡みついていた鎖がほどけていくようで、内側に澄んだ風が吹き抜ける♡♡
⸻ああ、気持ちいい♡
ずっと隠してきた想いを、ようやく声にできる喜び♡♡
心の奥で燻っていた炎が、一気に空へ解き放たれるように、眩しい光と熱が全身に駆け巡る♡♡♡
唇から「可愛い」が零れるたび、肺の奥の空気まで甘く震えて、体の隅々までが軽くなる♡
指先がじんじん熱を帯び、頬が勝手に緩んでしまう♡♡
この女の子を愛しく想う気持ちを全て、由梨ちゃんの自信のためという名目で思い切り発散出来る♡
私はいま、誰にも止められない。この気持ちを、隠さなくていい♡♡
幸せ。たまらなく幸せ♡
由梨ちゃんがそれを受け止めてくれるから、私はこんなにも自由になれる♡♡
ありがとう、ありがとう♡
由梨ちゃんが好き。好き、好き。好きでいっぱい♡♡
好きと叫ぶたび、私自身が生まれ変わっていくような爽快感に包まれる♡♡♡
好き……♡好き……♡好き……っ♡……由梨ちゃん……♡
好き……っ♡大好き♡好き……♡好き……っ♡
好き♡好き♡好き♡好き♡好き♡好き♡大好き……っ♡




