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目を覚ますと、手のひらの傷にはきちんと手当がされていた。

「いつもうちに帰ってくるのはいいけど、玄関で倒れるのやめてよね!」

 キッチンから妹の声が飛んでくる。あきらめ半分、心配半分といった響きだ。


 最近、妹の部屋には男物の小物が増えている気がする。歯ブラシ、靴下、クローゼットに見慣れない服……。彼氏の影がちらついて、想像するだけで嫌になる。けれど仕方ない。妹はできる子だ。誰かのものになるのは惜しいけれど、誰のものにもならないのは、それはそれで悲しい。そう思うと、認めざるを得ない。


「ごめんな、彼氏が来にくくなってるよな」

 テレビの前に料理を並べていた妹の手が止まる。

「なに言ってんの。うちに来てる男の人なんて、お兄ちゃんだけだよ」

 僕は目を丸くし、ハンガーにかかっている記憶にない服を指さした。

「じゃあ、あの服は?」

「お兄ちゃんが破いて帰ってくるから、近くで買ってきたの」

 ふむ。そういう言い訳か。……まあ、そういうことにしておこう。


 そういえば、最近は自分の家より妹の家にばかり帰っている。あの奇妙な世界に、ほぼ毎日のように招待されるせいで。自分の家ではもう、まともな生活ができないからだろう。だから、つい妹に甘えてしまう。


 思い返せば、妹は小さいころから僕に“期待”していた。いや、むしろ“期待を押し付けていた”と言っていい。幼稚園の頃、妹が友達にこう言ってしまったのだ。

「お兄ちゃんはサッカーがうまいんだよ」


 もちろん、僕は一度もやったことがなかった。球技はからっきし苦手だ。思えば原因ははっきりしている。僕たち三兄妹の一番上の兄、スポーツ万能で学力も優秀な完璧超人。広島の大学に通っていたが、帰省のたびに妹の目に焼きつくような「すごいこと」をやってのけた。その頃、妹にとって自慢できる兄は彼だった。けれど日常的に身近にいるのは僕。だから妹が友達に自慢するときには、いない完璧兄の代役を僕が務める羽目になる。……勘弁してほしい。


 それでも妹は「できると思うし」「お願い」と、半ば強引に僕を練習へと駆り立てた。血が同じだからって、僕にも同じ能力があるはず、なんて思わないでほしい。仕方なくサッカークラブに入って、死ぬほど練習した。妹の計算はズレていて「二週間後に見せるから」と猶予をくれたけれど、二週間で上達するわけがない。……まあ、何とか見栄えする技を披露して、その場は切り抜けたけれど。


 けれど、それで終わりじゃなかった。今度は「ギターができる」「ピアノも弾ける」と言い出し、なんでもできる“自慢のお兄ちゃん”に仕立て上げられた。友達の前で満足そうに僕を自慢したあと、必ず「本当はもっとすごいんだけどな」とつぶやく。……僕の努力も認めてほしい。比べられる身にもなってほしい。


 ……それでも最近は、もう僕に期待することはなくなった。むしろ心配ばかりしてくる。まったく──乙女心は難しいね。

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