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悪の秘密結社の中間管理職 鷲尾の憂鬱  作者: 双鶴


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8話

 日曜の朝、シンメトリー本部の会議室に、異例の招集がかかった。

 総帥・左右大帝さゆうたいていが、幹部全員を前にして“理念の再定義”を議題に挙げたのだ。


「副司令・鷲尾。貴様の現場報告により、我が理念に揺らぎが生じている。説明せよ」


 鷲尾慎一郎(52)は、静かに立ち上がった。

 手には、八雲での活動記録と市民の声をまとめた報告書。


「現場では、“完全な左右対称”が必ずしも安心を生むとは限りません。むしろ、“整えすぎ”が不安を招くこともあります」


「秩序とは、完全性だ。妥協は混沌だ」


「では、総帥。この報告をご覧ください」


 鷲尾は、報告書の一部を読み上げた。


「副司令さんの踊り、きれいだった。でも、ちょっとだけズレてる方が楽しい」

「左右対称のカレー、見た目は落ち着くけど、味に変化があるともっと嬉しい」

「秩序って、誰かの気持ちに寄り添うことだと思う」


 左右大帝は、眉をひそめた。


「……市民の声など、理念に影響を与えるものではない」


「ですが、我々の目的は“世界征服”ではなく、“世界秩序の確立”です。秩序とは、誰かの安心に寄り添う形。理念は、現場に適応すべきです」


 沈黙。

 幹部たちは、左右大帝の反応を固唾を飲んで見守っていた。


 そのとき、戦闘員No.22が手を挙げた。


「総帥。私も、八雲の盆踊りで感じました。秩序って、押しつけじゃなくて、調和なんだって」


 続いて、No.37も言った。


「副司令の言葉で、活動が楽しくなりました。理念が“生きてる”って感じました」


 左右大帝は、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

 そして、静かに言った。


「……理念とは、揺らいではならぬものだと思っていた。だが、揺らぎの中にこそ、秩序の核があるのかもしれんな」


 鷲尾は、深く頭を下げた。


「総帥の理念は、我々の礎です。ですが、礎は“支える”ものであり、“縛る”ものではありません」


 その言葉に、左右大帝は頷いた。


「よかろう。本日より、我が理念を再定義する」


「秩序とは、誰かの安心に寄り添う形」

「左右対称は、手段であり、目的ではない」

「世界征服は、世界調和への道である」


 幹部たちは、拍手を送った。

 鷲尾は、静かにマントの襟を整えた。


 その夜、シンメトリー本部の公式サイトが更新された。

 トップページには、左右大帝の新たな言葉が掲げられていた。


「秩序とは、誰かの不安に寄り添う形。整えることは、支配ではなく共感である」


 空は、左右対称ではなかった。

 だが、理念の中心には、揺らぎと共感が刻まれていた。


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