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悪の秘密結社の中間管理職 鷲尾の憂鬱  作者: 双鶴


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7/13

7話

 土曜の夕方、八雲駅前の喫茶店「カフェ・パラレル」にて、鷲尾慎一郎(52)は待ち合わせをしていた。

 約20年ぶりの再会。相手は、かつて正義組織「ジャスティス・フレーム」に所属していた同僚――風間誠(53)。


「……変わらないな、鷲尾。昔と同じ顔してる」


「そちらこそ。正義の人間は老けないのか?」


「いや、最近は“正義疲れ”って言葉もある。現場は混乱してるよ」


 風間は、今もジャスティス・フレームの現場指導官として活動している。

 だが、最近は“正義の定義”が揺らぎ、組織内でも路線対立が起きているという。


「で、今は“悪の副司令”か。どうだ、世界征服は順調か?」


「……八雲の盆踊りを左右対称に整えたところだ」


「それ、世界征服なのか?」


「理念的には、そうらしい」


 風間は、コーヒーを一口飲んでから言った。


「昔、お前が言ってたよな。“正義とは、誰かの不安に寄り添うこと”って」


「……ああ。今は、“秩序とは、誰かの不安を減らすこと”と言っている」


「似てるな」


「違うとも言える」


 沈黙が流れる。

 店内では、子どもたちが“対称カレー”の話をしていた。


「副司令って、悪の人なのに、なんか優しいよね」

「うちの冷蔵庫、左右対称にしてくれた!」


 風間は、笑った。


「お前、正義よりも“整えること”に向いてたんじゃないか?」


「……かもしれんな。だが、整えるには、混沌を知っていなければならない」


「それ、正義の人間にも言えるよ」


 風間は、鞄から一冊のノートを取り出した。


「これ、うちの新人研修で使ってる。“正義の再定義”ってテーマで、現場の声を集めてる。お前の言葉、引用してもいいか?」


「副司令の言葉を、正義の研修に?」


「今の若い隊員たち、“正義って何?”って悩んでる。お前の言葉、響くと思う」


 鷲尾は、しばらく黙ってから言った。


「……なら、“秩序とは、誰かの安心に寄り添う形”と書いてくれ」


「了解。副司令、いや――鷲尾としての言葉だな」


 その夜、風間はジャスティス・フレーム本部に戻り、ノートにその言葉を書き記した。

 一方、鷲尾は八雲の公園を歩きながら、戦闘員たちの活動を見守っていた。


「副司令、今日の踊り、ちょっと非対称でした」


「……それも、現場の声だ。整えすぎると、誰かの自由が失われる」


「じゃあ、少しだけズレててもいいですか?」


「“少しだけズレる”ことが、成熟かもしれんな」


 空は、左右対称ではなかった。

 だが、鷲尾の言葉は、正義のノートに左右対称に記された。


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