一章 波乱の舞踏会 6
再びオーケストラの演奏が流れ出す。
それを合図に、ヴィシュー皇太子とシヤリーが社交ダンスに興じだした。互いに密着しつつ、見つめ合いながら微笑み返しており、なんとも楽しそうである。
他の人々も舞台袖に移動し、二人の様子を見物していた。
とりあえず私も考えるのを止めて、踊りの舞台へと視線を向ける。
そろそろ次の曲が始まろうとしていた。
ふと二人の方へと誰かが近づいていく姿があった。
ナンリー姫殿下である。だが先程までとは異なり、様子が変だった。顔は俯かせて表情までは解らず、足取りがふらつきながらで辿々しい。
真っ先にシヤリーが気がつき、踊るのを止めて、顔を振り向かせた。
「ナンリー!!?」
すると同時にヴィシュー皇太子が動き出す。ナンリー姫殿下の目の前に立ちはだかる様に、間に割って入って行った。
「ふん!」
「!?…ぐぁっ!!」
しかし次の瞬間には、ナンリー姫殿下が素早く逆手の状態で右腕を振り上げる。手には果物ナイフを持っており、目の前の相手を切りつけていた。
対してヴィシュー皇太子は、辛うじて腕で防御していた。だが前腕部分を怪我をしてしまい血を流しており、苦悶の表情を浮かべていた。スーツにも亀裂が入り、大きな血の染みが滲みながら浮かび上がっていた。