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Liebe (一部完)  作者:
4章 どうしてこうなった?

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12話S 教室の隣でお昼休憩の時に

 それは突然やってきた。サッカー部の上野君が、突然綾さんの前に座って、

いきなり男子部の実力を聞き始めた。私はいつものように、グループの女の子たちと談笑しながら弁当を食べていた。


 席で、みんなが輪になってお弁当を広げていた。話題は、昨日のネットで見た面白い動画とか、好きな男の子の話とか、どうでもいいことばかり。みんながキャッキャと笑ってる中、私は笑顔で相づちを打ちながら聞き流していた。


 しっかり聞いていたのは、綾さんと上野君の会話だった。昨日は私が仕事で学校を休んでいたけど、どうやら綾さんは男子サッカー部を手伝っていたみたい。


 上野君が、綾さんの弁当の卵焼きを食べていた。


「これ、おいしいな」って言っている声が、はっきり聞こえた。綾さんは「そう」ってだけ返しているけど、それでも、なんだか親しげで。すごく、うらやましい。


 こちらはこちらで、みんなが「この動画見た?」とか「この男の子可愛くない?」とか、盛り上がってるけど、正直、何がそんなに面白いのかわからない。一応、女子高生というのはこのようなものだと覚えておく。建前はこの空気感を知りたいがために、芸能学科ではなく、一般の学校に転入してきたのだから。


 笑顔で「見た見た! 超おかしいよね」って言ってるけど、頭の中は、綾さんと上野君のほうに飛んでいく。綾さんは、サッカーのことになると、本当に人が変わる。


 ここ数日で、はっきりわかった。無表情で淡々と話すいつもの綾さんが、目を少し輝かせて、熱く語ってる。上野君も、真剣に聞きながら、時々笑ったり、反論したり。なんか、うれしくない。卵焼きを分けてもらった上野君が、「ありがとう」って言ってるのが聞こえた。綾さんは特に何も言ってないけど、それでも、なんだか二人の間に、特別な空気が流れてる気がする。私があの卵焼きを作ってあげたら、綾さんはどんな顔するんだろう。

……って、なんでそんなこと考えてるんだろう。今の私は、変だ。


 また次の日も、上野君はやってきた。綾さんのパスは速すぎると言っていた。確かに素人の私が見てもすごく早かった。多分、次の動きを予測していないと取れないくらい。


 上野君が「男子でも厳しいパスだぞ」って言ってるのを聞いて、少しだけ誇らしかったけど、すぐに複雑な気持ちになった。綾さんがイメージしてる選手の名前が出てきた。朝倉翔太さんとか、登美健介さんとか、伊藤輝さんとか。長谷部結さんとか、レオン・メッサーさん、クリス・ロナウドさんとか。サッカーを知らない私でも、聞いたことのある名前ばかり。


 長谷部結さんや登美(とみ)健介さんは、この間仕事で少しお会いしたけど、すごくいい人だった。レオン・メッサーさんやクリス・ロナウドさんは、世界的な賞を取ってるスーパースターだよね。そりゃ、そういう超一流の選手と高校生を比べられたら、上野君が「そりゃ無理だわ」って言うのも分かる。


 でも、綾さんは楽しそう。上野君も、呆れながらも、どんどん引き込まれていく感じ。私も、サッカーやってればよかったかな。上野君が、羨ましい。それから、毎日だった。上野君は、昼休みになると綾さんの席に来て、

サッカーの話をするようになった。男子部の弱点、戦術の改善、相手チームの分析、将来の進路のことまで。話題が尽きないみたい。


 周囲も、気付き始めた。


「綿津見さんと上野君、付き合ってるの?」


「毎日一緒に弁当食べてるよね」


「なんか、お似合いかも」


「サッカーカップルって感じ?」


「上野君、綿津見さんに夢中だよ」


「綿津見さん、あんな顔もするんだ」


 そんな囁きが、教室のあちこちで聞こえてくる。最初は好奇心の視線だったけど、だんだん、女子たちの間で本気の噂になってる。二人とも、周囲の視線を全く気にしていない。


 熱くサッカーの話をしていて、綾さんが少し笑ったり、上野君が興奮して身振り手振りで説明したり。すごく、嬉しくない。イライラしてくる。弁当を食べる手が、止まる。グループの女の子たちに、笑顔で相づちを打ってるけど、頭の中は、綾さんと上野君の会話でいっぱい。綾さんが、誰かとこんなに楽しそうに話すの、初めて見た。私以外の人と。胸の奥が、ざわざわする。


 トゲが刺さってるみたいに、痛い。私だって、綾さんと話したいのに。サッカーの話なんてわからないけど、綾さんが楽しそうに話す顔、もっと見たいのに。


 でも、今の綾さんの隣には、上野君がいる。毎日、昼休みが来るのが、すごく嫌だった。


 私は、どうしたらいいんだろう。綾さんに、話しかけたい。でも、何を話せばいい?サッカーの話なんて、わからない。


 それに、上野君がいる前で、割り込むのも変だよね。ただ、見てるだけ。綾さんが、少しずつ笑う回数が増えてるのを見て、嬉しいはずなのに、なぜか、寂しい。私、綾さんのことが、どれだけ好きなんだろうってはっきりわかってしまった。


 このままじゃ、ダメだと思う。何かをしなきゃいけない。


 でも、何を?昼休みのチャイムが鳴って、上野君が立ち上がる。綾さんが、軽く手を振ってるのが見えた。私は、弁当箱を閉じて、席に座ったまま、ぼんやりと、二人を見つめていた。


 クラスメイトの一人が、私の肩を叩いた。


「栞ちゃん、どうしたの? なんか元気ないよ」


「え? あ、ううん、大丈夫だよ」笑顔で答えたけど、きちんと出来てたかな。

女優の仮面をしっかりできてる自信が今は出来なかった。


 今の私の心の中は、ぐちゃぐちゃだった。うぬぼれだったのかも。綾さんの心には少しだけ私がいると思ってた。でも今はサッカーと上野君に支配されてる気がする。


 夜は仕事があって久しぶりにNG連発をしてみんなに迷惑をかけてしまった。

しっかりしないといけない。

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