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悪の秘密結社の中間管理職 鷲尾の憂鬱  作者: 双鶴


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9/13

9話

 月曜の夕方、八雲中央公園のベンチにて、鷲尾慎一郎(52)は、アニマル戦隊の司令官・キャプテンわんと向かい合っていた。

 左右大帝の理念再定義から一夜。わんだにゃー側も、組織内で議論が起きていたという。


「副司令、うちのメンバーが言い出したんだ。“非対称って、ただの反抗じゃないよね”って」


「……反抗ではない。表現だ」


「そう。で、改めて考えた。“非対称の哲学”って何だろうって」


 キャプテンわんは、紙袋から左右非対称な帽子を取り出した。

 片耳が長く、もう片方が短い。色も左右で違う。


「これ、うちの新人が作った。“不安定な自分をそのまま出したい”って」


「……それは、秩序の外にある安心かもしれんな」


「副司令、あなたの言葉、うちのメンバーにも響いてる。“秩序とは、誰かの安心に寄り添う形”って」


 鷲尾は、静かに頷いた。


「秩序と非対称は、対立ではない。構造と動きのように、共存できる」


「じゃあ、うちの“非対称の哲学”は、“揺らぎの中に自分を見つける”ってことでいい?」


「……それは、成熟という名の自由だ」


 そのとき、公園の一角で、子どもたちが“左右非対称な鬼ごっこ”を始めていた。

 鬼は右手だけでタッチ、逃げる側は左足だけで走る。ルールは混沌、だが楽しげだった。


「副司令、あれ、うちのメンバーが考えたんです。“ルールをズラすと、笑いが生まれる”って」


「……笑いは、秩序の隙間に生まれるものだ」


 キャプテンわんは、帽子を鷲尾に差し出した。


「これ、よかったら。うちの“非対称の証”です」


 鷲尾は、しばらく見つめてから、静かに受け取った。


「……ありがとう。だが、私は副司令だ。秩序の象徴であるべき立場だ」


「でも、現場では“象徴”より“共感”が求められてるんじゃない?」


 沈黙。

 鷲尾は、帽子を膝に置きながら言った。


「……ならば、秩序の中に非対称を織り込む。それが、現場の副司令の役割かもしれんな」


 その夜、シンメトリー本部にて、鷲尾は報告書を提出した。


「非対称の哲学:揺らぎの中に自己を見つける。秩序と共存可能」

「提案:現場活動において、非対称的表現を一部許容する」


 左右大帝は、報告書を読みながら、静かに言った。


「……副司令。貴様、最近詩人のようだな」


「理念とは、言葉の形を持つものです」


「よかろう。“秩序の中の揺らぎ”、暫定的に認める」


 空は、左右対称ではなかった。

 だが、帽子の片耳は、誰かの不安に寄り添っていた。


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