3話
火曜の昼下がり、目黒区八雲中央公園にて、アニマル戦隊わんだにゃーによる“非対称カレー配布イベント”が開催されていた。
テントの配置は斜め、看板は片側だけに設置、カレーの盛り付けは「ルー多め・ライス少なめ」「ライス中央・ルー両端」など、完全なる非対称。
「副司令! あれは秩序への挑戦です!」
戦闘員No.22が、双眼鏡を覗きながら叫んだ。
鷲尾慎一郎(52)は、静かに頷いた。
「……カレーは、皿の中心にライス、その左右に均等なルー。それが基本だ」
「副司令、出動しますか?」
「出動だ。対称カレーを持て」
こうして、シンメトリー側も急遽“対称カレー配布作戦”を開始した。
公園の反対側にテントを設置し、皿の中心にライス、その左右に均等なルーを盛り付けた“秩序カレー”を配布する。
「副司令、盛り付け完了です。左右誤差0.3ミリ以内です」
「よし、配布開始」
市民たちは、両陣営のカレーを見比べながら、戸惑い気味に並び始めた。
「こっちはルーが片側だけで、なんか自由な感じ」
「こっちは左右ぴったりで、見た目が落ち着く」
「味は……どっちも普通に美味しい」
そのとき、アニマル戦隊の“ミスにゃー”がマイクを握った。
「みなさん、非対称カレーは“個性”です! 盛り付けにルールなんていらない!」
鷲尾は、対抗してマイクを取った。
「秩序は、安心を生む。対称性は、心を整える。カレーにも、それは宿る」
観客の反応は、半々だった。
だが、ある小学生が手を挙げて言った。
「副司令のカレー、見た目はきれいだけど、ちょっとつまんないです」
鷲尾は、言葉に詰まった。
その隣で、別の子どもが言った。
「でも、ミスにゃーのカレーは、ルーが偏ってて、食べにくかった」
公園の空気が、少しずつ変わっていく。
市民たちは、両方のカレーを食べ比べながら、意見を交わし始めた。
「見た目は対称、味は非対称がいいかも」
「ルーの濃さを左右で変えるのはどう?」
「副司令、左右非対称なスパイスってありますか?」
鷲尾は、戦闘員に耳打ちした。
「……スパイスの粒度を左右で変えることは可能か?」
「可能です。右側を粗挽き、左側を細挽きにすれば、味覚の左右差が出ます」
「よし、“対称構造・非対称味覚カレー”を試作せよ」
その日、シンメトリーは新たなカレーを開発した。
見た目は完全に左右対称。だが、味覚は左右で異なる。
右側はスパイシー、左側はマイルド。食べるごとに“秩序と変化”が交互に訪れる。
市民たちは驚き、そして笑った。
「副司令、これ……美味しいです。なんか、楽しいです」
「……そうか。秩序の中に、変化を織り込む。それが、成熟かもしれんな」
その夜、左右大帝から通信が入った。
「鷲尾。カレーで世界征服は進んでいるか?」
「ええ。“対称構造・非対称味覚”という新たな秩序を提示できました」
「ふむ……それは、理念的には合格だ。よかろう。次は“左右対称な盆踊り”を企画せよ」
通信が切れる。
鷲尾は、胃薬を飲みながらつぶやいた。
「……踊りまで対称にするのか……」
空は、左右対称ではなかった。
だが、カレーの皿の上には、秩序と自由が共存していた。




