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悪の秘密結社の中間管理職 鷲尾の憂鬱  作者: 双鶴


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10/13

10話

 火曜の午後、鷲尾慎一郎(52)は、八雲第三小学校の家庭科室で“左右対称おにぎり講座”の講師をしていた。

 戦闘員No.22が米を炊き、No.37が海苔を切り揃え、鷲尾は児童たちに「左右均等な握り方」を指導していた。


「副司令、海苔がちょっとズレました」


「……それも、現場の味だ」


 児童たちは笑いながら、左右非対称なおにぎりを量産していた。

 その様子を見ていた校長が、ぽつりとつぶやいた。


「副司令さん、最近“世界征服”って言わなくなりましたね」


「……ああ。現場が忙しくて、忘れていた」


「忘れるんですか、世界征服」


「忘れるほど、現場が豊かなら、それも秩序かもしれません」


 その夜、シンメトリー本部から通信が入った。


「鷲尾。世界征服の進捗はどうだ?」


 左右大帝の声だった。

 鷲尾は、少しだけ沈黙してから答えた。


「……八雲第三小学校にて、左右対称おにぎりの普及が進んでおります」


「それは、世界征服か?」


「理念的には、そうです」


「理念的には、か……」


 左右大帝は、しばらく黙ったあと、通信を切った。


 翌日、鷲尾は町内会の“非対称花壇整備”に参加していた。

 花の色を左右で揃えるか、あえてズラすか――住民たちと議論しながら、鷲尾はスコップを握っていた。


「副司令、こっちの花、ちょっとだけズラしてもいいですか?」


「……それが、誰かの安心につながるなら、許容する」


「副司令、最近“悪の人”って感じしないですね」


「……それも、現場の副司令の宿命かもしれんな」


 その夜、戦闘員たちが集まって話し合った。


「副司令、世界征服って、今どうなってるんですか?」


「……進行中だ。だが、定義が変わった」


「定義?」


「世界征服とは、“世界の不安を左右対称に整えること”だった。今は、“世界の不安に寄り添う形を探すこと”になった」


「それって、征服じゃなくて、共存じゃないですか?」


「……そうかもしれんな。だが、共存の中にも秩序はある」


 空は、左右対称ではなかった。

 だが、副司令の一日は、誰かの安心に寄り添っていた。


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