6話
金曜の午後、八雲中央公園に黒塗りの車が到着した。
降り立ったのは、悪の秘密結社シンメトリーの総帥――左右大帝。
左右対称のマントを翻し、左右均等に分けられた髪型で、周囲を睥睨する。
「鷲尾。報告を受けて来た。貴様の現場は、秩序が崩壊していると聞いた」
副司令・鷲尾慎一郎(52)は、胃薬を握りしめながら頭を下げた。
「……現場には、現場の秩序があります。理念と実態の調整を行っております」
「調整など不要だ。秩序とは、完全なる左右対称。妥協は混沌の始まりだ」
そのとき、公園の一角で、子どもたちが“半対称盆踊り”を踊っていた。
右手は伝統的な振り付け、左手は自由な動き。
それを見た左右大帝の眉がぴくりと動いた。
「……あれは何だ。秩序の冒涜か?」
「いえ、“秩序と個性の共存”です。住民たちの提案で、踊りに変化を加えました」
「住民の提案など、秩序に不要!」
その声に、近くにいた主婦が振り向いた。
「でも、子どもたち、すごく楽しそうですよ? 副司令さん、ちゃんと話を聞いてくれて」
左右大帝は、主婦を見下ろすように言った。
「楽しさは秩序ではない。整然とした美こそが、世界を救う」
その言葉に、鷲尾が一歩前に出た。
「総帥。秩序とは、誰かの不安を減らすことです。時に、柔軟さが秩序を守ることもある」
「貴様、理念を捨てる気か?」
「いえ、理念を“現場に適応させる”のです」
沈黙。
左右大帝は、公園の踊りをしばらく見つめたあと、静かに言った。
「……踊りの輪が、左右対称に広がっている。だが、動きは非対称だ。これは……」
「“構造の秩序、動きの自由”です。副司令として、提案した新モデルです」
左右大帝は、しばらく黙ったあと、マントを翻して言った。
「……よかろう。暫定的に認める。だが、理念の軸は揺るがすな」
「承知しました」
その夜、シンメトリー本部に新たな通達が出された。
「現場秩序モデル:構造対称・動作柔軟型」
「副司令鷲尾、現場適応権限を一部付与」
戦闘員たちは、歓声を上げた。
「副司令、ついに認められましたね!」
「これで、左右対称カレーにトッピング自由が加えられます!」
鷲尾は、静かに笑った。
「秩序とは、押しつけではない。誰かの安心に寄り添う形だ」
空は、左右対称ではなかった。
だが、公園の踊りの輪は、見事に左右対称に広がっていた。




