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Liebe  作者:
3章 土曜日

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7話A 反撃のフィールド

 放課後のグラウンド。私は部室で着替えを済ませ、少し湿った土の匂いが漂うピッチへと向かった。

今日は男女合同のサッカー、二十分ハーフの練習試合が行われる。

部員が少ないためによくある光景だった。


 ストレッチをしながらキャプテンの話を聞く。 「今まで全敗だけど、今日こそは一矢報いたい」

彼女の言葉には切実な響きがあった。

どうやら全部完敗らしい。それは仕方ない。

男子と女子のフィジカルの差があって、女子のプロチームでも男子中学生に負けるって話は聞いたことがある。

最近男子の一部に、プレーを装ってわざと身体をぶつけてくるような、セクハラまがいの動きをする奴がいるのを聞いた。


 前半戦、私は先生の配慮でベンチだったけれど、ピッチ上の光景は想像以上に露骨だった。


 「うまく裁ききれなかった」なんて、向こうはヘラヘラ笑いながら言い訳をしている。

けれど、それが嘘だというのは見ていれば分かる。

証拠がないのをいいことに、彼らはサッカーという競技を、自分たちの下劣な欲望の道具にしていた。


 前半が終わって、それでも遊ばれながらスコアは三対〇だった。

勝ち誇った顔で引き上げてくる男子たちを見て、私の胸に静かな怒りが灯った。

私は先生のもとへ歩み寄り、頭を下げた。


「先生、後半から出させてください」

少しの間があったけれど、私の必死さが伝わったのか、先生は頷いてくれた。


 交代することになった子が、泣きそうな顔でピッチを去ろうとしている。

普段ならそんなことはしないはずなのに、私は気づけば彼女の頭を撫で、その肩を優しく叩いていた。

彼女は驚いたように目を見開いたけれど、すぐに泣き顔を笑顔に変えようと踏ん張って、私の目を見た。


「綿津見さん、お願い」


 後半戦のホイッスルが鳴る直前、私は前日に栞から言われた言葉を思い出していた。

自分の意見はちゃんと言わなきゃいけない。それを、プレーで実践してみるつもりだった。


「私が人差し指を出すから、少しだけダッシュして受け取って」

私はチームメンバーにそうつ立てた。  


 後半戦が始まると、チームの動きはまだ鈍かったけれど、私の合図にはしっかりと応えてくれた。

私がパスを出し、そのままリターンを受ける。

届いたボールは想定より少し後ろだったけれど、止まっている暇はない。

トラップした瞬間に二人のディフェンダーが立ちはだかる。

私はスピードを落とさず、足の外側でボールを押し出し、同じ足の内側で逆側へ切り返した。

よしエラシコ成功した。まず一人。

二人目が力任せに私の身体を狙って突っ込んできたけれど、私はその勢いを利用して背中から一回転するようにかわし、抜き去った。


 全くセクハラするなら、もっと技術を磨けばいいのに。

バレないようにやれば、誰も傷つかなくて済むのに


 怒りを込めて放ったパスは、スピードが速すぎて味方の誰にも届かなかった。

けれど、チャンスは残り時間10分切った時に、巡ってきた。

相手が女子の胸に触れようと出した手が、ボールに当たった。

露骨なハンドの反則。

ゴールまでの距離は約三十メートル。


「私に蹴らせてもらっても、いいですか?」


 私が自分から志願すると、キャプテンは驚きながらも「できるの?」と聞いてきた。

私は静かに首を縦に振った。


 ゴールまでの距離は約三十メートル。プロでも壁を超えるのが精一杯な、あまりに遠い距離。

私は、ボールの空気入れの穴を手前に向けて置き直し、ゆっくりと距離を取って助走をつけた。

インパクトの瞬間、振り抜く足を振り切らず、ボールの中心を押し出すようにミートする。


 放たれたボールは、一切の回転を拒絶したまま、空中で不気味に静止しているかのように見えた。

誰もがゴールを大きく外れると思ったその瞬間。

ボールは、生き物のように左右に激しく揺れながら、ボールが急激に落下した。

相手キーパーは反応すらできなく、ただ呆然と立ち尽くす彼の真横をすり抜け、ボールは魔法のようにゴールの隅へと吸い込まれていった。


 イメージ通りの無回転シュートができた。

届いてよかったと思う。  

これで一対三。あと三点取って、逆転してやる。


 試合は加速していった。

残り五分、キーパーの子がパンチングで凌いだボールが、味方選手のパスが通り、ハーフラインで待っていた私まで繋がった。

みんなが必死にボールを繋いでくれる。

私はそのボールをしっかりと受け取ると、そのまま敵陣へと独走した。

キーパーがコースを防ごうと慌てて前に出てくる。

私は、急ストップをかけ、ボールの下を叩いてふわりと浮かせた。

キーパーが必死にジャンプして手を伸ばしたけれど、ボールはその指先を軽々と越えていき、そのままゴールネットに吸い込まれた。


 いつの間にか周囲には観客が増えていた。

チームメイトも私を祝福しに近寄ってきたけど、「まだ負けてるから、最後まで頑張ろう」と言って定位置に戻る。

私はキャプテンに「ボールを取ったらロングパスを」と頼み込んだ。


 私には四人のマークがついていた。

私は少し姑息かなと思いつつ、しゃがみ込んで靴紐を結び直すフリをした。

キャプテンがボールを奪い、こちらを向いた瞬間、私は全速力で駆け出す。

飛んでくるボールの軌道を予測し、高くジャンプ。胸でトラップして後ろに逸らすと同時に、着地して相手を抜き去った。

横から滑り込んでくる相手の足を、ボールを浮かしてかわし、そのまま足を振り抜く。


 ボールは一度クロスバーを叩き、真上に戻ってきた。

私はその場で見事なバク宙を見せ、空中でボールに足を叩きつける。

背中から地面に落ちた私の視界の先で、ネットが再び揺れていた。


 その瞬間試合終了の笛が鳴った。

チームメイトが駆け寄り、キャプテンが差し伸べてくれた手を掴んで立ち上がった。

あと一点取れなかったか残念だと思う。

反省会が終わると、はしゃぐみんなを後に、私は一人で校舎を後にした。


「綿津見さん」


 後ろから呼び止められて振り返ると、そこには栞が立っていた。


「なに?」


「すごい活躍だったね」


「ありがと」


 帰り道が同じだというので、私たちは並んで歩き始めた。


「私と一緒に帰って、大丈夫なの?」


「んー、私は大丈夫だけど、綾さんの方がやばいかもね」


「ならいい」

私がそう言うと、栞は少し笑った。


「二人抜いた技のこと、この間言っていたやつでしょ」


「……見てたんだ」


「丁度ね」


「ふーん」

なんだか、少しだけ嬉しくなった。


「なんで私に構うの?」

ふと気になって尋ねると、栞はさらりと言ってのけた。


「好きだから?」


「!!」


「そんなに照れないでよ」


「……別に、照れてない」


「ふーん?」


 顔が熱くなるのを感じて、私は逃げるように自分の家の方向を指差した。


「私、こっちだから」


「気をつけてね。ばいばーい」


一人になると、また周囲からの視線を強く感じたけれど、もうどうでもよかった。

私はそのまま、夕暮れの道を家へと急いだ。 

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