6話A お誘い…決意と、波乱の予感
転入してから四日間、栞は一度も学校に来なかった。
彼女が姿を見せたのは、金曜日の四限目が終わった頃だった。
「こんにちは~」
教室の扉が開いて、栞が明るい声とともに飛び込んできた。
……なんでこっちに来るんだろう。一瞬そう思ったけど、すぐに気づいた。
当然だ。栞の席は私の隣なのだから。
「栞ちゃん、久しぶり~! 大丈夫だった?」
「うん、ありがとう。どうしても今の仕事が、学校に来る前に決まってたスケジュールでさ、休めなくて」
「お疲れ様~」
クラスメイトたちが自然に栞の周りに集まって、声をかけている。
どう見ても、友達同士の会話だ。
これで友達ではないっていうんだからおかしなものだ。
「でも、この仕事が終わったらちゃんと学校に来れると思うよ」
「栞ちゃん、そんなに学校好きだったんだ~」
「それもあるけど……明日の約束もあるしね。まだ誰も何も聞いてないでしょ?」
「あ、覚えててくれたんだ! 嬉しい~」
数 人の女子たちがキャッキャと笑いながら、楽しげに話は続く。
「土曜日って、どんな予定なの?」
「もちろん! 一日オフだよ」
すると、栞が急にこちらを振り返った。
「そうだ、綿津見さん」
突然名前を呼ばれて、私は少し身構えてしまった。
「……何?」
私に何の用だろう。思いつく用事がなかった。
「もう一度、お誘いしていい? 用事がなければ、明日一緒に来ないかな?」
私は一瞬、言葉に詰まった。
「返事は……今すぐじゃなきゃダメかな?」
無意識に、そんなことを口にしてしまった。
私は何を聞いてるのだろう。
そんな用紙を見た栞は、少し目を丸くしてから、小さく笑った。
「そうだね。みんなのこともあるし、今日の放課後くらいまでなら待つよ」
「……わかった。それまでに返事する」
私は少し戸惑ったけど、何とかそれだけは答えれた。
「いい返事が聞けるといいな」
「期待はしないで」
私はそれだけ短く返して、教室を出た。
なんとなく、空気が重くて居づらかった。
栞の笑顔と、クラスメイトたちの楽しげな声が、背中に絡みつくように残った感じを受けながら。屋上に向かった。
柵にもたれかかって空を見上げた。
……断れば、一番楽だよね。
それでこの話はきれいに終わる。
栞との妙な距離も、教室の雰囲気もいつも通りになるはず。
なのに、なぜか胸の奥がざわつく。
どうして、こんなに戸惑ってるんだろう。よく、分からない。
今週のスケジュールは、頭にしっかり入っている。
土曜日は、たまたま休みだった。
本当はバイトを入れようと思っていたのに、バイトの店長達にに「たまには土日ちゃんと休みなさいよ」って言われた。
なぜか相談したかのようにみんなそう言ってきたので、渋々休みを取った。
休みを取ってもやることは、学校の予習と復習。
そしてアパートの裏庭でサッカーの自主練ぐらいしかやることがなかった。
……あれだけしつこく誘われたのに、断るのも面倒かもしれない。
仕方ない。行くだけ行って、隅っこで静かにしてればいい。
みんなでカラオケに行く、って話だったっけ?。
確か、そんなことを言ってた。
私は、そんな結論を出して、教室に戻った。
でも、栞の周りには相変わらずクラスメイトが集まっていて、近づきづらい雰囲気だった。
……後でいいか。結局、授業がすべて終わった瞬間、私は隣の栞の方へ体を向けた。
「霧生さん」
彼女がこちらを見上げた。
「返事、遅くなった。……明日、お世話になるよ」
それだけ言って、すぐに続ける。
「待ち合わせと何時だけ教えて?」
栞の顔がぱっと明るくなった。場所と時間を聞いて、私はそれ以上何も言わずに鞄を肩にかけた。
クラスメイトたちの視線が少し刺さるのを感じながら、そのまま教室を出た。
帰り道、自転車のペダルを漕ぎながら、また少し後悔が湧いてくる。
……本当に、行って大丈夫かな。本当に空気が悪くなったら用事があるって言って帰ればいい。
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