10話A 告白
月曜日の早朝、自転車を漕ぎながら、街灯が消えていく空を見上げていた。
いつものように、早朝の冷たい空気が肌を刺してたけど配達は順調に終わった。
新聞配達のバイトを終えた私は、準備を終えて学校へ向かった。
昼食時間。
周りは友達同士で固まって話してるけど、私は一人で食べるのが当たり前でとっていた。
「綿津見、いる?」。
名前は忘れたけど、教室にいるから、男子クラスメイトだと思う。
最近、なぜか私を呼ぶ人が増えた気がする。なぜだろう?
「何?」
私は弁当を食べながら、顔を上げた。男子生徒は少しおどおどしながら、教室の入り口を指差した。
「綿津見を指名してる奴がいるから」
クラスが、一瞬ざわついた気がした。みんなの視線が私に集まるのがわかった。興味ないけど、呼ばれたからにはいかないとね。
「ありがと」
弁当を片付けて、教室を出る。廊下に出ると、男子生徒が立っていた。
背が高くて、スポーツマンっぽい。どこかで見た記憶はあるけど、クラスメイトじゃない。思い出せない。そこまで関わり持ってないってところか。
「誰?」
名前が思い出せないので、聞いてみた。男子は少し笑って、
「俺を知らないか~」
私はチラッと教室の中を見た。栞が席に座ってるのが見えた。同じこと言う人、いるんだ。この人も芸能人?いや、そんな話は聞いたことない。
「自称有名人のあなたは誰? 用ないなら戻るけど」
男子は少し慌てたように手を振った。
「いやいや、放課後、校舎裏に来てくれないか?」
「ここでは言えないこと?」
「ああ」
「わかった。放課後ね?」
何でここでは言えないのかわからないけど、呼ばれた以上、仕方ない。
「ありがとうな。俺、上野。よろしくな」
教室に戻ると、周りがヒソヒソ話してるのが聞こえた。聞きたいことがあるのなら気直接聞いてくればいいのに?
上野、上野…。記憶にはないけど、やはり記憶の片隅にはうっすらと、どこかで見た気はする。
授業が終わり、放課後。教室を出ようとしたら、隣の席の栞が話しかけてきた。
「綿津見さん、元気?」
栞は少し緊張したような顔で立っていた。
「栞か。何か用? あの時はありがとう」
なぜかそれだけ言うと、周囲がざわついた。私が話すのが悪いのか?それとも栞が私に話しかけてくるかなのか?どちらだろう?
栞は少し目を丸くして、「名前、覚えてくれたんだ。ありがとう」お礼を言ってきた。
さすがに命の恩人の名前を忘れるほど私は、薄情じゃないと思うんだけど。
「今の、サッカー部主将の上野君だよね」
「そっか。どこかで会ったと思ったのは、サッカー部でか」
栞、よく知ってるよね。私より詳しいんじゃない?これで心の靄が解けたからよかったと思う。
「サッカーの話だったの?」
「サッカー部っていうのは、栞に教えてもらった。どこかで会った記憶はあったんだけどね。おかげですっきりしたよ。何の用かは知らないよ。話はそれだけ?」
「うん、ありがとう」栞は少し寂しそうな顔で、席に戻った。
珍しい。教室で話しかけてくることも、他人行儀なところも。
そういえば、二人きり以外では、いつもこんな感じだったっけ?栞との会話が終わり、私は校舎裏に向かった。校舎裏は、人気がない。上野君は、もう待っていた。周りに、なんとなく人が隠れてる気配がする。後ろからついてきて、あそこに栞が隠れてるのがわかった。
栞は何をしてるのかな。相変わらず変な子だ
「待たせたね」
「いや、放課後だから終わる時間みんな一緒だろ。掃除の時間で前後するくらいじゃないか」
「そうかもしれない。ところで、用って何? 私、上野君に恨み買うことしたっけ? したんなら謝るね」
上野君は少し笑った。
「そこは、噂どおりなんだな?」
「噂?」
最近、栞と絡むことがあったから、私に関する噂が出たのかな。
「あ~、噂なんて気にするな」
気にしても仕方ないので気にはしない。用があれば、直接言ってほしい。
「もしよかったら、俺の彼女になってくれないか?」
突然だったので驚いてしまった。
「やめたほうがいい。幻滅すると思うから」
