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Liebe (一部完)  作者:
4章 どうしてこうなった?

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13話S 壊れそうな人

 最近、私は綾さんの部活帰りを、尾行するようになっていた。


 認めたくないけど、認めるしかない。上野君と綾さんが、昼休みにサッカーの話で盛り上がってるのを見るだけで、胸がざわざわして、痛くて、怖い。


綾さんが、少し笑う。あの無表情の顔が、ほんの少しだけ柔らかくなる。それを見るのが、嬉しくて、でも辛い。綾さんは、私以外の人と、こんなに楽しそうに話すんだ。


 私だけが、特別だと思ってたのに。あの雨の朝から、綾さんの部屋で過ごした時間から、綾さんの作ったご飯の味から、ぶかぶかの服の匂いから、すべてが、私の特別だったのにって思っていた。


だから、尾行するってもう意味不明だなぁって自分でも思ってしまう。


 部活が終わった後、綾さんがどんな顔で帰るのか、上野君と何か話すのか、知りたくて、知りたくなくて。毎日、影から見てる。


 毎日、影から見てる。綾さんが、グラウンドでボールを蹴ってる姿を、遠くから見てる。


 綾さんが、汗を拭いて、ユニフォームを脱ぐわけじゃないけど、少し乱れた髪を直す仕草を、見てる。


 嫉妬で、息が苦しい。もうこれ完全にストーカーだと思ってるけど、気になって仕方なかった。あぁ、ストーカーになるファンのこの気持ちがわかってしまった。こんな状況でわかるなんて、バカみたいだけど。


 部活が終わった後。上野君が、綾さんを呼び止めた。


「綿津見、ちょっと話がある。体育倉庫に来てくれないか」


 綾さんが、うなずいた。私は、心臓がどきどき打ちながら、後をついていった。嫉妬で、足が震える。何を話すんだろう。また、サッカーの話?それとも、告白?


 こんな場所でサッカーの話なんてない。昼食で部活で話し合ってるのを知っているから。なら告白かな。

今度は了承するのだろうか?綾さんの状況なら今度は了承するのかもしれない。趣味もあって、同じサッカー部の仲間を拒否する未来が見えなかった。


 体育倉庫の扉が、少し開いていたので覗いていた。


 中から、声が聞こえる。上野君が、告白して綾さんが拒否した。

私は少しだけ安心した瞬間だった。


 上野君が、綾さんの腕を掴んで、マットに押し倒した。私の視界が、真っ白になった。綾さんは抵抗しない。

汗で透けたユニフォームが、乱れて、上野君の体が、綾さんに覆い被さる。息が荒くて、熱い。綾さんの目が虚ろに開いたまま。綾さんはされるがままだった。


 あの、いつも無表情の顔が、深い諦めで染まってる。怖い。綾さんが、壊れそう。


 昔の記憶が、フラッシュバックした。高校1年の頃。。昔のマネージャーに枕営業を強要されたときに、「これが芸能界のルールだよ」って言われた。


 私は、物心つく前から、芸能界にいたけどそんなルールは知らない


 部屋に連れ込まれそうになったとき。私の今までいた場所は、そんな場所ではないって心の中で訴えてた。幼少の時笑顔だった共演の人、今まで一緒にいてくれたスタッフのやさしさ。すべてが嘘だったのかと思った。


 私は、そのマネージャーの腕を振りほどき部屋を出て、泣きながら、水無月社長に訴えた。

社長が、すぐに処理してくれた。あのマネージャーは、クビになった。


 あの時の恐怖が、今、甦るのを感じた。綾さんが、されるがまま。私と同じ目に、遭ってる。

ううん違った。綾さんは、抵抗すらしない。されるがまま。まるで、それが当然のように、いけにえのように受け入れてるように思えた。怖い。綾さんが、壊れそうに見えてしまった。


私は、夢中で飛び出した。


「上野君、何してるの!?」


 大声で叫んだ。上野君が、ハッとして体を起こした。顔が真っ青になって、私を見た。


「ご、ごめん……!」


 倉庫から逃げていった。私は、綾さんのところに駆け寄った。綾さんを強く抱きしめた。


「綾さん、大丈夫!? 怖かったよね……!」


涙が止まらなかった。綾さんが、静かに体を起こした。ユニフォームを直しながら、私を見る。私は、綾さんを離さずに、ただ、泣いた。だけど綾さんは普段と同じ顔をしていた。その無表情が、今までで一番、怖かった。綾さんの目が、虚ろに、私を見てる気がした。


「なんで……なんで抵抗しなかったの? されるがままなんて……」


 綾さんの声が、静かだった。


「腕力じゃ勝てないし……されるがままの方が楽だから」その言葉に、私の心が、砕け散りそうになった。

綾さんは、なんとなくすべてに諦めているのは知っていたけど、そんな言葉じゃ甘いと思った。これまで誰も、彼女を本気で守ってくれなかったんだ。


そうでなければこんな虚無な状態にならない。私も、守れなかったと思う。私がもう少し早く動けばよかったのかな。わからない。


 綾さんが、少し戸惑った顔で、私を見た。


「なんで、私じゃなく、あなたが泣くの?」


私は、答えられなかった。ただ、もっと強く、綾さんを抱きしめた。綾さんの体温が、伝わってくる。温かい。汗の匂いが、少し混じっている。


 私は、綾さんを、守りたいと思った。誰にも、触れさせたくない。私は多分この人に恋をしていると思う。でも、同時に、綾さんを、壊したいって思った。


 この絶望の世界を、私だけが、塗り替えてやる。彼女を、誰も触れられないように、私のものに。その思いが、胸の奥で、黒く、熱く、膨らんでいった。そんな独占欲のような黒い感情が生まれているのも自覚していた。


 多分綾さんのサッカーの世界に、亀裂が入ったと思った。私もあの時、私の世界に亀裂が入ったのも知ったのだから。私は大丈夫だったけど、噂レベルだったけど本当に枕営業があるのを知ったのだから。


 この亀裂は、私たちが埋めたいと思うし、救いたいと思った。


 倉庫の外で、風が吹いて、夕陽が、少しずつ沈んでいく。グラウンドの土の匂いが、混じっていた。

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