7話
土曜の夕方、八雲駅前の喫茶店「カフェ・パラレル」にて、鷲尾慎一郎(52)は待ち合わせをしていた。
約20年ぶりの再会。相手は、かつて正義組織「ジャスティス・フレーム」に所属していた同僚――風間誠(53)。
「……変わらないな、鷲尾。昔と同じ顔してる」
「そちらこそ。正義の人間は老けないのか?」
「いや、最近は“正義疲れ”って言葉もある。現場は混乱してるよ」
風間は、今もジャスティス・フレームの現場指導官として活動している。
だが、最近は“正義の定義”が揺らぎ、組織内でも路線対立が起きているという。
「で、今は“悪の副司令”か。どうだ、世界征服は順調か?」
「……八雲の盆踊りを左右対称に整えたところだ」
「それ、世界征服なのか?」
「理念的には、そうらしい」
風間は、コーヒーを一口飲んでから言った。
「昔、お前が言ってたよな。“正義とは、誰かの不安に寄り添うこと”って」
「……ああ。今は、“秩序とは、誰かの不安を減らすこと”と言っている」
「似てるな」
「違うとも言える」
沈黙が流れる。
店内では、子どもたちが“対称カレー”の話をしていた。
「副司令って、悪の人なのに、なんか優しいよね」
「うちの冷蔵庫、左右対称にしてくれた!」
風間は、笑った。
「お前、正義よりも“整えること”に向いてたんじゃないか?」
「……かもしれんな。だが、整えるには、混沌を知っていなければならない」
「それ、正義の人間にも言えるよ」
風間は、鞄から一冊のノートを取り出した。
「これ、うちの新人研修で使ってる。“正義の再定義”ってテーマで、現場の声を集めてる。お前の言葉、引用してもいいか?」
「副司令の言葉を、正義の研修に?」
「今の若い隊員たち、“正義って何?”って悩んでる。お前の言葉、響くと思う」
鷲尾は、しばらく黙ってから言った。
「……なら、“秩序とは、誰かの安心に寄り添う形”と書いてくれ」
「了解。副司令、いや――鷲尾としての言葉だな」
その夜、風間はジャスティス・フレーム本部に戻り、ノートにその言葉を書き記した。
一方、鷲尾は八雲の公園を歩きながら、戦闘員たちの活動を見守っていた。
「副司令、今日の踊り、ちょっと非対称でした」
「……それも、現場の声だ。整えすぎると、誰かの自由が失われる」
「じゃあ、少しだけズレててもいいですか?」
「“少しだけズレる”ことが、成熟かもしれんな」
空は、左右対称ではなかった。
だが、鷲尾の言葉は、正義のノートに左右対称に記された。