「それ決めるの俺だろ。お前が決める必要ねぇじゃん」
上野君は少し目を丸くしながらそう言ってきた。
「そう?どこがよかったの? やっぱり顔?」
自分の容姿が整ってることは、理解してる。でなければ2年前のあんなことが起きるはずないから。
「あ~顔ねぇ、それもあるけれど」
「つい先日、俺たち男子サッカー部と試合したときのこと覚えてるか?」
「あの引き分けの試合?」
私にとっては負け試合。もう少し何とかしたら、勝てたはず。
「あぁ、まぁ俺は怪我で参加できなかったんだけど、外から見てたんだよ」
「あの試合は、私もびっくりした。男子と女子が試合するなんて知らなかったから」
「人数が少ないから、仕方ないのさ」
確か男子サッカー部は22人もいなかった気がする。確か今年はもっといたのだったっけ?去年の春先の地区大会でベスト4まで行って多少有名になった記憶が。
あぁ思い出した。上野君ってあの大会で一人だけレベルが違う子がいた。それがこの上野君だ。彼の活躍もありサッカー部の部員が増えたらしい。
「そう?」
「それで、その試合のラスト10分の綿津見のキラキラに惚れた」
「悔しさじゃなくて?」
3-0から引き分けなら、普通悔しがるはず。
「だって俺出てねぇもん。あいつらの練習不足」
「ごめん、付き合う、付き合わないはよくわからないし、拒否ってことで」
私には、付き合うとかがよくわからない。そもそも友達もいないけれど、もしいたとしても。友達と遊びに行くことと彼氏と遊びに行くことの違いが、どうしても理解できないのだ。
脳内で、その二つの言葉を天秤にかけてみる。一緒に行動する、会話をする、時間を共有する。そこまでは同じだ。
もしそこに明確な違いがあるとすれば、それはもう、肉体的な接触。SEXをするかしないか、それだけじゃないのかな。
そこまで思考を巡らせて、私は一つ呼吸を置いた。やはり、興味がない。目の前の彼が、何を期待して私に声をかけたのか。その期待という概念そのものが、私の中には欠落している。
西日がさらに深く差し込み、私の影が廊下の端まで伸びていく。私は、返事を待たずに歩き出した。 彼が後ろでどんな顔をしているのか、それを確かめようという気には、どうしてもなれなかった。
「それって嫌いってわけじゃないんだろ」
「よく知らない人を好き嫌いで判断しない」
「ならこれから知っていけばいいじゃん」
「そんな暇ないから」
上野君は少し黙って、「そっか。何回も言って断られたらしつこいよな」
「ん?」私は首を傾げたら、上野君の顔が真っ赤になった。なぜだろう。今の段取りで赤くなることはあるのだろうか?
「え、えっとならさ、サッカーの練習相手ならどう? 綿津見、練習相手もてあましてるだろ」
「ん~それなら」
「よし決まりな! 時間取らせて悪かったな、綿津見?」
「綾でいいよ。なら今度ね。私、今からバイトがあるから」
「そっか」
私は帰ろうと歩き出すと、突然ボールが転がってきた。反射的に、両足で前後から挟み込み、かかとで蹴り上げて背中から頭上を越させる。膝の上でリフティングして、ボールを掴んだ。
ボールが転がってきた方向から、拍手が聞こえた。
「凄い、どうやったの?」声のする方を見ると、栞が立っていた。
「あぁ、栞か。普通にヒールリフトしてリフティングしただけだよ」
「上手い人がやると、自在にボールが動くんだね」
「まぁ、リフティングはともかく、ヒールリフトは練習が必要だからね」
栞は少し考えて、「サッカー好き?」と聞いてきた
「ん? 好きじゃないならやらないって」
「サッカーやってる人が好きなの?」
「あぁ、先ほどの話ね。聞き耳立ててたから結果は知ってるでしょ。彼とは練習仲間になるのかな?」
「ふ~ん、そう。じゃあね」
栞は手を振って、そそくさと帰っていった。
何が聞きたかったのだろう。意味が解らなかった。
私も、バイトのために準備をしないと。
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