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――俺はその日、いい感じの彼女との梅田デートをどうするか考えていた。
高校の時は成績はまあ、中の上くらい。別に悪くはない。けれど、周りの友達はそうでもなくて、大学が始まって何人かはすでに「消えて」いた。まだ大学に入ったばかりだったので、この日は一人で帰り道を歩いていた。
ふと、見覚えのある後ろ姿が目に入った。三浦くんだ。小走りで追いつき、後ろから声をかける。
ひさしぶりの会話は、なんてことのない世間話だった。今では内容もほとんど思い出せない。
ただ、一つだけはっきり覚えている。
「なあ、今週の土曜に彼女とデートなんだけど。ちょっとおしゃれな髪型にしたいんだよ。どこかいいところない?」
ウソってほどじゃないだってもうすぐ俺の彼女になるから。ちょっと優越感を感じたかった。
「……Awaかな」
意外だった。オシャレに興味がなさそうな三浦から、思いがけず店の名前が出てきたのだ。
「どこにあるん?」
「いや、場所はよくわからない。ただ、外観がおしゃれで目を引くんだ。歩いていれば見つかる」
なんとも要領を得ない答え。けれど、三浦くんの最寄り駅の近くにあるらしい。Google Mapで検索しても出てこない。隠れ家的な理髪店らしい。
――ほんとかよ。
そのときは半信半疑だった。
それでも、翌日は全休だった。暇つぶしがてら、一度その店を探してみることにした。だって暇だし。
駅の周辺をぷらぷらと散策していたら、意外にもあっけなく見つかった。小さな理髪店だった。
看板には、白い文字で《Awa》とある。
たしかに、どこか隠れ家的で品のある雰囲気を漂わせている。だが――正直、思っていたほど特別ではない。ただの店に見えた。
「……いつもの美容室に行くか」
そう思って駅に戻ろうとした、そのときだった。
店のドアが開き、一人の男性が姿を現した。
――陽向さんだ。
思わず足が止まる。昨日は見かけなかったが、知り合いの顔だ。けれど、その印象はまるで別人だった。
目がくっきりと際立ち、栗毛がかった髪がふんわりと整えられている。彼本来の優しい顔立ちを引き立て、どこか映画のワンシーンのように洗練されていた。
何より――その姿に、視線が釘付けになった。
陽向さんはこちらに気づかず、軽やかな足取りで歩き去っていく。
(……先輩の陽向さんが、こんなにかっこよくなるなんて)
胸の奥でざわつくような衝撃。
すごい店だ――そう思わざるを得なかった。
俺は、すでに“変わった後の自分”を思い描きながら、無意識にドアへと手を伸ばしていた。
カラン……。




