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悪の秘密結社の中間管理職 鷲尾の憂鬱  作者: 双鶴


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5話

 木曜の朝、鷲尾慎一郎(52)は、八雲町内会の盆踊り実行委員会に出席していた。

 左右大帝からの命令は、いつも通り唐突だった。


「鷲尾。次は“左右対称な盆踊り”を企画せよ。踊りも屋台も、すべて対称に整えろ」


 鷲尾は、胃薬を飲みながら、町内会長の前で頭を下げた。


「……というわけで、“秩序と調和”をテーマにした盆踊りを提案させていただきたく」


 町内会長は、眉間にしわを寄せた。


「秩序はいいけど、踊りって“流れ”があるから、左右対称って難しいんじゃない?」


「そこで、“鏡踊り”を導入します。中央に鏡を設置し、左右の踊り手が互いに対称になるよう振り付けを……」


「鏡……? それ、夜の屋外でどうやって……?」


「LED照明で縁取りを……」


「予算は?」


「……シンメトリー本部から、たぶん出ます」


 その場にいた町内の主婦がぽつりとつぶやいた。


「でも、屋台はどうするの? 焼きそばとたこ焼き、左右に並べるの?」


「ええ。さらに、メニュー表も左右対称に配置し、価格も“対称割”を導入します」


「対称割?」


「焼きそば400円、たこ焼き400円。どちらかが値上げされたら、もう片方も同額に」


「それ、ただの値上げでは……?」


 鷲尾は、静かに資料を差し出した。


「“価格の均衡は、心の均衡”。これは、我々の理念です」


 町内会は、半ば呆れながらも、なぜか了承した。

 こうして、“左右対称盆踊り”の準備が始まった。


 踊りの振り付けは、戦闘員No.22が担当した。


「副司令、右手を上げたら左手も同時に上げる。回転は左右交互。足運びは完全対称です」


「よし。振り付け名は“秩序の舞”とする」


 屋台の配置は、戦闘員No.37が担当。


「副司令、焼きそばとたこ焼きの屋台を中央から左右対称に並べました。綿菓子とラムネも対称です」


「よし。混乱のない導線が、秩序を生む」


 その夜、盆踊りが始まった。

 中央に設置された鏡の前で、踊り手たちが“秩序の舞”を披露する。

 観客は、最初は戸惑いながらも、徐々にその美しさに引き込まれていった。


「なんか……見てて落ち着く」

「左右対称って、こんなに気持ちいいんだ」

「でも、ちょっとだけ自由に動きたいかも」


 そのとき、アニマル戦隊わんだにゃーが現れた。

 キャプテンわんが、マイクを握って叫ぶ。


「秩序もいいけど、個性も忘れないで! 非対称ステップ、解禁します!」


 わんだにゃーのメンバーが、左右非対称な踊りを始める。

 観客の一部がそちらに流れ始める。


 鷲尾は、マイクを握った。


「秩序は、個性を否定するものではない。だが、秩序の中に個性を織り込むことは可能だ」


 その言葉に、キャプテンわんが言った。


「じゃあ、混ぜてみようよ。“対称ステップ”と“非対称ステップ”を交互に」


 鷲尾は、静かに頷いた。


「……それが、成熟という名の踊りかもしれんな」


 その夜、八雲中央公園では、“秩序と自由の盆踊り”が繰り広げられた。

 踊りは左右対称と非対称が交互に現れ、屋台の配置は整然としながらも、メニューには“気まぐれ割”が導入された。


「副司令、今日の踊り、楽しかったです」


「……そうか。なら、世界征服は少し延期してもいいかもしれんな」


 空は、左右対称ではなかった。

 だが、踊りの輪の中には、秩序と個性が共存していた。


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