1話 日常は時として変化を伴う1
ピピピ……。スマホのアラームが鳴っていた。
画面を見れば、時刻は午前3時。
「……ん」
まだ重いまぶたを無理やりこじ開け、冷え切った部屋に体を引きずり出した。
アパートのドアを開けると、容赦ない夜の冷え込みに思わず首をすくめた。
向かいの配達所に着くと、山積みの新聞が私の到着を急かすように積まれていた。
一度だけ会釈をして、かじかんだ指先を動かし始める。
新聞の束を掴むたび、カサついた紙の縁が指の腹を撫で、ツンとしたインクの匂いが鼻の奥を突き抜けていった。
新聞紙を、そのまま自転車の荷台へ移し替えていく。
最後にゴムバンドをパチンと弾かせて、私は夜の中へと漕ぎ出した。
ひたすら指定されたポストへ新聞を滑り込ませる。
それが終われば高校へ行き、夕方からはファミレスやガソリンスタンドのバイトをハシゴした。
帰宅が深夜24時を超える日も結構あった。
その日は朝から、まるで世界を塗りつぶすような大雨だった。
「……今日は雨なんだね」
独り言を一つ呟いて、私はいつも通り新聞配達の仕事に向かった。
雨の日の配達は、指先がかじかんで、紙も重くなって、とにかく大変だ。
けれど、天気に文句を言ったところで雨が止むわけでもない。
私はただ、淡々と今日の分の仕事を終わらせた。
ようやくすべての配達を終えて、アパートに帰り着いた時のことだ。
自分の部屋へ続く階段の途中に、誰かが倒れているのを見つけた。
……さすがに、無視はできなかった。
まだ朝の6時にもなっていない、薄暗い静寂の中。
私はずぶ濡れのその少女を抱きかかえて、自分の部屋へと連れ帰った。
もし、ここで病院や警察に連絡していたら。
きっと、いつもの日常に「ちょっとしたアクシデント」が起きただけで終わっていただろう。
けれど、ほんの少しだけ選択を変えてしまった。
そのせいで、私のすべてがこんなにも変わってしまうなんて。
この時の私には……いや、この世界の誰にも、予想なんてできなかったはずだ。
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