4
食堂でデザートを二つ──アイスクリームと大学芋を並べて頬張りながら、僕は思う。やっぱり最高だね。甘いものを食べているときと、読書をしているとき。この二つの時間は、何よりも甘美だ。
それから、ふと思う。どうして最近、こんな奇妙な世界に招待されるんだろうか、と。特別なことをした覚えもないし、悪いことをした記憶もない。なんだか理由が分からない。強いてあげるとするなら……うーん、何だろう。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか五限目の授業も終わっていた。席を立ち、鞄を背負って大学を後にする。
日もだいぶ暮れてきた。
ん、猫だ。しかも黒猫。
おーい、と心の中で声をかける間もなく、横切っていった。
……ついてない。
これは僕のジンクスなんだけど、黒猫に横切られると、良くないことが起こる。いや、起こる気がする、じゃなくて実際に起こるのだ。
そう、三か月前のあの日もそうだった。黒猫に横切られてから──僕はこの奇妙な世界に招待されるようになった。
にやぉあー。
次の瞬間、右足が地面に沈んだ。ずぶり、と土が水のように僕を飲み込む。バランスを崩し、思わず手をつく。掌に土の湿り気が張りついた。
やっぱり暗くなるとダメだね。あとあの黒猫、いつか水に沈めてやる。
僕は毎日泳いでいる。クラブで。だからわかる、今の僕は泳ぐしかない。すでに体の半分が地面に沈んでいる。走るのは無理だ。今日も一キロ泳いだばかりで、腕には疲労が溜まっているのに──あぁ、顔まで浸かりはじめた。
この世界は無駄に親切だ。ちゃんと呼吸だけはできるようにしてある。
だが地中には、魚のようなものが潜んでいる。体の一部を食い荒らされたまま、赤い目をぎらつかせて僕を追ってくる。あれに噛まれると体中が攣りだす。めっちゃ痛い。一匹に噛まれたら、すぐに百匹が群がる。
僕は、あるはずのない底へと沈んでいく。悶えながらね。ある一定の深さになると、奴らはもう追ってこなくなる。それもこの世界のルールなのだろう。
ちなみに、ここでも時間と距離の関係は守られる。大学から駅までは歩いて15分。そのあいだ僕は、沈んで、泳いで、を繰り返しながら抜け出す。
……でも正直、計算は合わない。
しかも忘れてはいけない。僕は背中にリュックを背負い、服と靴を身につけたまま泳がなければならないのだ。必死に腕を使って液体を体の後ろに押しのけても、布地や荷物が抵抗になって前に進まない。バタ足も靴のせいで力が抜け、思うように水を掴めない。僕は腕で泳ぐタイプだからまだいいが、リュックが腰を沈めて浮力を奪うから、結局はうまく進めない。
視界は夜の海のようだ。かろうじて水面付近に月の明かりが漂っているのを感じられる程度。
っ。
今日もたぶん間に合わないかな。
それでもこの奇妙な世界は、無理やり帳尻を合わせてくる。──僕が往復シャトルランしていたことにすることで。




