↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の秘密結社の中間管理職 鷲尾の憂鬱  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/13

3話

 火曜の昼下がり、目黒区八雲中央公園にて、アニマル戦隊わんだにゃーによる“非対称カレー配布イベント”が開催されていた。

 テントの配置は斜め、看板は片側だけに設置、カレーの盛り付けは「ルー多め・ライス少なめ」「ライス中央・ルー両端」など、完全なる非対称。


「副司令! あれは秩序への挑戦です!」


 戦闘員No.22が、双眼鏡を覗きながら叫んだ。

 鷲尾慎一郎(52)は、静かに頷いた。


「……カレーは、皿の中心にライス、その左右に均等なルー。それが基本だ」


「副司令、出動しますか?」


「出動だ。対称カレーを持て」


 こうして、シンメトリー側も急遽“対称カレー配布作戦”を開始した。

 公園の反対側にテントを設置し、皿の中心にライス、その左右に均等なルーを盛り付けた“秩序カレー”を配布する。


「副司令、盛り付け完了です。左右誤差0.3ミリ以内です」


「よし、配布開始」


 市民たちは、両陣営のカレーを見比べながら、戸惑い気味に並び始めた。


「こっちはルーが片側だけで、なんか自由な感じ」

「こっちは左右ぴったりで、見た目が落ち着く」

「味は……どっちも普通に美味しい」


 そのとき、アニマル戦隊の“ミスにゃー”がマイクを握った。


「みなさん、非対称カレーは“個性”です! 盛り付けにルールなんていらない!」


 鷲尾は、対抗してマイクを取った。


「秩序は、安心を生む。対称性は、心を整える。カレーにも、それは宿る」


 観客の反応は、半々だった。

 だが、ある小学生が手を挙げて言った。


「副司令のカレー、見た目はきれいだけど、ちょっとつまんないです」


 鷲尾は、言葉に詰まった。

 その隣で、別の子どもが言った。


「でも、ミスにゃーのカレーは、ルーが偏ってて、食べにくかった」


 公園の空気が、少しずつ変わっていく。

 市民たちは、両方のカレーを食べ比べながら、意見を交わし始めた。


「見た目は対称、味は非対称がいいかも」

「ルーの濃さを左右で変えるのはどう?」

「副司令、左右非対称なスパイスってありますか?」


 鷲尾は、戦闘員に耳打ちした。


「……スパイスの粒度を左右で変えることは可能か?」


「可能です。右側を粗挽き、左側を細挽きにすれば、味覚の左右差が出ます」


「よし、“対称構造・非対称味覚カレー”を試作せよ」


 その日、シンメトリーは新たなカレーを開発した。

 見た目は完全に左右対称。だが、味覚は左右で異なる。

 右側はスパイシー、左側はマイルド。食べるごとに“秩序と変化”が交互に訪れる。


 市民たちは驚き、そして笑った。


「副司令、これ……美味しいです。なんか、楽しいです」


「……そうか。秩序の中に、変化を織り込む。それが、成熟かもしれんな」


 その夜、左右大帝から通信が入った。


「鷲尾。カレーで世界征服は進んでいるか?」


「ええ。“対称構造・非対称味覚”という新たな秩序を提示できました」


「ふむ……それは、理念的には合格だ。よかろう。次は“左右対称な盆踊り”を企画せよ」


 通信が切れる。

 鷲尾は、胃薬を飲みながらつぶやいた。


「……踊りまで対称にするのか……」


 空は、左右対称ではなかった。

 だが、カレーの皿の上には、秩序と自由が共存していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。