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Liebe  作者:
3章 土曜日

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8話S 待ち人は来ず

 待ちに待った土曜日が来た。

朝から、少し胸がざわついていた。綾さん、どんな姿で来るのかな。

 きっと、いつも通りに、腰までかかる銀髪を無造作に流して、無表情でベンチに座ってるんだろうな。

赤い瞳がぼんやりと遠くを眺めて、誰にも興味なさげに。

想像しただけで、なぜか口元が緩む。

私、こんなに誰かを待つのが楽しみだなんて、久しぶりだ。

でも、朝方になって事態は急変した。


 スマホが振動して、グループチャットを開くと、突然のメッセージがあった。

「集合場所変更でお願いします! みんなの近くの駅を確認したところ、○○駅前が良いみたいだから、その駅の広場にします! みんな了解~?」

 

 電車通学の人は確か定期券持ってるのに変な話だよね。

送信者は、クラスでいつも仕切りたがりのあの子だね。

私は慌てて「了解!」ってスタンプを押したけど、すぐにチャットメンバー一覧を見た。

そこに、「綿津見綾」って名前がちゃんと入ってる。

うんうんきちんと入ってるので安心した。


 綾さんが来るはずののが楽しみで、集合時間より30分早く着いてしまった。

タクシーで来るんじゃなかったかもって思った。

自転車とかまだ購入してないから、距離があるとタクシーを呼んでしまう。


 広場は土曜日の朝らしく、家族連れやカップルで少し賑わってる。

ベンチや噴水の周りをぐるっと見回すけど、銀髪の長い女の子は来てないかった。


 集合時間の10分前には、綾さんを抜かして全員集まった。

みんな可愛い服着てきて、メイクもバッチリ決めてきている。

私も今日は少し気合入れて、軽いワンピースにしたんだけど、心の中は少し落ち着かない。

10時になったけど綾さんだけがまだ来てなかった。


 時計を何度も確認する。

もしかして、嫌になったのかな?

そんなはずはないと確信はしてる。

熱が出てまでアルバイトの仕事に行こうとしたあの人が、連絡もなしにドタキャンするなんてありえない。


「綿津見さん、来ないね」


「ドタキャンじゃない?」


「そうかも。最初来ないって言ってたし」


「せっかく栞ちゃんが誘ってもらってるのに感じ悪い」


 少しだけムッとしたけど、連絡なしでこのような状況だから私も何も言えなかった。

私からもグルチャの綾さん宛てにDMを送ったけど連絡はなかった。

既読もついていない。これでは私は動けようもない。

家は知ってるけど、家まで見に行ってもいいなんて言えないしね。


 それでも私のわがままで、三十分だけ待ってもらった。

けれど、やっぱり綾さんは来なかった。

これ以上みんなを待たせるのも悪い。

私は心の中の不安を、女優としての笑顔で塗りつぶした。


「……行こうか」


 目的地だったはずのケーキバイキングは、なぜか急に人数が8人になったし、最初の予定通りカラオケにしようという話になった。


 昨日教室で聞き耳下から知ってるけど、露骨だよなぁ

こうなると作為も感じられるけど、わからないよね


 カラオケの狭い室内。マイクを握るみんなは、私の顔色ばかりを伺っている。

隙あれば私の懐に入ろうとしているのが、透けて見えていた。

なんか新人の子とか、売り出し中の子が使うようなことばかりしてくるのが少しうざく感じた。

誰も聞いていない自分の売り込み話。私のことばかりを聞きたがる下卑た好奇心。


 最初に言ったはずなのに、芸能人としてじゃなく、霧生栞としてみてって。

やっぱり、無理なのかな。普通は無理だよね。

芸能人ってだけで、普通の友達を作るのって難しいんだ。


 綾さんは違った。

私の仕事を知らないときも、知ったあとでも、態度が全く変わらない。

無表情で、無興味で、話しかけても短い返事しかしないのに。それが、すごく心地いい。

無理に取り入ろうとしない。ただ、そこにいるだけ。

それが、珍しくて、心地よくて、もっと知りたくなる。 


 みんなに悟られないように、笑って、歌って、手拍子して、完璧に盛り上げ役をこなした。

人気の曲をデュエットしたり、面白いモノマネしたり。

外からは楽しそうな部屋に聞こえてるはず。


 でも、綾さんのことが気になっていた。

どうして来なかったんだろう……。チャットに名前入ってるのに。

約束、忘れたってことはないって確信はある。 それなら、何かあったのかな?

不安が、じわじわと広がっていた。

あ~あ。それにしてもうまいと評判の綾さんの歌、聞きたかったなぁ¥~。

あの無表情で、でも意外と感情を込めて歌う姿、想像するだけで面白いのに。


 話の内容も、なんだか一方通行だった。

みんな、私の話ばかり聞いてくる。

ドラマの撮影エピソード、共演者の面白い話、芸能界の裏側。

私は適当に答えるけど、向こうは自分のことしか売り込んでこない。


 八時間。私は完璧なみんなが望む霧生栞を演じきった。

一応これで義理は果たしたはずだよね。


「ごめんねみんな、そろそろ帰らないと。明日の準備があるから」


「え~、まだ早いよ! もう一曲!」


「ごめんね、台詞覚えないといけないし」

 

「台詞合わせ、手伝いたい! 一緒に練習しようよ」


「ネタバレしたらダメだから~」


「栞ちゃんを困らせたらダメだよ」って誰かがフォローしてくれて。


「今日はありがと~」


「私も久しぶりに同年代の子と遊べて楽しかったよ。ありがと」


「こちらこそ~」


 みんなとハグしたり、手を振ったり、写真撮ったりして別れた。

駅に向かうけど、来た道をそのまま帰る気にはなれなかった。

 


 散歩がてら、元の待ち合わせ場所の駅まで歩いていくことにした。

夏の夕方、風が少し涼しくて、街灯が灯り始めてる。

人通りも減って、静かだった。

 

私は、タクシーで帰らなかった。

なぜか吸い寄せられるように、隣の駅まで歩いていった。

もしかしたら。もしも、あそこにまだ、待ってるかもって、待ち合わせからもう8時間以上もたってるのに、そんな馬鹿げた考えを打ち消した。


 でも私は、なぜか早歩きで最初の公園へ向かった。

駅の入り口には、街灯に照らされてた。

昼間は多分にぎやかになるんだろうな。


 私は、最初の待ち合わせの公園で、見覚えのある人物を見つけた。

その瞬間地面に力なく倒れ込んでいる。


「綾さんっ!!」


頭が真っ白になった。

自分の叫び声が、夜の静寂を切り裂くのがわかった。

今年最後の「Liebe」をお楽しみいただけましたか?


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皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!


今年はありがとう。

来年も皆さんがいい年になりますように。

よいお年を過ごしてね

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