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Liebe (一部完)  作者:
4章 どうしてこうなった?

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15話A 謝罪

 あの事件から1週間がたった。もうすぐ夏休みに入る。


 教室の窓から見える空は、毎日少しずつ青さを増して、白い雲が、やけに眩しい。


 暑さがじわじわと体に染み込んでくる。朝から汗をかくのが当たり前になって、

制服のシャツが、背中に貼りつく。


 私は、いつも通り新聞配達を終えて、学校へ向かった。学校に着くと、廊下がもう夏の匂いをしていた。ワックスと、汗と、窓の外の熱。そしてセミの鳴き声が聞こえている。


今日は珍しく、この後が空いていた。

女子サッカー部の担当の先生が出張で、監督する人がいないらしい。

放課後、私は教室の窓際に残って、参考書を開いた。

ページをめくる音だけが、自分の周りだけ静かに聞こえる。

このまま家に帰っても同じだから、今日のぶんの予習と復習を、できるだけ学校で済ませることにした。


 上野君が廊下から顔を出した。

いつもの、部活で見る顔と違う。目が泳いでる。


「綿津見、ちょっと来てくれないか」


 私は参考書を閉じて、立ち上がった。椅子が床を擦る音が、妙に大きく感じた。


 クラスメイトたちの視線が、少し集まるのを感じた。上野君が今日学校に来てるのは、昼休みに栞の席のあたりから聞こえていた。それに、この教室に来なかったから、話題になったみたいだった。


 私は予習をしていたけど、隣の席の会話はさすがに耳に入る。集中してても、聞こえてくる。


 教室を出ると、廊下の空気がむわっとした。窓の外から、遠くで蝉が鳴いてる。


 サッカー部の部室へ向かう。校舎の端に近づくほど、人の気配が薄くなる。今日は部活がないから、余計に静かだ。階段を降りる時、手すりがぬるかった。外の熱が、建物の中まで染みていた。


 何の話だろう。あの間の続きをするつもりなのか。見当がつかなかった。


 男子サッカー部の部室の扉を開けると、中は空気が少し重くて、汗の匂いと、土の匂い、そして濡れたスパイクの匂いが、わずかに残っていた。


 中に入ると私たち二人きりだった。


 上野君は、私を見て、深く頭を下げた。その動きに私は、すごく驚いた。なぜ頭を下げたのか理由がないからだ。


「…あの時のこと、本当にごめん。俺、頭に血が上って、自分でも信じられないことした。綿津見、許してくれとは言わないけど、謝らせてくれ」


 上野君の声が、少し揺れてる。握った拳が白くなって、肩まで震えていた。


「気にしてない」


 私は、そのまま答えた。考えるより先に口が動いた。

性欲なんて誰でもある。だから仕方がない。自分を守れなかった私が悪い。


 大学生になったいとこでさえ、そういう行動に出たことがあった。思春期真っ盛りの高校生なら、なおさらだ。


 叔母に言われた言葉が、頭の奥から浮かぶ。


「そんな男を誘惑する身体が悪い。もう少し隠す服装にしないから襲われるんだ」


 息子が悪いんじゃない。私が誘惑したから。そう言われてるみたいだった。それを思い出す。


 私も上野君とのやり取りで何かがダメだったのだろうって思った。


 上野君の顔が、少し驚いたように上がった。目が大きくなって、息が止まったみたいになる。


「…本当か?」


「うん。仕方ないことだから気にはしていない。話はそれだけみたいだね。それじゃ」


 私は、それだけ言って、部室を出た。


 栞が、部室前にいたので少し驚いた。


「綾さん」


 栞の声が、少し緊張してる。いつもより小さくて、呼ぶのに覚悟がいるみたいな声だった。


「盗み聞きはよくないと思うよ。何か用?」


 栞は、私の顔をじっと見て、少し言葉を探すように、目が揺れていた。


「上野君と、何を話してたの?」


「謝罪」 私は栞にそれだけを答えた。そういえば、栞とも1週間ぶりぐらいに話したのかもしれない。



 栞は、少しだけ目を伏せた。まるで私がいじめているように見える。変な話だなぁ。


「…そう」


 私は、栞の顔を見た。かなり思いめている顔だとはた目からでもわかる。メイクである程度隠してはいるけど観察すればだれでもわかるレベルだった。多分私のせいなのは分かる。


「栞」


 私は、栞の名前を呼んだ。栞が、顔を上げた。まるで訴えるような目で私を見つめていた。


「なんで、毎日そんなに心配するの?」


 ただの赤の他人なのに、いつも見守るように見てくる。それが不思議で仕方がなかった。

幸いここには私達し回内から一回聞いてみた。


 栞は、少しだけ唇を噛んだ。噛んで、離して、また噛む。言葉を飲み込んでるのが見える。


「綾さんが、ひとりでいるのが、嫌だから」


 その一言が、まっすぐ刺さった。痛いというより、熱いまなざしで私を見る栞が今までの経験上で一番怖かった。



「そう、でも私にはどうでもいいから」


 口に出した瞬間、自分の声が無機質に感じた。


 栞は、軽く笑っていた。いびつの様な、それでいて(ゆが)んでいる笑顔。たぶん誰にも、お芝居でも見せないような顔だと思う。


「うん……わかってる」


 まるで、全てを見過ごしている言葉のように聞こえた。

私は、それ以上何も言わずに、栞の横を通り過ぎた。


 すれ違う瞬間、栞の体が少しだけ震えた気がした。


 栞は、黙って、私の背中を見送っていた。


 教室に戻って、鞄を肩にかけて家に帰支度をした。



 家に帰って、睡眠時間に私は、ベッドに横になった。


 天井が白い。白いのに、ぼんやり汚れて見える。自分の目が疲れてるだけかもしれない。


 栞の声が、頭に残ってる。


「綾さんが、ひとりでいるのが、嫌だから」


 なんで、そんなことを言うのかよくわからない


 私は、目を閉じた。

私の世界に、なぜか栞が入ってきている。

ふとした隙間に栞の事を考えていた。


 初めは、アパートの前で倒れていた不審者。

熱が出ているのに布団で眠そうとしない迷惑物

私が倒れたら、代わりにバイトをしてくれたお人好しな人

多分裏切らない人

でもそれは私が思っているだけ、多分栞は物珍しいだけだと思う。

私自身ほかの人と、違うことは理解してはいる。

それだけだった。


 それでも栞が触れる時間は私にはまぶしくて暖かい時間になっっている。

それが私には怖いのかもしれない。だから素直に受け取れずにどうしても冷たい態度をしてしまう。

これ以上私の心に入ってこないで、あなたは、いつかいなくなる人なんだから。


 なら、最初からいなかったことになったらよかったのに。


 私は、ガラでもないを考えてしまった。

私は一度頭を振って目をつむって明日に備えた。

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