13話
金曜の朝、鷲尾慎一郎(52)は、シンメトリー本部からの辞令を受け取った。
内容は簡潔だった。
「副司令・鷲尾、来週より本部戦略室へ異動。現場統括を一時離任せよ」
理由は、“理念再定義の成果を戦略に活かすため”。
鷲尾は、静かにマントを畳み、八雲支部の戦闘員たちに告げた。
「……来週から、私は本部勤務となる。八雲の現場は、君たちに託す」
戦闘員たちは、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
「副司令、急すぎます」
「八雲の秩序、まだ整いきってません」
「住民との関係も、ようやく築けてきたのに……」
鷲尾は、静かに微笑んだ。
「だからこそ、君たちが続けるべきだ。秩序は、誰か一人のものではない」
その午後、八雲第三小学校では“左右対称お別れ会”が開かれた。
児童たちは、左右均等に並んだ机の上に、手紙と折り紙を置いた。
「副司令さん、ありがとう。冷蔵庫、今も左右対称です」
「おにぎり、ちょっとズレてるけど、美味しかったです」
「また来てください。今度は非対称カレーも一緒に!」
鷲尾は、一人ひとりに頭を下げながら、手紙を受け取った。
その中に、一枚だけ“左右非対称な折り紙”が混ざっていた。
片側だけ色が違う、少し歪んだ鶴。
「……これは?」
児童が答えた。
「副司令さんは、ちょっとズレてる方が優しいから」
その言葉に、鷲尾はしばらく黙ってから、静かに鶴を胸ポケットにしまった。
夕方、八雲中央公園では、戦闘員たちが“左右対称送別式”を準備していた。
ベンチは均等に並び、花壇は整えられ、スピーカーは左右対称に設置された。
「副司令、最後に何か言葉を」
鷲尾は、マイクを握った。
「秩序とは、誰かの安心に寄り添う形。私は、それを八雲で学んだ。理念は、現場で育つ。そして、現場は、君たちの手で守られるべきだ」
拍手が起きた。
その中に、アニマル戦隊のキャプテンわんの姿もあった。
「副司令、また“非対称フェス”で会いましょう」
「……そのときは、“秩序ブース”を出すとしよう」
空は、左右対称ではなかった。
だが、副司令の背中は、左右均等に光を受けていた。




