掌編小説『霊媒師vsゴーストシャーク』
掲載日:2025/10/12
「よーい、──アクション!!」
景気良く打ち鳴らされたカチンコを合図に、俺は転がるように走り出した。
後ろを振り返りながら逃げる演技。山間の小径を駆け抜ける。
追いかけてくるのは──サメのバルーンだ。あとでCGを使った立派なサメになるらしい。
落ち葉や木の根に足を取られながらも、目指すは決戦の地。
俺が抜擢された映画は『霊媒師vsゴーストシャーク』。
──サメが内陸に出現ってどういうことだ?
深く考えるのはやめよう。俺は演技に集中するだけだ。
満足そうな監督がカチンコを構え、叫ぶ。
「オッケー!格闘シーン行こうか。──アクション!」
小道具の角材を握り、打ち込む!標的はもちろんサメのバルーン。
──霊媒師なのに物理攻撃。しかもゴーストに効くのか?
いや、考えるまい。無心で角材を振り下ろす。
しかし尾びれで痛撃を受け、地面に倒れた。起き上がれない。
「カット!いいね!」
監督は満足そうだった。
膝に手をつき、息を整える。山間の腐葉土の香りと、初冬の冷たい空気が心地いい。
さて、俺の最後のカットだ。
「エセ霊媒師が喰われるシーン行くぞー。──アクション!」
序盤で喰われるモブ役。せいぜい全力で演じきるだけだ。




